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このまちのあの企業、あの製品
当麻町

「やってみよう」でJAXAからSAUNAまで。トウマ電子工業20220928

「やってみよう」でJAXAからSAUNAまで。トウマ電子工業

銃を作る?駐車場には注目のサウナバスも

その会社名を検索エンジンで調べた時、最初に目に入った製品名は「電子銃」でした。

「え、電子銃?日本で銃?」。取材前、勝手に身構えていましたが、旭川の隣の当麻町にある本社に伺うと、二度びっくり。今、サウナーから注目される全国初の「サウナバス」が鎮座しているではありませんか!その横には、キャンピングカーもありました。

1972年創業の「トウマ電子工業」。にこやかに迎えてくださった4代目の只野憲弥社長はエネルギッシュで、ダンディーさもまとっています。

案内してくださる最中、社屋の入り口にある「パウダーアイスメーカー(かき氷機)」の宣材を指さして「JAXAにも納めたんですよ」と、さらっと一言。液体を瞬間凍結し、まるで粉雪のような粒子を作る機器とのことですが、取材チームの頭の中には、はてなマークが浮かび、同時にワクワクもしてきました。

社長室でいただいたのは、まさにかき氷ルックなものでした。シロップをかけているのではなく、オレンジ色のフワフワの細かい氷が器に盛られています。ほどよい甘さと雪のような優しい舌触り...。まさに未体験ゾーンでした。これはなんと、市販の清涼飲料水を自社のかき氷機で、ペットボトルのまま加工したものでした。

聞けば、JAXAは大気圏に突入する時の機器への影響を調べるのに、氷ではなく雪を探していて、雪のような細かい粒子を作れるこの製品に注目したとのことです。

トウマ電子工業は、東芝製テレビのブラウン管用に電子ビームを放出する「電子銃」を生産する専業メーカーとして、只野さんの祖父が創業し、当麻町の企業誘致第一号として迎えられました。液晶テレビが普及したことで、ブラウン管用の電子銃は2021年3月で生産を終了。現在では、高度な技術が必要なX線管や、床暖房やサウナに使われる「遠赤外線ヒートシーター」、世界指折りのスペックでイオンクラスターが発生する除菌脱臭器、冒頭のかき氷機など、さまざまな製品を手がけています。

また車両部門「Touma Auto Project(トウマ・オート・プロジェクト)」として、キャンピングカーの製造販売やレンタルにも力を入れています。駐車場にあったサウナバスは、「Made in 当麻町 ととのう町サウナプロジェクト」を掲げた町が、自然豊かな町内の好きな場所でサウナを楽しんでもらおうと企画し、トウマ電子工業が製作した「ととのえBUS」です。

tohma_ei_7.JPG電子銃 & ブラウン管

社長自ら全国を飛び回り、人の縁で広げる輪

なぜ、これほど幅広い事業を展開しているのでしょうか。シャキシャキとよどみなくトークを繰り広げてくれる只野さんのこれまでを伺っていると、その理由が少しずつ見えてきました。

旭川市内の高校を出て、電子工学を学ぶために専門学校へ進みました。「行くところがなくて専門学校に行っただけで。人生ナメてましたから」と茶目っ気を振りまきますが、テレビの回路の知識や、組み立て技術の基礎を身に着けました。

tohma_ei_19.JPGこちらが只野憲弥社長です

卒業後、本当は大手電機メーカーに進む予定でしたが、あえて市場に商品を届ける長距離トラックの運転手の道を選びました。これも驚きですが、裏には「社長の息子」への反発があったそうです。父親はトウマ電子の2代目社長で、周囲には親が社長ということを伏せていたほど、色眼鏡で見られるのを嫌いました。「『トラック野郎』の世代なのでトラックが好きだったし、反抗期でしたから」と笑って懐かしみます。

転機は、その父親の一言。トラック運転手として仕事を始めるまでに時間があり、当時工場と同じ敷地内にあった自宅にいると、「暇か?会社に来い」と声がかかりました。そのまま、トウマ電子工業での社会人生活が始まり、トラック乗りは幻となりました。

それでも車遊びはずっと好きでした。20代前半には、派手なエアロやカラーリングで装飾された「バニングカー」2台を電装業や宮大工の知人と一緒に製作しました。ホテル代を削るために愛車に乗って、全国各地を回りました。30代になると「いつまでそんな車に乗っているの?」と冷ややかな目を向けられ、仕事でもバニングを使っていたら、主要取引先から「そんな車で出入りするな!」と「出禁」を食らったという武勇伝も。その後はマイクロバスのキャンピングカーを3台乗り継ぎました。

tohma_ei_20.JPG現在の愛車と一緒に!

職場では幅広く組立技術を磨き、やがて工場長に。営業部隊を置いても大きな受注実績につながらなかったため、自ら先頭に立って全国を飛び回りました。10数年前から毎月通う、静岡県浜松市にある世界的なニッチトップ企業では、一日中トイレ休憩なしで面談をこなし、夜は先方の若手を引き連れて繁華街へ。他の社員の「追随」を許さない、圧倒的な営業力を見せていました。現在も沖縄や九州、関東や中部などを訪れています。移動は愛するキャンピングカーで、1日に1,000km以上移動することもザラ。「夜は移動時間ですよ」と、車内での仮眠もいとわず、20代の頃さながらのフットワークです。

2021年までトウマ電子工業の主力だったのは、世界シェア99%という航空機コクピット用の電子銃でした。その関係者から、浜松の企業を紹介されて困りごとの相談を受けました。X線管や医療用検査機のセンサー基盤、事故のあった福島の原発の廃炉に使われるカメラセンサーなどの生産を受託し、今ではこの企業との取引がトウマ電子工業の主力事業になりました。長年の積み重ねが実りつつあり、先方からは「北海道なのに、これだけ顔を合わせてたら、全然遠さを感じないですよね」と言わしめるほどに。

新しい出会いを求め、頻繁に顔を合わせて信頼を勝ち得るのが只野さんのスタイルです。トウマ電子工業であらゆる製品を自ら組み立て、独自に改良して提案することを続けてきただけに、大手でも手に負えないレベルの技術や提案力を武器に、幅を広げてきました。

tohma_ei_3.JPG社内では事業部毎、それぞれの製品を担当しています

福祉事業も。トウマ電子の製品を売る理由

一方で、大きな時代の変化に翻弄されることもありました。

東芝製カラーテレビのブラウン管の電子銃はトウマ電子工業が生産を一手に引き受け、10数年前の最盛期は従業員400人を擁するほどの仕事量がありましたが、主役は液晶テレビに取って代わられ、終焉を迎えました。ミクロ単位の組み立て技術はあっても当時は自社製品がなく、仕事がゼロに近いような苦境も経験しました。そこで只野さんは福祉事業の立ち上げをしている知人の力を借り、畑違いながら福祉を一から勉強することにしました。

2009年に「トウマ生活向上企画」を旭川市内で創立して、就労継続支援B型や居宅介護や日中一時支援、介護タクシーといった障がい福祉サービス事業などを手がけてきました。複数の福祉事業を同時に展開したことで、当時は同業者からのやっかみがあったようですが、只野さんは自分のスタイルを貫きました。そして「衝動買い」で旭川中心部の元専門学校の建物を手に入れるなどし、事業を拡大させてきました。

社名に「トウマ」とあることからもイメージできるように、トウマ電子工業が製造する除菌脱臭器やかき氷機の販売元としても事業を展開しています。しかも、トウマ電子工業としての精力的な営業活動も、トウマ生活向上企画のそれが源流でした。

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「障がいをもつ人は難しいことができない人が多いので、シール1枚貼るだけでもネジを留めるだけでも、なんでもいいから仕事をください、と必死で全国を歩きました。トウマ電子工業のように『組み立てができます!』と売り込むよりも、つながりが増えやすい面もありました」

こうして歩き続けることで、除菌脱臭器の関係者に出会い、製造や販売につながりました。除菌脱臭器はかねて全国の病院や消防機関への販売実績がありましたが、コロナ禍で売り上げが絶好調に。感染症対策に力を入れる道内のホテルや医療機関などから注文が相次ぎ、2021年は4,000台ほどを販売しました。

異業種に果敢にチャレンジしたことでさらに人の輪が広がり、時代の荒波にもまれながら事業を多角化させてきました。

tohma_ei_21.JPG出荷を間近に控えた除菌脱臭器です

「車好き」冥利。特需でキャンピングカーも

思わぬ「特需」に恵まれたという意味では、2016年からと後発の車両部門「Touma Auto Project」もその1つ。アウトドアブームや、コロナ禍での密を避ける傾向も追い風になり、今では完成車があればすぐに売れるほどの好調ぶりで、バックオーダーも控えています。

もともとは床暖房用の遠赤外線シートや除菌脱臭器の営業でキャンピングカーのメーカーを訪問した時、「自分で車両を作ったら?」と言われ、「そう?じゃあつくってみるか」と製作を始めたのがきっかけでした。

tohma_ei_9.JPG実はここは車の中。奥に見える円筒のある部屋がなんとサウナです!

さらに今では、サウナ人気を受けてサウナバスに結びつきました。

縁をつなげたのは除菌脱臭器です。当麻町のふるさと納税の返礼品に選ばれ、サウナーである町長に挨拶した席上、「移動できるサウナを作れないでしょうか?」と打診されました。すでにキャンピングカーとして改造していたマイクロバスを所有していたため、当初想定されたトレーラータイプではなく、そのバスをさらに改造することに。

といってもサウナなど作った経験のない只野社長。「話があったら、とりあえずやってみよう」という持ち前のポジティブさと好奇心で、研究を始めました。

tohma_ei_8.JPGキャンピングカー製作を手掛けるTouma Auto Projectのスタッフさん

車内を高温にする方法や対策が気になるところですが、幸運にも過去の経験が生きました。数年前に知人から、ホテルのマットレスなどを乾燥させる特殊車両の製作で相談を受け、トラックの荷室を30分で100℃まで上げるという厳しいオーダーと悪戦苦闘しました。数か月かけて試行錯誤し、食品や印刷物を乾燥させるジェットヒーターを取り寄せ、断熱方法も入念に考えて実用化にこぎ着けました。このノウハウはサウナバスに応用できました。

頻繁に全国出張していることもプラスに働きました。サウナ付きのホテルに泊まり、木材の組み方や吸排気、ストーブを研究。本場フィンランド製のテントサウナを取り寄せ、厳寒の2月には雪を掘っては毎日薪を入れて試しましたが、薪ストーブの煙突の径が合いませんでした。そこで、町内の鉄工所に相談して、「日本初の日本製サウナストーブ」(只野さん)の完成に至りました。マイクロバスは内装を全てはがし、「オール当麻」の町長のこだわりに応え、町産トドマツをあしらいました。現在はレンタカーとして貸し出し、全国から問い合わせが相次ぐほか、道内のサウナイベントに出展しています。

tohma_ei_10.JPG先ほどのサウナがこの車の中にあるなんてビックリです!

浮き沈みに耐える、しなやかな生き延び方

偶然にも思えるいくつかの出会いや経験が、数年後になって別の実を結ぶ。アグレッシブに動き続け、人とのつながりを大切にするからこそです。

そんな只野さんの周りには、驚くほど幅広い業務を支える仲間がいます。工場長は元東芝の敏腕社員で、SDカードやパソコンのICチップを開発していて、只野さんに口説かれて北の国へ。現場をまとめ、高度な技術が求められる受注に対応しています。車両部門「Touma Auto Project」は3人で回していますが、前職が家具職人という人も活躍しています。「トウマ生活向上企画」も含めれば、ここで働く皆さんの顔ぶれは多様性に富んでいます。

tohma_ei_6.JPG工場長の高田誠樹さん(左)と社員のみなさん

かつては、工業大学や高専などを出て入社した社員に、「それをやったらこんな問題がありますよ」「そんなのできませんよ」と理論で返されることもあったといいます。只野さんは「僕は頭で考えられないんで」と謙遜しつつ、揺るぎないポリシーをこう語ります。

「『とりあえずやってみよう』と全部やってきただけです。話があったら、全部受けてみよう、やるしかない、と。例えばかき氷機は、ものになるまで4年かかりました。それまではダメ、ダメ、ダメの繰り返し。それに耐えられるかどうかです。それでもダメだったらやめればいい。商品を10作って1つヒットすれば御の字ですから」

ただ、心配事もあります。今のところ、後継者として名乗りを挙げているのは4歳になるお孫さんだけだとか...!自身の思いと会社を引き継いでくれる人を探すという、大きな宿題があります。そして、変化に強い会社を築いていくことにも余念がありません。

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「ブラウン管用の電子銃の仕事がなくなって、400人いた従業員の多くが無職になるという経験をしています。年によって売れる商品も変わってきます。それだけに、いろんな業界に関わって、2~3人で1つの事業を回せるような仕事を見つけていきたいです」

まだまだキャンピングカーのハンドルを握って全国行脚する日は続きそうです。それにしても、地元の「サウナでまちづくり」から世界レベルのミッションまで、舞い込んでくるハードルの高いリクエストに応えられるのはなぜなのでしょうか? 

いわく「簡単なんですよね。『作れますよね?』と聞かれたら、『はい』と。だいたいそんなノリです」とのこと。

シンプルといえばシンプルですが、けして「簡単」ではないはず。度量の大きさも戦略眼も、技術も行動力も、すべてそろった上での「ノリ」なのでしょう。取材を終える頃、最初に抱いた疑問はすっかり消え、頭も気持ちもととのっていました。

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トウマ電子工業株式会社
トウマ電子工業株式会社
住所

北海道上川郡当麻町1247番地

電話

0166-84-2357

URL

http://www.touma-ele.com/


「やってみよう」でJAXAからSAUNAまで。トウマ電子工業

この記事は2022年7月25日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。