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このまちのあの企業、あの製品
厚真町

地域の介護基盤の礎はここから。NPO法人ゆうあいネットあつま20210717

この記事は2021年7月17日に公開した情報です。

地域の介護基盤の礎はここから。NPO法人ゆうあいネットあつま

今回くらしごと編集部は北海道厚真町の福祉の歴史を担う「NPO法人ゆうあいネットあつま」さんにお邪魔しました。この法人は2010年3月にNPO法人の認証を道から受け、町民たちが集まるまちなか交流館「しゃべーる」の指定管理を担う他、この法人が誕生するきっかけとなったグループホーム「えがおの家」を運営しています。

実はこの「えがおの家」は、厚真町に初めて出来た民間のグループホームなのです。こちらを設立した、理事長である清水俊宣さんにお話をお聞きしました。

介護基盤のないこのまちにつくる意義とは

もともと厚真町役場職員だったという清水さん。35年間働き続けた、バリバリの役場職員さんでした。


yuai5.JPGこちらが気さくな清水さん。

役場内で、介護保険の仕事をおよそ10年務めていた清水さんは、仕事を通して「介護」と向き合うようになってから、このまちの介護基盤について考えるようになりました。「このまちの介護基盤はまだまだ整っていない」そんな課題をどうにかできないかと考える日々でした。

このまちに足りないものはなんだろう・・・清水さんは次第に「厚真町にグループホームをつくりたい」と考えるようになりました。

今でこそグループホームは増えましたが、当時は厚真町はもちろん、近隣市町村にもグループホームはまだそんなに多くはない時代。

「グループホームが出来たのは、この胆振管内では2番目とかだったんじゃないかな。まだあの時代は『グループホームって?』って分からない人が多くいたんですよ」と清水さん。それでも、このまちには、グループホームが必要だと考え、着々と設立に向けて動き出しました。

しかし、グループホームをつくる!といっても、そう簡単なことではありませんよね?

近隣市町村にはまだあまりグループホームがなかったため、函館市や豊浦町などにあるグループホームに視察へ行ったそう。また、他の業務の一貫ではありましたが、福祉が進んでいるスウェーデンにも視察で訪れたことがあるといいます。こうして少しずつ知識を蓄え、清水さんが役場職員時代につくったのが、現在厚真町にある厚真町社会福祉協議会が運営している「やわらぎ」です。こうしたノウハウを活かして退職後に建設したのが木造平屋のグループホーム「えがおの家」です。見た目からレトロな雰囲気を感じる施設となっています。

yuai11_0.JPGこちらがグループホーム「えがおの家」。

「これは道南杉を使っていて、腐食しない加工がしてあるそうなんです。色は昔に比べたら変わってきていると思いますが、長持ちしてますよ。平屋ってこともあってか、2018年に起きた胆振東部地震の時も、建物の被害はひどくありませんでしたね」

そんな趣のある施設の目玉は、清水さんいわく「畑があること」。


yuai4_02.JPGこちらがその畑。スタッフと利用者さんと良い天気の中パシャリ。

利用者さんの中にも、かつて農業をやっていた経験のある人が多いようで、職員とともに野菜の成長を楽しんでいるようです。

「農業をやっていた利用者さんからは『このビニールはもっとこう曲げた方がいい』なんてアドバイスをいただくこともあるんです」

この畑が、利用者さんとのコミュニケーションのひとつになっているのですね。清水さんは「グループホームにはこうしたアクティブなサービスの提供が必要」と語ります。

yuai3_02.JPG職員と利用者さんでちょうど野菜を収穫しました

「どうしてもグループホームって、室内で出来るような内々のサービスが多くなってしまって、そうすると建物の中にばっかりいることになってしまうんですよね」

そこをなんとかしていきたい、清水さんが目指すはアクティブなグループホームです。

「認知症の人に対して、それを治すことはできないけれど、ここの施設に入って、認知症の進行を遅らせることはできる。そんな施設にしていきたいんです。そのために必要なのは外からの刺激。この刺激によって、それが脳にも伝わりますから」

そう考え、夏は流しそうめんやバーベキューなどのイベントを実施していたことも。現在は新型コロナウィルスの影響でそういった催し物ができない状態ですが、少しでも外の刺激をと考え、車で町内を走り、車内の窓から道路に咲くお花を見たりと、まちの景色を楽しむ時間もつくっているそうです。

201507egaonoie_natsumatsuri2.jpgこちらは夏祭りを開催した時のお写真。とても賑わっています!

「あとは、コロナの様子を見ながら敷地内でテントを張ってお茶会とかしたいな、なんて思っているんですけどね」と、まだまだ利用者さんとの楽しいイベントを構想中。
このように、「今できる最大限のこと」を考え、実行しているのがグループホーム「えがおの家」なんです。

血はつながっていないけど「家族」だから

利用者さんとの心に残っているエピソードは何かありますか?と清水さんに聞いてみると「いやぁ、一人ひとりとエピソードがあるんだよなぁ」と考え込む清水さん。


「グループホームとかって、疑似家族みたいなもんなんですよ。利用者さんも、職員も含めてね」と話す清水さんからは、家族のことを想う「お父さん」のようなそんな雰囲気が感じ取れました。

みんな「家族」だからこそ、何気ない日常の毎日が思い出。

利用者さんも職員も関係なく、この施設に関わる人はみんな毎日を共に過ごす家族なのですね。清水さんは、この「えがおの家」を自分の家のように過ごしてほしいと何度も話していました。

「利用者さんが自分で自分のものを洗濯したり、料理だってしていいんですよ」と。

ここでは、毎日の食事の献立は特別決めておらず、冷蔵庫にある食材や、そのときそのとき穫れた野菜を使って、その日のメニューを決めるというのも家庭の雰囲気を感じさせる理由のひとつかもしれません。

yuai10.JPG利用者さんと一緒に運動をする清水さん

また、職員の方々のこともしっかり考えている清水さん。
「職員は定期的に研修会などに行ってもらって、勉強する機会をつくっています。ここは無資格で入ってくる子もいますからね。資格を取るのに金銭面でもサポートしています」と一家の大黒柱。

最近では、23歳の男の子が入職。地元が厚真町だというその彼は、現在必死に研修中です。「研修の長さも、その人その人によって違いますからね、その人に合わせていますよ。大体1〜2ヶ月くらいはかかるかな。その間は先輩がしっかり付き添います」。

そういったサポートもあるからこそなのでしょうか。ここで働く職員さんは、勤続年数が8年、10年...と長く働いている職員もおり、その秘訣のひとつは、サポート体制だったり、この施設の雰囲気だったり、働く「人」だったりするのでしょう。

「どんな資格を持っているかとは関係ない。とにかく『資格より資質』で、お年寄りが好きっていう人がこの仕事に向いているんだよね」そう話す清水さんです。

厚真の介護の礎をつくった今

 yuai8_02.JPG職員も利用者さんも一緒に「裏ピース」!


2021年の4月には定員22名のサービス付高齢者向け住宅ライフサポートハウス「すまいる」を、ゆうあいネットあつまが開設したほか、現在厚真町には、いくつもの福祉施設あります。

「厚真町の介護基盤は、良いところまで行ったと思います。ただ、これからこういう小さなまちは人材確保で苦しむことになる。だからこそ、まわりの法人と協力し合える体制なんかを作らないと、今のこの基盤を維持することは難しいでしょう」と、清水さんはこのまちの未来を見据えて話します。

福祉施設が他にも少しずつ増えてきたからと言っても、まだまだ「入りたい」と思っている人がいるのも事実。その人たちをもっともっと受け入れられるようになるためには、人材確保の問題も大きいのです。ここのグループホーム「えがおの家」も、人手不足問題を抱えています。「もう少し増えるだけで、認知症の方をもっと受け入れられるんだけど...」そんなもどかしい気持ちと、でもどうすることもできない現状が続いているのです。

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公営住宅もたくさんあるし、職員住宅もある...なんなら、千歳市からだった通勤できる。みんな知らないかもしれないけれど、実は便利なこのまちで、福祉の仕事に携わる人が来てほしい。そう話す清水さんに、厚真町の魅力を聞いてみると、第一声まさかの「もうこのまちは飽きたよ(笑)」なんて言って笑います。人口の多い時からこのまちを見続けてきたからこそ、厚真町で過ごす日々は、清水さんにとって当たり前のものとなっているようです。

まだまだ先を見据え考える清水さん...御年72歳!そんな清水さんが思う、福祉の魅力とは...?と尋ねてみると「なんだろうな〜」と少し考え、ゆっくり言葉を続けました。「生まれ育ったまちで、人生を終わらせることができるまちづくり、ですかね...」さらりと名言を放つ清水さん。

このまちの介護基盤をつくった、大黒柱の清水さんは今日も、職員と利用者さんと笑顔溢れるこのおうちでゆったりとした時間流れる日々を過ごしていることでしょう。

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NPO法人 ゆうあいネットあつま
住所

北海道勇払郡厚真町京町34番地の1

電話

0145-29-7222

URL

http://ui-atsuma.net/index.html


地域の介護基盤の礎はここから。NPO法人ゆうあいネットあつま

この記事は2021年6月11日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。