安平(あびら)町の人たちが快適に生活できるように、道路などの重要インフラの補修工事や除雪作業を行っているのが、株式会社阿部土建です。胆振東部地震の時には、復旧のためとにかく奔走したといいます。
阿部一二社長。地域を支える土建会社の二代目として活躍しています
「食べる以外の時間は働いていたね。お風呂に入れたのは5日目かな」と振り返る阿部一二(かずつぐ)社長。ちなみに、自宅の電気と水は10日間止まったままだったとか。
経理・営業事務担当の若松由紀子さん。はつらつとした笑顔が素敵なスポーツウーマンです
「うちの社長は、頼まれたらイヤと言えない性格なんですよ」と話すのは、事務職にして重機免許を持ち、除雪車やダンプカーも扱う若松由紀子さん。阿部土建には「道路のこの部分を直してほしい」「雪の吹きだまりをどけてほしい」という依頼が多く、社長も自ら現場へ向かいます。
若松さんも現場に駆り出されることがあるそうで
「社長と私だけで現場の丸太杭を打つ作業をしたこともありますよ。私が丸太を支えて、社長が上から杭を打って...」
と身振り手振りで説明、愉快そうに笑うおふたりに、つられて笑ってしまう取材班。和やかな雰囲気のなかでインタビューが始まりました。
地震発生で役場に急行、停電・断水の復旧に当たる
(株)阿部土建は、道路、河川、下水道の工事や維持補修、除雪を行っている土木・建設会社。競走馬の生産・育成・調教を行なうノーザンファーム、ノーザンレーシングや観光で有名なノーザンンホースパークの外構工事も請負っています。現在の従業員は7名で、そのほとんどが50~60代のベテラン揃い。安平町役場からの信頼も厚い会社です。
ズラリとならんだ重機たち。道路工事や下水道補修、土木や除雪など様々な現場で活躍しています
ブラックアウト(大停電)で全道に被害を及ぼした、2018年の「北海道胆振(いぶり)東部地震」では、震源に近かった安平町は震度6強を記録。まちでは大きな被害を受けました。地震の後、役場の建物が「停電と断水」との情報が。災害時には役場は司令塔となる重要な施設です。阿部さんはすぐに駆けつけ、懸命な作業の結果、その日のうちに復旧させました。翌日からも町内のあちこちで被害が出た道路などのインフラを補修する作業に当たり、町の迅速な復旧復興に大きく貢献しました。
安平町早来にある阿部土建のコンクリート造の社屋は、阿部社長の父親である先代によって建てられたもの。近辺では地震でかなりの建物被害があったそうですが、阿部土建の社屋は無傷だったそうで、先代の腕の確かさがうかがえます。
コメ農家から土木建設業へ、引き継いだ2代目の苦労
2代目社長の阿部一二(かずつぐ)さんに、先代からの会社の歩みを聞いてみましょう。「元々はこのあたりでコメをつくる農家だったんだよね」と語る一二さん。しかし、先代は建築関係の仕事がしたいと、苫小牧の会社で建築・土木の技術を習得します。そして41歳の時、独立して阿部土建を創業しました。
息子の一二さんも、父親と同じく異業種への憧れがありました。寿司職人に憧れて学校を中退、小樽のお寿司屋さんで修業しましたが、2年後に早来(現・安平町)へUターンして父親の会社に入ります。
そのころの阿部土建は、学校の基礎部分や足場をつくる仕事をメインに請け負っており、一二さんは40名ほどの作業員を調整する業務を行っていました。それまで兼業で耕していた田んぼは人に貸して、阿部さん父子は土木・建設業に専念。一二さんの母親も会社の事務として会社を支えました。
しかし、先代は60代半ばで病に倒れます。検査をしたところ、大腸がんが進行していました。亡くなる前の1カ月間で引き継ぎを行い、一二さんは2代目社長として会社を背負うことに。
短期間ですが、引き継ぎの期間があったことで、社長業務も割合スムーズに行ったのでは?そう尋ねると、一二さんは大きく首を振ります。
「金融機関とのやり取りがもう大変で。複数のところと取引をしていたけれど、うちは借金もあったし、どこからも厳しい対応をされたんですよね」
それまで銀行には行ったこともなかったという一二さん、父親から受け継いだ会社と社員を守るべく懸命に金融機関と交渉します。知恵を働かせて、駆け引きをすることもありました。かなり難航はしたものの、応援してくれる人も出てきて、ようやく資金繰りのめどがついたといいます。
「本当に、人に助けられましたね」と当時を思い返すように、しんみりと語る阿部社長、ご本人の「頼まれたら断れない性格」は、お世話になった人たちへの感謝をほかの人に返したいという「恩送り」から来ているのかもしれません。
頼まれると断れない!地酒プロジェクトの代表に
2代目となってから阿部社長は数十年にわたって引き継いだ会社の信頼をこつこつと積み重ねてきました。熟練の社員たちはもちろん、68歳の社長も自ら重機で積極的に作業をします。
「社長が重機に乗るっていうのは、ほかの会社ではあまりないですよねえ」と、若松さんがおどけたように言えば、「体を動かすのが好きなんですよ」と答える社長。ちなみに、趣味のゴルフはセミプロ級の腕前でホールインワンを出したこともあるのだとか。
阿部土建の周囲には、先代が米作りをしていた水田が広がっています。その水田で地元の農家さんたちが育てた酒米を使い、地酒をつくるプロジェクトが発足。阿部社長はグループの代表を務めています。完成した日本酒の名前は「あびら川」!地元産の酒米・彗星を100%使った純米大吟醸で、現在は安平町のふるさと納税返礼品にもなっています。
過去には、お世話になっている銀行の集まりで、15人を相手にお寿司を握って喜ばれたこともあるとか。「頼まれちゃって...」とのことですが、若いころの修業経験がここでいかされたのですね!
さらには、事務の若松さんの娘さんたちが入っていたバレーボールチームの後援をしたりと、社員思いであり、地元の役に立ちたいという思いを人一倍お持ちです。
一方で、阿部社長には経営者としての悩みがあります。それは、求人でなかなか人が来てくれないこと。入社するには、経験や資格が必要なのでしょうか?阿部社長は首を振ります。
「きちんとあいさつができて、分からないことは遠慮せずに質問してくれる。そういった人であれば、職歴は未経験でもかまいません。資格は入社後に取ることができます。人が生活する上で、土木業は絶対に必要な仕事。もっと興味を持ってもらえたらと思いますね」
「安平は子どもを育てやすいまち」事務の若松さん
入社15年目で、経理・営業事務の若松由紀子さんにも、入社のいきさつやお仕事、まちのくらしについてお話を聞いてみました。
阿部土建へは、知人から紹介されて入社。子育て中にできる事務のパートタイムでの勤務でしたが、入社後に大型特殊免許を取得してダンプカーや除雪車も扱えるようになり、現場からの「ここまで重機を持ってきて」というなお願いにも対応できる頼もしい存在です。事務で入ったのにイヤではなかったですか?と聞けば「私は機械が好きなんですよね」とニッコリ。
安平町で生まれ育った若松さんに、まちの暮らしについても聞いてみました。
「私の経験でも、安平は本当に子育てに良いまちだと思いますよ。みんな優しいし、世話好きで困ったときに助けてくれる。私も近所の友だちに子どもをみてもらったりしました。それに、町には総合型地域スポーツクラブがあって、娘たちがお世話になったバレーボール、野球にサッカー、スケートに乗馬と、いろいろな種類があって好きなものに参加できるんです。私は運営スタッフの一員ですが、子どもからお年寄りまでイキイキと活動していますね。この4月からは、町立の小中一貫校『早来学園』ができるでしょう?それも楽しみです」
また若松さんは毎年、東京マラソンに参加することを楽しみにしており、2023年3月の大会にも出場、完走したそうです!阿部土建では、繁忙期に取れなかったお休みを、調整しながら別の日に取れるようにしているので、自分のやりたいことや旅行などに使えるのがありがたいとか。
あたらしいまちづくりに向けて、集約化や多世代交流が進む安平町。子育て世帯が増えてきているというこのまちで、阿部土建という会社が生活の安心・安全を変わらず支えていることを強く感じました。
阿部社長とともに、安平町のインフラを支える社員さんたち。どこか誇らしげですね
- 株式会社阿部土建
- 住所
北海道勇払郡安平町早来新栄887
- 電話
0145-22-2773