日本最北端の町、稚内からオホーツク海側を南方向に100㎞余り。道南の江差町と区別して「北見枝幸」と呼ばれる枝幸町は北海道で9番目に大きな自治体で、オホーツク海と広大な山々に囲まれた、山海に愛される町です。夏は30℃に迫り、冬には流氷も訪れる枝幸町は、漁業や農業など第一次産業を中心に発展してきました。
枝幸町市街地から少し離れた海沿いの一画に、本日の取材先の(株)オホーツク活魚はあります。
(株)オホーツク活魚は1987年に設立された、活魚・鮮魚出荷、加工事業を行う会社です。こちらの会社は、オホーツクの魚の価値を最大限に高めることを会社の目標として、様々なことに取り組んでいます。
オホーツクの魚に最大限の価値を
お話を伺ったのは、(株)オホーツク活魚代表の藤本信治さんです。藤本さんは地元の高校を卒業後、東京水産大学に進学。漁獲について学びました。そして大学卒業の時期に、(株)オホーツク活魚が創業。22歳で北海道に戻り、こちらで働き始めました。
「オホーツク活魚は父の藤本隆治が立ち上げました。もともとは藤本漁業部という漁業者で、1968年から猿払村を拠点に定置漁業に従事していました。そこで、魚を獲ることから、獲った魚に付加価値を付けて売ることに商機を見出したんです」
藤本漁業部が水揚げした魚を、オホーツク活魚が加工し、全国の販売店や飲食店に向けて出荷。「地元オホーツクの魚の価値を最大限引き出す」をモットーに、日々活動されています。 創業当時は高度経済成長期からバブル期を迎え、水産業界では活魚(生きた魚)の需要が高まり、生け簀のある鮮魚販売店や飲食店が多数できました。オホーツク活魚では、生け簀を海中に設置。獲った魚を大きく育て、元気な状態で流通にまわすルートを構築しました。現在は、新鮮な魚介からの加工品も製造しています。
「オホーツク活魚は社名に活魚とあるように、魚の鮮度に対してはこだわりを持っています。オホーツクで獲れる魚はどれも本当に美味しいものばかり。その美味しさを最大限に保って市場に出すことで価値が高まり、ブランド化に繋がるんです」
また、藤本漁業部とオホーツク活魚は、平成24年に水産資源と環境に配慮した漁業を認証する「マリン・エコラベル」も取得しています。マリン・エコラベルの認証は、漁業資源と生態系の保護が持続的である「生産段階認証」と、その認証を受けた水産物が最終製品として消費者に届くまで、認証された水産物以外の水産物が混入されていないことを証明する「流通加工段階認証」の2種類があり、前者を藤本漁業部が、後者をオホーツク活魚がそれぞれ取得しています。
様々な技術と設備で美味しさを届ける
いい素材をいい状態でお客様に届けたい。オホーツク活魚の根本とも言えるその思いは、様々な技術や設備・工夫に込められています。藤本さんは本社敷地内にある大きな建物を案内してくれました。
こちらではオホーツク活魚のこだわりの一つ、「パーシャル窒素氷」を製造しています。パーシャル窒素氷とは、前浜の清浄な海水と水道水を混ぜて塩分を調整した水に、加圧した窒素を注入した氷のこと。フレーク状の窒素氷は酸素をほとんど含まないため、細菌の繁殖や酸化を抑制する効果があります。また、この氷を使うことで、通常のチルド(0℃から5℃)より低い温度(-1℃から-3℃)を保つことができるとのこと。これによりパーシャル(微凍結状態)での輸送が可能になりました。
このパーシャル窒素氷は、窒素水・窒素氷で特許を持つ株式会社昭和冷凍プラントとの共同で開発したとのこと。ここまでの設備を揃えている水産業者は、そう多くないそうです。
ちなみにフレーク状の氷は、40年以上前の先代の時代から活用しているとのこと。フレーク状の氷は魚の表面を傷つけにくいのが特徴。この氷を船に持ち込み、獲った魚をいい状態で運ぶことに注力していたそうです。 その他にも、こちらの敷地内には多くの生け簀が設置されています。その数なんと合計で20基ほど。
「水揚げされたホタテは、この生け簀でしばらく畜養して活力をつけます。水揚げされて運ばれたホタテはやはり弱りますから、ここで元気な状態にして出荷や加工をするんです。この設備に入れることで砂を吐かせることもできますし、出荷量の調整もできるので安定した生産ができるんです」
私たち取材班が枝幸町を訪れたのは8月の下旬。この日はオホーツクエリアでも30℃を越える気温。流石にこの気温では生け簀の海水の温度も下がらず、逆にホタテが弱ってしまうとのことで、この日は涼しい冷蔵庫内の生け簀で休んでおりました。
これからの仕事のあり方、新しい雇用の創出へ
オホーツク活魚では鮮度を保持する施設として、大型の冷蔵・冷凍設備を備えています。こちらの冷蔵庫では全方向から海水や水道水、それに電源を取れるようにしているとのこと。ここで様々な加工作業が可能になります。 さらにオホーツク活魚では、新たに急速冷凍庫の設置とそれを格納する建物の建設を進めています。こちらは令和5年内に完成予定とのこと。-40℃で5〜6tもの原料を冷凍できるかなり大容量のもの。こちらが稼動することによって、年間を通して安定した出荷が可能になるそうです。
「店舗や販売店への出荷や一般ユーザーへの販売だけでなく、これからは水産物の原料供給としての仕事も構築していきたいと思ってます。この地域は安定した鮭の水揚げがあるし、その他にも様々な種類の魚が揚がります。旬の時期に揚がった魚を急速冷凍して、いい状態を維持することによって、新たな売り先も確保して行きたいですね。海外への出荷も視野に入れてます」
「こういった設備が整ってくると、冬場の仕事の安定にも繋がります。この地域は12月〜2月までは流氷が来るので、その間は魚が揚がって来ないんです。冬場の仕事はどうしても少なくなります。うちはまだ人数が少ないので通年で雇用していますが、冬場は一旦従業員を解雇する会社も、このあたりでは少なくないんです。いい状態で保存した原料を、冬場の加工の仕事に繋げることで、年間通して安定した仕事を確保することができます。そのサイクルがうまくまわれば、また新たな雇用を生み出すこともできると思うんです」
オホーツク活魚では現在、社長を含め11名のメンバーで運営しています。今後は若いスタッフを採用して、知識や技術を継承していくことも考えているそうです。新たな雇用を生み出し、地域の活力を生み出していく。しっかりと先を見据えた社長の目線が、とても印象的です。
もっと手軽にオホーツクの魚を食べて欲しい
オホーツクの魚をもっと身近に、という会社の思いは、こちらで開発されている様々な商品にしっかりと込められています。真空冷凍した魚介を、電子レンジで簡単に調理するレンジ調理提案。これで煮るだけで、魚種を選ばず本格的な煮魚に仕上がるという万能タレの開発。その他にも、魚料理の大変さや難しさを解消する、様々なオリジナル商品が展開されています。
こういった商品開発にメインで携わっている、専務の升田義則さんにもお話を伺いました。升田さんはこちら枝幸町出身。水産に関わる仕事に関わり30年以上のベテランです。春はタラバガニや毛ガニ、夏はツブやホタテ、秋からは鮭など、1年を通して様々な種類の加工に携わっています。
「これまでずっと水産の仕事に関わってきて、せっかくいい物が揚がるので、もっと簡単に気軽に食卓上がればいいなと思ってました。以前は簡単に食べられる商品ってそんなに無くて、それなら何か作ろうって思ったんです。やっぱり海に関わる仕事が好きだったので、皆さんに喜んでもらえるようなものを作りたいって思ってましたね」
時間が無い中でも簡単に調理ができて、美味しい魚料理が手軽に食卓にあがる。消費者の立場から見たら、嬉しいことばかりですね。 新しい商品を開発する上で、こだわっている部分や気にかけている部分はありますか?と質問してみました。升田専務は柔らかな笑顔で語ります。
「網元の藤本漁業部から、毎日本当にいい物が揚がってくるんです。その素材の良さを損なわないように邪魔しないように、ということは意識しています。あとは本当に簡単に食べられることですね。日頃から魚を調理する方は気軽に手に取れるんですけど、習慣が無い方ってやっぱりなかなか手を出さないんです。他に食べるものはいっぱいあるしね。ちょっと試してみようかなって、その気にさせることが大事なんですよね」
もっともっと新しい商品を作りたい
升田専務が手がけた加工商品は、鮭やホタテの他にも、ホッケ、ニシン、カレイ、カスベなど多岐にわたります。それだけこちらで獲れる魚種は豊富だということ。それぞれの魚にあった味付けを考えながら、今も試行錯誤をしているとのことです。
「特に調理について学んだわけではないんですが、自分で作って食べてみて、色々試しながら作ってます。今挑戦してるのは『蟹まん』と『ホタテカレーまん』ですね。まだちょっと苦戦してて、いつ商品化できるかは未定なんですけど。少し贅沢なご当地土産になったらいいな、って思いながら頑張って作ってます。生ものだけじゃなくて、手軽に食べられる枝幸ならではのものがあったら、ちょっといいでしょ?」
いいですね!蟹まん!ホタテカレーまん!
枝幸町の新たな名物が生まれるのも、そう遠くないのかもしれませんね。
「一緒に働くメンバーがもう少し増えたら、もっと加工の方に力を入れられると思うんですね。そういう状況になるように、まずは今頑張ります!創りたいものや試したいものが、まだまだ沢山ありますからね!」
北海道の漁業が、この先も続いていくために
取材中とても印象的に感じたのは、ここで働いている皆さんがよく会話されていることと、笑顔が常に絶えないこと。本当に家族のような雰囲気で、いきいきと働かれていました。藤本さんや升田さんの人柄が、そのまま表れている職場だなと感じます。
オホーツク活魚が見据える先は、北海道の魚がこの先もずっと食卓にあがること。藤本さんはそう語ってくれました。水産資源を大切にして、しっかりと漁獲を確保すること。揚がった魚に価値を付け、水産に携わる人たちの生活の安定に繋げること。新しい働き手を育てていくこと。考えなければならない課題や、続けていかなくてはならないことは沢山あります。生活者がもっと魚を食べることも、その見据える先に繋げていくための大事な要素なんだと思います。
オホーツクの海で獲れた魚は、様々なかたちで全国に出荷されていきます。そんな魚たちをお店や販売店で見かけたとき、こちらで出会った方々のことを、この先きっと思い出すんだと思います。 オホーツク活魚では、直営のネットショップ「オホーツク活魚ネット」も運営しています。こちらでは冷凍の商品から味付きの商品まで、幅広く展開しています。気になった方はぜひご覧になって下さい。お話を伺った私たちも、この地で揚がる魚と、それを全国に届けるみなさんの笑顔に、強烈なパワーをもらった取材でした。
- 株式会社オホーツク活魚
- 住所
北海道枝幸郡枝幸町目梨泊83番地
- 電話
0163-62-4553
- URL
オホーツク活魚ネット
https://okhotskkatugyo.net/