北海道最大の玄関口、新千歳空港から車で20分という便利な立地にある安平町。
今から100年以上も前の明治35年(1902年)に、安平町内の森林が日本で初めての保健保安林(※)に指定され、今でも鹿公園として町民の憩いの場となっています。また、かつては石炭を運ぶ拠点としてSL機関車が配置されていた歴史がある、などまちのあちこちには先人達が生きてきた証が。
そんな町に最近若者が増えている林業会社があると聞きつけ、取材に訪れました。
その名も株式会社マルコ小林。
到着してすぐに「マルコ...マルコ...。ん?丸?小? 丸に小林の小だ〜!」と気付かせてくれたのが、これまた会社の歴史を感じさせる蔵でした。
早速株式会社マルコ小林に迫っていきましょう。
(※)保健保安林・・・生活環境保全機能、及び保健休養機能の高い森林、すなわち、人間の健康を守るものとして保護することが不可欠な森林。
会社に若い力を!若者がもたらす変化。
株式会社マルコ小林は元々は木炭の製造と販売・卸しをしていた「小林商店」として、昭和33年に創業しました。
現在は、山での植栽や伐採、丸太を生産する林業と、林道改築等の土木業がメインの会社です。
現在働いている社員は9名。一番年上の社員が47歳で、他に30代が3人、20代が1人。そして最も若いのが新卒の18歳と、年齢構成が非常に若いのが特徴です。
林業業界では従業員の高齢化が課題のひとつとなっている中、株式会社マルコ小林の年齢層の若さには驚き!
専務取締役の小林正暢(まさあき)さんが、その理由を教えてくれました。
「60歳以上の従業員が辞めて一気に人員が減った時に、若い力を入れることに投資をしようと決めました。会社のホームページを綺麗にしたり、求人サイトに募集記事を上げたり。まずはこのまちにこんな会社があることを知ってもらおうと思って」
自社の情報をしっかりとまとめ、そして発信した結果、千葉、新潟、兵庫など、北海道外からの人材も多く集まってきた、と小林さんは振り返ります。
「うちは林業経験の有無は関係なく、未経験者ももちろん採用します。林業経験者はすごく少ないですから、ゼロの状態から育てます。だから求人にも、人材育成にもかなりの投資をしています。今働いている社員のうち3名は入社して1年以内ですが、毎日経験を積んで、かなり力になってきてくれてますよ」
林業に従事するには必要な資格も多く、人材育成には大変な手間とお金がかかります。
それでも、人を集めることと、人を育てること。この2つに注力してきた結果、確実に会社は変化しているようで...。
「若い奴らで話してわちゃわちゃやってるんで、なんだか楽しそうですよ。会社全体の雰囲気もすごくいい感じです」と笑顔の小林専務。
それでは続いて、実際に働く社員の皆さんにお話を伺っていきましょう。
木に触れられる仕事がしたくて
1人目は、2022年4月に新卒で入社したばかりの島田透衣(とうい)さん。
地元・安平町にある追分高校出身の18歳で、高校卒業後すぐにこの会社に入社しました。
なぜ、林業の仕事に就こうと思ったのか理由を尋ねると、「元々は木彫りに興味があったんです」と意外な答えが!
「小さい頃からなぜか木彫りに惹かれていて、小学校4年生くらいの時にサンタに木彫りの熊をお願いして、クリスマスプレゼントにもらったんです。それがめちゃくちゃ嬉しくて。それ以来木彫りをしたいと思っていたけど、さすがに木彫りだけでは生活が厳しいだろうから、仕事にするなら木に触れられる林業がいいんじゃないかと、親から勧められていたんです」
そんな時、高校の企業説明会で小林専務と出会い、話をしているうちに林業にも興味が湧いたのだそう。
「ネットで他の企業も調べたりしたんですけど、マルコ小林のホームページを見て、好きな木にも関われるし、実家からも通えるこの会社が自分の求める条件に合っているなと思い、入社を決めました」
島田さんは高校で林業を学んだわけではない未経験者。
実際に働いてみて、林業という仕事に対する印象はどうかと尋ねると「楽しいです。作業の中で大好きな木にもずっと触れていられるので」と笑顔。
「動物にも会えたりして、仕事をしながらも自然の中ならではの癒しがあって楽しいですね。今日はキツネに会いました」
今後はチェンソーをもっと上手く使えるようになりたいと意気込む島田さんですが、木彫りをしたいという夢も忘れてはいないようです。
「現場で使わない木をもらって自分でも彫ってみたんですけど、やっぱり難しかったですね。木の種類によっても彫り心地が違うし。練習は今はちょっと休憩中です(笑)」
木に関わるきっかけになった木彫りの熊は、今でも自分の部屋にあるのだと、うれしそうに教えてくれました。
2人目は、川口太郎さん。2021年12月に入社してから丸1年が経ちました。
川口さんは千葉県出身の31歳。農業高校を卒業後はずっと農業に従事してきました。
「全国いろんな所を転々として繁忙期の季節労働者として働いていました。2年前にむかわ町に来てブロッコリーを育てていたんですが、北海道の冬は農業の仕事がなくて。自然の中で働くことが好きだったので、農業以外の林業や漁業の仕事をしたいと思っていた時に、マルコ小林の求人を見つけて応募しました」
今はむかわ町から車で40分ほどかけて、安平町に通っています。
実際に働いてみて林業という仕事の印象はどうでしょうか?
「農業も体力仕事ですが、山の斜面で作業をしたり、農業とは違う体力を使います。でも、やっぱり自然の中で仕事をできるのはいいですね。まだチェンソーも重機も未熟ですけど、伐採の時に思い通りの方向に木を倒せたり、チェンソーでスムーズに丸太を切れたりすると気持ちがいいし、自分が作業した後に山の景色が変わっているのを見ると、達成感もあります」
島田さんと同じく川口さんも林業は未経験でしたが、今後はチェンソーや重機の操作などの技術面をもっと向上させていきたいと言います。
「会社が『とりあえずやってみよう』という姿勢なので、初心者でも色々とチャレンジさせてもらえますね。自由な社風です(笑)」
また、島田さんと川口さんのお二人が口をそろえて言っていたことは「一緒に働く人たちの雰囲気がいい」ということ。
「先輩たちもみんな気さくで、ラフに関わりやすい人たちが多いです」と、社会人1年目の島田さん。
川口さんは「林業の経験があまり無い人が多いですし、入社した時期が同じ人もいますしね。一緒に学びながら切磋琢磨している感じです」と静かに笑います。
「若い力が入ってくると会社の雰囲気が変わる」と小林専務が言っていた通り、自社の社員は自社で育てるという方針にしてからは、ほぼ同じスタートラインに立つ若者たちが、互いに励まし・協力し合い、良い影響を受けながら成長できる雰囲気と環境が、自然と作られていました。
社員が安心して働ける盤石な会社へ。鍵はやっぱり人材育成。
何でも「まずはやってみよう」という株式会社マルコ小林の姿勢には、小林専務ご自身の経歴もおおいに影響しているようです。
聞けば小林専務、なんとプロのスケート選手として活躍していたのだとか。大学卒業後は各地の実業団に所属し、林業とは無縁のアスリート生活を送っていたのです。そこで小林専務はプロスケーターとして技術を磨くことだけでなく、自分自身を商品として営業をすること、管理すること、そしてプロデュースすることを身につけたのだと言います。
31歳で引退し、林業経験ゼロの状態から実家であるマルコ小林で働くことになりました。今から11年前のことでした。
「自分も全くの未経験者からスタート。最初の4年間は、うちにいる若手と同じようにチェンソーを使うところから始めました。当時は今のようにじっくり教えるなんて文化はなかったから、とにかく見て覚えて......という感じでしたね。異色といえば異色の経歴なので、若手たちにも『何歳からやっても遅くない』と言えるのかな」と笑います。
そして、共に働くにあたって小林専務が最も重視していることがあります。
それは、「思いやり」。
「一番重要なのは相手への思いやりなんですよね。たとえ技術があっても、相手への思いやりがなければ仕事はうまく回りません。技術面が平均値でも、思いやりのある現場の方が仕事は進むんです。それに思いやりのある人間は、技術だって後々ついてくるものですから」
小林専務は「集まった若者が定着する会社づくりをしていく段階だ」と意気込みをみせます。
社員がちゃんと定着でき、また、社員に利益を還元できる会社へ成長させるためにも、「思いやり」に重きをおいた人材育成を今後も考えていきたいと小林専務。
さらに株式会社マルコ小林を持続可能な会社にしていくために、今後は事業の多角化も視野に入れているそう。
「今は本当にどうなるか分からない時代なので、次の一手を考えている最中。持続可能な会社にするには、林業だけではなくいろんなことにチャレンジしていかないと、と思っています。どんな業種・事業にも対応できるような盤石な会社にしていきたい。そのためにも、業種・事業が変わっても、柔軟に対応できるような人材育成もしていきたいですね。そうすることが、社員が安心して定着できる、社員に利益を還元できるということにつながりますから」
若者たちと共に、今後どのように進化していくのか。
株式会社マルコ小林のチャレンジは、まだ始まったばかりです。
- 株式会社マルコ小林
- 住所
北海道勇払郡安平町早来大町21番地
- 電話
0145-22-2045
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