家事代行サービスという言葉が当たり前のように認知されるようになったのはここ数年。10年ほど前までは「それ何?」「家政婦さん?」という反応が多かったように思います。しかし、スピーディーな時代の変化とともにライフスタイルも多様になりました。出産後も働く女性が増え、子育てしながらの共働き家庭も増えました。また、核家族化、高齢化という社会背景もあり、家事をサポートしてほしいという人は老若男女問わず増えています。今回は、2015年に家事代行サービスの会社として創業した「ライトハンズ」に伺い、代表とスタッフの方たちに、仕事に対する想いや働き方などについて聞いてきました。
家事がキライ。だからこそ必要とされるのではないかと家事代行サービスで起業
「実は家事が苦手で、排水溝が触れないくらい、家事ができないし、キライだったんです」
「ライトハンズ」の社長・江原恭史さんの口から出た言葉は意外なものでした。
生まれも育ちも札幌という江原さん。長い間、サラリーマンとして音楽業界に携わり、札幌、旭川、仙台、東京と、数年ごとに転勤する生活を送っていたそう。
「いつか起業したいなという思いはありました。ただ、何の業種でというのは決まっていなくて、とにかく人の役に立つ仕事で起業したいと考えていました。そんなとき、独身時代に家事がキライで、家事をやってくれるサービスがあったらいいなと思っていたことを思い出して、自分のような人はたくさんいるのではないかと...」
そうして、家事代行サービスを行う会社「ライトハンズ」を立ち上げることに。音楽の世界からまったくの畑違いとなるこの業界へ飛び込む際、創業は故郷・札幌でと決めていました。
「東京で起業することもできましたが、故郷に恩返しをしたい、地元で自分の力を試したいという気持ちもあって札幌でスタートすることにしました。当時は家事代行サービスという言葉もまだ耳慣れない頃で、何するの?とよく聞かれました」
まずはたくさんの人に知ってもらうことが大事だと考え、最初はスポット的な窓拭きやハウスクリーニング、住宅メーカーの美装、マンションの共有部の掃除なども請け負ってきました。
「絶対に家事代行サービス業を根付かせようと、気合で突っ走っていましたね。最初の3年間は、とにかく場数をこなして、自分の腕を磨くことに注力。自分ができなければ人にも教えられないですし、自分の技術とノウハウ確立に費やした時間でしたが、とても大事な時間でしたね」
とはいえ、そもそもキライだった家事の一つ・掃除をやることに抵抗はなかったのでしょうか。
「キライだからこそ要領よく、スピーディーにできるんです。そして、利用してくださるお客さまと近い視点に立てるから、ニーズを的確にキャッチしやすいという利点もあります」とニッコリ。とはいえ今でも家事はキライと話し、「でも、人のためなら動けるんです。自分のためにはできないけれど...」と笑います。
顧客も社員の数も増え、創業から8年経った現在、人手が足りないほど引く手あまたの人気企業に。「ご縁のあったお客さまを一人ひとり大切に、丁寧に仕事をさせてもらっていただけ。気付いたら、こうやってたくさんの仲間やお客さまに恵まれたという感じです。人の役に立つことをしたいと思って起業しているので、やはりお客さまに喜ばれるのはうれしいですよね」と話します。
楽しむ・気遣い・コミュニケーション。この3つを大切にやりがいのある環境を整備
家事サービス代行業の仕事は、スタッフと委託契約を結び顧客のところへ派遣するスタイルが8割近くと言われていますが、ライトハンズは正社員、パートすべてのスタッフと雇用契約を結び、直接雇用をしています。
「安心して働ける環境を整えることで、スタッフが仕事にやりがいを見出し、楽しんで取り組めると思うんです。楽しんでやること、気遣いや気がつくこと、コミュニケーションを取ること。この3つが仕事をする上で大事だと思っています。そして、会社としてもこれを大切にしています」
江原さんは、雇用形態だけでなく、働き方や職場の雰囲気作りに関してもスタッフへの「気遣い」を徹底しています。今いるスタッフの大半が主婦であり、家事や育児があることから、残業は基本ゼロ、有休取得もしやすいよう配慮。さらに月に1回はスタッフを集めて食事会も催します。
「家事代行は基本1人で作業し、直行直帰。日々報告はあげてもらっていますが、作業内容などに不安や疑問が出てきたとき、すぐに相談できる仲間や先輩がいるかどうかで働きやすさは大きく変わると思うのです。そのためにもスタッフ間がコミュニケーションを持つ場を会社から提供しています。同じ仕事をしているせいか、普段会わないスタッフ同士でもすぐに打ち解けて、仲良くなっていますね」
「スタッフが自分の意見や思いを言いやすい環境を大事にしている」と話す江原さんは、自身からも困っていることはないかスタッフへまめに連絡を入れているそう。
「人は鏡と言うように、自分がきちんとスタッフへの気遣いを大事にしていないと、スタッフもお客さまへの気遣いを大事にしなくなってしまいます。こういうのは連鎖していくものだと考えているので、気を付けています」
信頼できるスタッフの転居に伴い、帯広支店を立ち上げ
現在は、札幌のほか、帯広にも支店があります。帯広支店は2022年にオープンしたばかりですが、十勝エリアでの家事代行サービスは珍しく、すぐに話題となりました。
「以前から帯広進出は視野に入れていました。一次、二次、三次産業が盛んで、家族総出で仕事をしている家庭も多い十勝エリアは、家事代行サービスのニーズがあるのではないかと思っていました。そうしたら、帯広出身のスタッフが1人、そちらに戻ることになり、人材がいるならもうすぐにはじめようと帯広支店を立ち上げました」と江原さん。
そのスタッフというのが、上田紗都子さん。パッとその場が明るくなるような笑顔と話し方が印象的です。上田さんは短大を卒業後、札幌の家具店、帯広の作業服の店などの勤務を経て、帯広で結婚。夫と2人のお子さんと一緒に暮らしていましたが、39歳のときに夫の転勤で札幌へ。
「仕事はしようと思っていたので、札幌に引っ越してわりとすぐに合同企業説明会に参加したのですが、そのとき『ライトハンズ』を知りました。もともと掃除が好きだったので、これならできるかもと思っていたら、あれよあれよと働くことになりました」
仕事をはじめてすぐのころは、時間内に作業を終わらせることに難しさを感じたそう。家の間取りや家族構成、ライフスタイルもすべて異なる上に、「各ご家庭の道具を基本的にお借りして掃除をするのですが、道具もいろいろなので最初は戸惑うこともありました」と話します。それでも、少しずつ慣れてくるとやりがいを感じる瞬間も増えていきました。
「ご高齢のお客さまで、ご自身ではなかなか掃除できないような高いところもキレイにしていくと、とても喜ばれたり、見えないところもキレイにしていると、後日気付いて感謝の言葉を言ってくださったり...。喜んでくださることがやりがいにつながります」
鏡や窓ガラス、水垢のつきやすいステンレスの部分などもピカピカに磨いたり、ボトルの向きを揃えてきちんと並べるなど、細かな部分まで丁寧に作業。掃除が終わって時間がある際は、要望に応じて整理整頓、片付けも行うそうです。
「長く通わせていただいているお宅は、気が付くと部屋の乱れが少なくなっている気がします。私たちが定期的に通わせていただくことで、皆さんの日々の生活にも良い変化が出ているのかなと思うとうれしいですね」
楽しく仕事をしていた上田さんですが、2022年の夏、帯広へ戻ることになります。好きなこの仕事を辞めなければならない...と江原さんに伝えると、「じゃあ、帯広支店を出そう」と想像もしていなかった展開に。「継続してこの仕事ができるとは思ってもいなくて、びっくりしましたがうれしかったです」と話します。
「上田さんは札幌でもお客さまからの信頼の厚いスタッフでしたし、上田さんがいてくれるなら帯広を立ち上げてもいいなと思ったので、すぐに行動に移しました」と江原さん。
子育てしながらでも働きやすいよう、希望に応じて働く時間の融通をつけてくれる、有休が取りやすいなど、メリットがたくさんある「ライトハンズ」。上田さんは、「札幌にいるときは、子どもの保育園探しも社長が手伝ってくれたりして、本当にいつも気遣ってくれるのがありがたいです」といったエピソードも教えてくれました。
住み慣れた帯広に戻り、毎日充実していると話す上田さん。ハウスキーピング協会認定のクリンネスト1級にも見事合格しました。「これからは家事代行サービスがまだまだ浸透していない十勝エリアで、私たちが広げていけたらいいなと思います。家事代行サービス=ライトハンズ。そう思ってもらえるように頑張りたいですね。お金持ちだけが使うサービスと勘違いしている方もまだいるようですが、そんなことはないので気軽に利用していただきたいですね」と、最後に語ってくれました。
アルバイトから正社員、そしてマネージャーに。産休育休後も活躍の場がある喜び
次に札幌でマネージャーとして活躍している西尾幸さんにお話を伺うことに。神戸出身の西尾さんも実は帯広に縁があります。
「高校卒業後、農業系に興味があり、帯広畜産大学へ進学。4年間、十勝でアルバイトや勉強に励んでいました。農家のアルバイトにも行きましたね」
卒業後は札幌へ。北海道が好きだったので、神戸へは戻らず、就職の選択肢が多い札幌を選んだそう。「ライトハンズ」へはアルバイトで入社。家事代行サービス=主婦というイメージが強く、この仕事を選ぶのは意外な気もします。
「大学時代、いろいろなアルバイトを経験しましたが、せっかくならやったことのない仕事に挑戦してみたくて(笑)。割と掃除は好きだったので、これならできるかもと思って入社しました」
程よいテンポでハキハキと話す西尾さんは、笑顔がとてもチャーミング。まだ30歳になったばかりと言いますが、落ち着いた雰囲気もあり、この人なら任せられるという安心感もあります。
丁寧な仕事ぶりが認められ、半年で正社員に。3年前にはマネージャーにも昇格しました。着実にステップアップしている西尾さんですが、実はこの間に結婚、2人のお子さんを出産。2回の産休育休を経て、現在に至ります。
「育休明けでもきちんと戻ってくることができる場所があるというのは本当にありがたいと感じています。下の子を出産後、この4月から復帰したのですが、今は週5のフルタイムで仕事をしています」
現場の仕事もこなしながらマネージャーとしての業務も担当。1日に2~3カ所訪問し、合間に事務所に寄って事務仕事をこなしたり、ほかのスタッフと面談したりしています。
「この仕事は基本1人作業で、社内の人と話す機会が少ないため、面談はとても大事だと思っています。1人だと不安なこともあるでしょうし、もっと面談の時間を取れたらと思っています」
この仕事をはじめてから、限られた時間内で仕事を行うための段取り、手際の良さなどが身に着いたという西尾さん。仕事を通じて得たスキルは実際に自身の家事でも役立っていると話します。しかし、仕事で一番重要なのは、「掃除のスキルや料理の腕前よりも、日々のコミュニケーションです」とキッパリ。「お店の接客サービスと異なり、人のお宅へあがって作業をするサービスなので、気遣いも必要ですし、コミュニケーションは大事。コミュニケーションが取れて、はじめてお客さまと信頼関係を築いていくことができます」と続けます。
また、家事代行は毎回同じ仕事内容かと思っていましたが、「同じお宅でもやることは毎回のように違います。毎日新鮮な気持ちで仕事に取り組めるのも魅力のひとつかもしれません」と西尾さん。
どんな人がこの仕事に向いていると思うか尋ねると、「1日や2日ですぐにモノになるような仕事ではないので、真面目にコツコツ頑張り続けられる人が向いていると思います」とのこと。西尾さんも長く仕事を続けている中で、「赤ちゃんだったお客さまのお子さんが小学校に入られるなど、その成長を見ると感慨深くなります。こんなに長い期間、そのご家庭に関わらせていただいていることにありがたさも感じますね」と最後に話してくれました。
十人十色のスタッフが活躍。長く働き、ここで良かったと思ってもらいたい
上田さんも西尾さんも明るくて笑顔がステキな女性。江原さんは「うちにいるスタッフは十人十色で、さまざまなタイプがいます。上田や西尾のように親しみやすい人もいれば、真面目で実直なタイプも。でも、それでいいと思っています。野球チームのように1番バッターから9番まで揃っていて、それぞれ役割や特性は異なるけれど、どの人も必要。会社のスタッフも同じように、それぞれの活躍の場があると考えています」と話します。
「AIによる家事のロボット化が進んでも、僕たちがやっている仕事は残っていくと思っています。だから、目先の利益だけを追うのではなく、スタッフを大事に、長く働いてもらえるようにと思っています。スタッフが60歳、70歳になったとき、ライトハンズで働いてよかったなと思ってもらえるような会社にしていきたいですね」
- ライトハンズ株式会社
- 住所
北海道札幌市中央区南20条西8丁目2番23号
- 電話
011-252-9802
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