「鉄鋼スラグ」と聞いても、一般の人にはなかなか馴染みがないかもしれません。
簡単に説明すると、鉄鋼スラグは、製鉄所で鉄が作られる過程で、鉄鉱石から鉄以外の成分を取り除くために回収される副産物。製鉄所では鉄と一緒に鉄鋼スラグも産み出されるとイメージしてもらえば概ね正解です。
日鉄スラグ製品(株)は、室蘭に製鉄所を持つ日本製鉄のグループに属し、長年、鉄鋼スラグの販売を手がけている会社。鉄を作れば作るほど鉄鋼スラグも産出されるので、その販路をしっかりと確保することが同社の使命です。現在の社名になったのは最近ですが、前身の会社からは約100年の歴史を誇ります。
目に見えないところで、私たちの生活を支える大事な素材です
「強い道路」を支える、路盤材としての鉄鋼スラグ
鉄鋼スラグの主な用途は土木資材です。私たちが使う道路は、アスファルトの下層に路盤材と呼ばれる資材が敷き詰められ、これにより車が走っても簡単に壊れたり崩れたりしないよう強度が保たれています。
鉄鋼スラグはその路盤材として使われることが多く、「価格・量ともに安定供給が可能」「道路の強度が増す」など複数のメリットがあることから、常に一定の需要があります。
「路盤材には砂利や砕石が使われることも多いですが、それらと違って、使用方法が細かく決められているのも鉄鋼スラグの特徴です」。そう教えてくれたのは、同社の室蘭事業所に勤務する小山哲也さん。
こちらが小山哲也さん
「当社の取引先は、建設会社や道路舗装業者が中心です。道路工事の際には営業が注文を受けて、日本製鉄に必要量のスラグを発注。それを現場に納入する手配を行う...というのが基本的な流れです。鉄鋼スラグが正しく施工されているかどうかの確認も当社で行っており、工事完了後に問題が生じていないか、追跡調査も実施しています」
余談ですが、小山さんは2011年に日鉄スラグ製品(株)の前身となる会社に入社。そのきっかけはゴルフ場でのアルバイトでした。
「地元の室蘭で就職したいと考えていて、ゴルフ場でバイトをすれば、「企業のエライ人たち」と知り合いになれるかもと思ったんです(笑)。実際、アルバイトを始めてからしばらくして、前の会社の上司と知り合うことができ、『ウチに来ないか?』と誘ってもらったというのが入社の経緯です」
当時は「鉄鋼スラグ」というものの存在すら知らなかったという小山さんですが、日本製鉄グループという安心感から入社を決意。今ではキャリア10年以上の中堅社員として、会社の中心となって活躍しています。
海でも活躍する鉄鋼スラグ!ブルーカーボンにも貢献
鉄鋼スラグは路盤材としての需要が中心ですが、それ以外にも、セメントの材料になったり、農地に施す肥料になったり、さまざまな用途があります。
「最近注目を集めているのが海の再生材としての活用です。今、北海道沿岸では磯焼けの被害が深刻化していますが、鉄鋼スラグを用いた製品を使うことで、海を復活させられる可能性があるんです」
ジオラマで見ると、スラグ製品の活躍がよくわかります!
磯焼けとは「海の砂漠化」とも言われ、沿岸から海藻などが減少してしまう現象。ワカメやコンブが採集できなくなるのはもちろん、海藻を餌とするアワビやウニが減ったり、海藻を住み処とする魚が少なくなったりするなど、漁業への影響は甚大です。
磯焼けにはさまざまな原因があるとされますが、そのひとつが鉄分をはじめとする海の栄養分の不足。製鉄の副産物である鉄鋼スラグによって不足した鉄分を補い、海藻の生育を促そうという取り組みが始まっているのです。
『ビバリーユニット』という製品は、波打ち際に埋設することにより、海に、鉄分などを供給します
「親会社である日本製鉄は、2004年から磯焼け被害が深刻な増毛町において、漁協と共同で『ビバリーユニット』という製品を用いた藻場の造成に取り組んできました。この製品は、鉄鋼スラグと腐葉土を混ぜ合わせてヤシ繊維の袋に入れたもので、海中に沈めることで、鉄分を供給します。
増毛町では2014年からビバリーユニットの大規模造成が展開され、造成1年後の2015年に0.6haだった藻場が、8年目の2022年には3.3haと5.5倍に拡大していることが確認されました」
藻場の再生は漁業にプラスになるだけでなく、温室効果ガスCO2の削減にも意義のある取り組み。海藻類は成長のために多くのCO2を吸収することがわかっており、森林に吸収される「グリーンカーボン」に対し、「ブルーカーボン」と呼ばれて、注目度が高まっています。
新たに始まろうとしている森町での試験施工。海の復活に祈りをこめて。
「実は最近、道南の森町でも藻場の再生を目的とした試験施工が始まろうとしているんです」
聞けば昨年の夏、小山さんが鉄鋼スラグの営業で訪れた際に、同町がゼロカーボンを目指しているという話になり、小山さんは日本製鉄が取り組んだ増毛町の事例を紹介。その後、町長とも面会する機会を得て、ビバリーユニットの試験施工が決まったと言います。
「自分はあくまで路盤材としての鉄鋼スラグの営業に行ったつもりだったので、まさかこんな展開が待っているとは想像もしていませんでした。試験施工自体は親会社に引き継ぐことになりますが、そのきっかけを作れたことは嬉しく思っています」
森町で藻場再生のチャレンジが始まるのは2023年秋。豊かな海の復活を祈って、くらしごとチームもエールを送り続けます!
- 日鉄スラグ製品 株式会社
- 住所
北海道室蘭市東町2丁目22-5 ビライーストタワー1F
- 電話
0143-41-1151
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