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オホーツクの自然に囲まれた遠軽町に、とてもステキな会社があるという情報が編集部に寄せられました。魅力的な町ではあるけれど、人口も少ない町になぜ...?
「小さな会社ですけど、全国を相手に仕事をしているんです。スタッフも自分のアイデアを提案できるし、主体的に取り組んでいける。待遇も良くて、お休みもしっかり週2日取れるんです」と社員の佐原さんが電話口で誇ります。
「こんなに良い会社なのに、もっと皆さんに知ってもらわないともったいない!」という彼女の熱意と、自らの興味に背中を押され、現地へと向かいました。
遠軽町で韓国式かき氷のワゴンを発見
遠軽町は人口が1万9千ほど、面積のほとんどを森林が占めるまちです。この数年で旭川・紋別自動車道が遠軽ICまで延伸したため、アクセスがいっそう便利になりました。国道333号から少し入った場所に会社があると聞いていましたが、少し迷ってしまった取材班。ちょっと誰かに聞いてみようと思ったところ、「森のフルーツワゴン」というワゴンカーのお店を見つけました。もしかして...
ワゴンカーでかき氷を売っていたのは、有限会社ユウアイの社員・佐原さんでした!「ピンスといって、韓国式のかき氷なんですよ」。彼女は1年前にユウアイに転職してきたといいます。設備関係の会社と聞いていたけれど、なぜここでかき氷の販売を...?
まずは、ワゴンカーから脇道を少し上ったところにある事務所を訪ねることにしました。
遠軽町にあるユウアイは、主に飲料の充填(じゅうてん)設備や資材の販売、施工、メンテナンスを行う会社です。強みは、商品をつくり上げるための工程をすべてサポートするワンストップサービス。例えば、「オリジナルボトルの飲料を販売したい」という依頼があれば、ボトリング設備の設計・設置をするだけでなく、ボトルデザインの企画段階から製品の保健所申請までをサポートします。全国に取引先があり、設備トラブルなどのメンテナンスにも駆け付けているとか。
社長の米堂一征さんは、サラリーマンを経て中国でペットボトル工場を経営された経歴の持ち主。「自分で考えたことを、いくらでも会社でチャレンジしてみてほしい」と話す、ご自身のこれまでにちょっと触れてみましょう。
入社1年目で新商品を開発、ピンチも楽しみながら国内外で奮闘
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旭川市で生まれ、埼玉県で育ったという米堂さん。関東の大学院で流体力学を学んだ後、当時はベンチャー企業だった分煙システムのメーカーに就職しました。会社は分煙機の開発を始めたばかりで、米堂さんは研究職として採用されたものの、配属された工場にはパソコンすらなく、ひたすらテーブルを磨く日々だったと言います。
「会社が中国工場を造ったばかりで、夕方になると中国からのゴミ、廃棄品が送られてくるんですよ。そのゴミから部品をあさってきて、勝手にモノを作っていました」
就職した当初から、かなりヘビーな毎日を送ってきた米堂さん。ところが、やがて転機が訪れます。
「会社の業績が思わしくなくなって、工場も売ろうかという話になってきたんですね。そのとき、先輩と二人で、社長に『こういったものを作ったんですけれど、どうですか』と、手作業で完成した分煙機を見せたんです。そうしたら、社長が『素晴らしい、これは売れる!』と」
タバコの煙を吸い込む分煙機。これが3万台も売れる大ヒットとなり、米堂さんは製造を外注していた上海工場へ配属されることに。そこでも数々のトラブルがあり、指導員としてかなり鍛えられたそうです。さらに入社2年目には、その会社の分煙機販売を始めた大阪の大手メーカーの担当になり、相当な「無茶振り」をする、厳しい課長さんの元で鍛えられたといいます。
「しっかりとこたえていけば、とても褒めてくれる課長さんで、見積もりの知恵や取扱説明書の作り方、ダンボール箱の計算まですべてを教えてもらいました。それが、いまの仕事にものすごく生きていると思います」
入社3年目には、アメリカから輸入した新型フィルターに欠陥が見つかり、構造の解決やクレーム対応のためにアメリカや香港など海外を奔走したとか。修羅場の連続ではあったものの、やりがいもあったと米堂さんは笑います。
「僕は基本的に、何でも食らいついてみるタイプなんですよね。アメリカでもイギリスでも香港でも、行けと言われたら現地へ飛びました」
その後、社内のトラブルに巻き込まれたり、転職先では希望と違う部署に配属されながらも、前向きに捉えてさまざまな業務を習得。「もともと独立を目指していた」という米堂さんは手持ちの資金で中国に渡り独立、ペットボトルの成形工場を経営しました。
奥さまは中国から移住「子育てには田舎がいちばん」
奥さまとも出会ったのも中国。「飲食店でアルバイトをしていた彼女に、僕が声を掛けたんです」と米堂さんがいいます。2014年に妊娠中の奥さまと3人のお子さんを連れて日本へ帰国、遠軽で中国製の大型充填ライン販売を始めました。実は米堂さん、中国でも充填設備を輸出販売していたのですが、後でトラブルにならないように質を高めに確保していたため、他社との価格競争で負けてしまっていたのだそう。しかし、米堂さんの見立て通り、他社の機械はトラブルを起こして会社自体がなくなってしまい、唯一残っていたユウアイに注文が来るようになったそうです。
中国から移住した奥さまにも、お話を聞いてみました。日本に対するイメージは、遠軽だとかなり違ったのではないでしょうか?
「わたしも中国の田舎の出身なので、どちらかといえば都会のほうが苦手なんです。こちらは食べ物がおいしいし、空気もいいし、周りの人もみんな優しい。困ったことはあまりないですね。冬の除雪は大変、それだけです。4人の子どもがいますが、子育ては都会より田舎のほうがいいですよ。自宅のある安国は小学校にも近いです。子どもがカギを忘れて家に帰ったときでも、近所のおばあちゃんが家に入れてくれて、子どもはおやつを食べていて会社に連絡もしてくれる。こちらでは外国人でも関係ないし、いじめもあまりないし、とても暮らしやすいですね。中学生の長男は片道45分、夏は自転車、冬はバスで通っていますよ」
遠軽で購入した会社の建物は元ホテルで廃墟同然でしたが、自分たちでリノベーションを行ったそう。床や天井を剥がして新しく張り替えたり、水道の配管、電気の配線も自ら手掛けました。埋もれていたような地下水槽も、奥さまが入って泥をかき出して、ポンプのシステムを全部復旧させたとか。
ちなみに、ユウアイでは、中国やベトナムからの機械や部品、資材の仕入れ・販売も行っていますが、コンテナで届く商品の管理業務を担当しているのは奥さま。年間の売り上げは数億円になるそうです。
転職して自分のアイデアをどんどん試せる!充実の日々
冒頭でかき氷を販売していた佐原麻里さんは遠軽町の隣町・北見市在住。約1年前、ユウアイに入社し、現在は北見から遠軽まで車で通勤しています。前職は、家庭用品を扱う大手外資系企業の派遣社員で、6年間各地のお店を回るラウンダー(営業)をしていたそう。
「営業成績を上げ、全国で上位にまで行ったんですが、派遣社員から正社員にはなれない仕組みだったんです。『札幌に転勤すれば、さらに上が目指せる道もある』と言われましたが、それもできないのでモヤモヤして...ジョブキタで求人情報を探したら、ユウアイが出てきたんです」
待遇の良さに惹かれて、面接に行った佐原さん。
「社長は『経験がないことでも、全部勉強をしながらやっていけばいい』と言ってくれました。私もありきたりなことをやるよりは、いろいろなことに挑戦させてくれる職場のほうが、ずっと楽しいと思ったんです」。これが、転職の決め手となりました。
入社した佐原さんは、会社で立ち上げたばかりのネット販売サイトの運営を担当。そこで韓国式かき氷機を売り出します。
「最初は検索に全然引っかからなかったんですけれど、デザートで韓国式かき氷が注目されてきてから、検索でうちのECサイトが上位に出てくるようになったんですよ。1台、2台と売れていくうちに露出がどんどん増えて、さらに売れるようになりました」
ほかにも韓国式かき氷機を販売している会社はいくつかありますが、ユウアイの製品が売れている理由は、価格の安さに加えて、自社のオリジナルレシピ集をつけていること。普通のかき氷は、水を凍らせた氷を削ってシロップや練乳をかけますが、韓国式かき氷機は、水そのものにシロップなどを入れた液体をタンクにセット、削るスピードでフワフワ、サラサラとさまざまな食感のかき氷が作れます。
その調合レシピを開発したのが、佐原さんたち女性スタッフ。さらに、実際にかき氷機を使って販売することで、どのレシピが好まれるかが分かり、機械の問題点を洗い出すこともできると、国道沿いの会社敷地にワゴンカーで出店。不定期でかき氷の販売を行っているというわけです。
「入社してまだ1年しかたっていないのに、佐原さんはすごい人だと思いますよ。ユウアイのECサイトは、今はかき氷機を含めて月に500万円もの売り上げを出しています」と米堂さん。
社長のお褒めの言葉を受けてさらに「当社の部品や資材もECサイトでもっと売れるようにしたいですね」と意欲的な佐原さんに、仕事で大変なことは?と訊ねると
「あえて言えば、やることがいっぱいあるので時間の管理スキルが必要ですね。冊子を作ったり、かき氷を販売したり、メニュー開発もしたいし、商品の問い合わせも受けたいし、販路拡大もしたいし...」
と、むしろ自分から積極的にやりたいことが多過ぎて困っているよう。週休2日は取れているか心配になるところですが、
「昨日まで2日間温泉に行っていました。振り替えができるので、自分の仕事を調整すれば平日でも休みが取れるんです」とのこと。自分のやりたいことができる分、自己管理をする能力が必要と教えてくれました。
縁あって東京から遠軽へ。思い切って飛び込んだ北海道でのくらし
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もうお一人、今年の4月に東京から遠軽へ移住してきたスタッフにお話を聞きましょう。福島県出身の星野久美子さん。ユウアイと以前から縁があり、東京で派遣の仕事をしながら、飛行機で月1回遠軽へ通い、ユウアイの事務業務をこなしていました。ですが派遣の仕事が終わり、ユウアイの社員にならないかという話が持ち上がったとき、久美子さんは即答できなかったといいます。
「遠軽は田舎でなんにもないところというイメージでしたので、どうしようかな、暮らせるだろうか...と。3カ月くらい様子を見ましたが、とりあえず行ってみようと決心したんです」
思い切って遠軽町に住まいを移し、彼女の新生活が始まりました。
「町営住宅に住んでいるのですが、役員さんや町役場の方々に親切にしていただいて助かっています。労働保険のことで北見に相談に行ったら役所の方が一から十まで丁寧に教えてくれました。北海道の方は皆さん、人柄がおおらかですよね。家に屏がなく、開放感があるのもいいですね。会社の裏手にキツネが来ることもありますよ」
東京と遠軽で大きく違うのは人の多さ。久美子さんにとっては遠軽が過ごしやすいといいます。
「東京では人混みの中での通勤がわずらわしかったのですが、こちらではマイカー通勤。長らくペーパードライバーだったので講習を受け、コンパクトカーを購入しました。毎日の通勤で、運転にもやっと慣れてきたところです」
元々、月1回のペースでユウアイの事務経理を行っていましたが、社員として入社してからは多忙な日々を送っているそうです。
「ベンチャー企業だからか、次から次へとやることがありますね。いろんなことを任されるので、初めてのことばかりですが楽しくやりがいがあります。新しいことにチャレンジすることを楽しめる人にはおすすめですね。
現在は在庫システム導入のため忙しく、残業や土日出勤などもあります。でも小さな会社ですので融通がきき、中抜けも可能。平日の昼間に銀行へ行くなどの用事があるときは助かっています。
いまは早く在庫システムを導入し、毎月の締め支払いを円滑に進められるように整えてきたいと思っています」
遠軽に移住し半年弱。暮らしはいかがでしょうか?
「買い物はネットでできるので大丈夫。東京の夏に比べ、北海道の夏はカラッとした暑さなので過ごしやすいですね。メロンやスイカを堪能し、近所の方から畑で採れたとうもろこしをいただいたことも。新鮮でとてもおいしかったです。
これから初めての秋冬を迎えるにあたり、ストーブの使い方などを地元の人達に教えてもらっています。冬には水道の『水抜き』が必要と聞き驚きました」と久美子さん。
水抜きとは、冬に凍結防止のため水道管から水を抜くこと。これを怠ると、水道管が凍って破裂し、部屋中が水浸しになる恐れがあるのです...!初めて迎える北海道の冬。水抜きや車の運転など心配もありますが、彼女にはある目標があるといいます。
「すぐ近くにロックバレースキー場があるので、冬にはスノーボードに初挑戦してみたいと思っているんです!」
スキー経験もあるという彼女なら、遠軽町での冬もエンジョイできそうですね。
地方でも「豊かな暮らし」ができる会社として
社長の米堂さんは「なぜ遠軽に会社をおくのか」とよく聞かれるそうですが、はっきりと答えます。
「ここは『北の果て』といわれますけれど、遠軽だからできないということはまずないですね。僕が行ったアメリカでは、どんな田舎にも立派な会社があって、そこに車でスタッフが通勤してくるんです。周囲に何も無いような地方の会社でも、工場の中ではペンタゴン(アメリカ国防総省)に納める部品を作っていたりする。給料も休日も保証されているから、スタッフの暮らしも充実しているんです」
地方でもこういった経営ができるんだ、それをうちで証明したいと米堂さんは熱く語ります。
「遠軽でも、仕事において不利なことは何もありません。むしろ、ここは環境が良くて暮らしやすいし、うちの会社ではスタッフの給料も休日も保証しています。田舎に住み、近くの会社でしっかり働き、休みの日にはピックアップトラックにボートを乗せて釣りに行く...そんなアメリカのような暮らしがここではできるんです」
年齢・国籍・性別を問わず、自分で仕事を調整した上でなら、子どものお迎えや習い事、買い物で会社を抜けることもOK。出張で各地を回れて、失敗してもチャレンジすることを歓迎してくれる。田舎暮らしとやりがいのある仕事を両立できる職場が、遠軽町にありました。
- 有限会社ユウアイ
- 住所
北海道紋別郡遠軽町生田原水穂154-35
- 電話
0158-46-2550
- URL