HOME>このまちのあの企業、あの製品>業界の当たり前を打破し、北海道産木材を活用。株式会社三五工務店

このまちのあの企業、あの製品
札幌市

業界の当たり前を打破し、北海道産木材を活用。株式会社三五工務店20201217

この記事は2020年12月17日に公開した情報です。

業界の当たり前を打破し、北海道産木材を活用。株式会社三五工務店

札幌市北区北35条の通り沿いにある雑炊とコーヒーのカフェ「35stock」。柱や床、内装にはふんだんに木が使われ、木材の温かさに包まれる心地よい空間です。こんな贅沢なカフェはなかなかありません。
ここを建築したのは、株式会社三五工務店。
創立63年になる地場の老舗企業であり、2014年には「全棟カラマツ宣言」を打ち出し、北海道産木材を活用していく姿勢を表明した日本初の企業でもあります。
35stockで使用されている木材も、すべて北海道産です。
業界初の新しい試みを行ったのは38歳の若き社長だという話を聞きつけて、「是非その経緯や道産材に切り替えた想いなどを聞かせていただきたい!」と田中裕基社長にお話しを伺いました。

工務店を引き継ぐに至るまでの努力

2020年に三五工務店の代表を引き継いだ田中社長。
札幌で生まれ、札幌開成高校を卒業後は大学進学のため一度北海道を離れて東京へ。
「27歳までフードコンサルティングの会社に勤めていました。飲食店のお店づくりをトータルで行い店舗売り上げや利益に直結するようなコンサルをしていて、お客様の喜びが目に見え、自分の努力が自分に返ってくるような仕事でやりがいも感じていました。そんな中、父親から札幌に戻ってきて三五工務店の業務をやらないかと声がかかったんです」
この時にはまだ会社を継ごうとは思っていなかったと田中社長は笑います。

それまでフードコンサルティングの会社で培った飲食業のノウハウを生かしつつ、三五工務店での建築業と組み合わせ、両方をプロデュースしたいという想いを既に持って北海道に戻ってきたといいます。
しかし、その夢は一旦は諦めようかと思ったのだとか。

sangokoumuten5.JPG


「思っていたよりも2級建築士の取得がスムーズにいかず、会社を辞めようかとも思っていたんです。でも、その時に当時付き合っていた今の妻から、『自分のやりたいことばかりではなく、家族や周りの人のことを考えてみて』とピシャリと言われたのです。それで一度頭を冷やしました」
思い通りに進まないことは生きていれば必ずあることです。そこで逃げることは簡単ですが、一度立ち止まり家族や会社社員、そしてその家族のことまで考えたと言います。
「若かったこともあり、それまではやりたいことをやるのがかっこいいと思っていたので、妻の言葉にはハッとしました。そこで、これからは周りの幸せや自分にしかできないことは何かをしっかり考えるようになり、お客様や社員・家族のみんなに喜んでもらうことを軸に決め、この会社に根を生やしてこれまで以上に頑張ろうと心に決めました」

業界を変えたくて目をつけた北海道産木材

三五工務店の社員として、この業界や会社のために「なにができるのか」と腰を据えて考えた田中社長。
そんな中、目をつけたのが建築用木材でした。
「食材は北海道産の価値が認められ、みんなが地産地消を推進しているのに、住宅ではそれをやっていない。当たり前のことをなぜやらないのかと不思議に思いました。北海道で生まれた木だから、北海道の環境に一番適しているはず。植物がその土地で成長する意味があると思っています。そこで住宅でも、地元のものを使う価値を訴えていこうと思いました」

sangokoumuten7.JPG

食の業界から転身したからこそ持っていた「当たり前」の前提の違い。
そこから、田中社長は全棟北海道産木材への切り替えに着手し始めました。柱などの構造材や、無垢のフローリング材など、製材工場に価格交渉もしながら直接仕入れを決めました。仕入れに関する障害もクリアし、自社設計で見た目にも洗練された北海道産の建物を作ることが実現したのです。
社内では、新しい素材を使うことに「今後もし価格が上がったら売れなくなるのでは」「材料が硬くて扱いづらいのではないか」と心配する声も上がりましたが、価格は上げないように交渉していき、材料が硬いなら対応できる機械に替える、など北海道産の木材の特性に合わせて社内の仕組みや取り組み方も変えていったのだと田中社長は当時を振り返ります。

sangokoumuten16.JPG事務所兼ショールーム

北海道産木材を使う意義を発信

「木の伐採は自然破壊だと思われることもありますが、森は間伐をしないと木が成長していけません。そして、木は40〜50年で伐期を迎えますが伐採して住宅の材として使えば、その後100年生き続けることができます。この考えを発信し続けることが私たちの役割です」

sangokoumuten100.JPG

三五工務店では、北海道産木材に切り替えたことで、木が好きな方、住宅に取り入れたい方からの問合せも増え、需要はあるのだと感じたといいます。
「木は生き物なのでメンテナンスは必要だと考えてはいましたが、経年変化は味わいになるため、当初考えていたほどメンテナンスがいらないこともわかってきました。弊社で建てたいと言っていただけるお客様には、新築のモデルハウスを見てもらうのはもちろんですが、実際に住んでいる人の意見も聞いてもらいたいと考えて、『10年後のおうち見学会』も開催しています」
建てたあとの10年後のお家の姿を見れる機会はなかなかありません。これも建てたあとの満足度が高いお家を見て欲しい!という三五工務店の想いがうかがえます。
実際に住んだお客様も、この見学会のお話しをすると楽しみながらご自宅の紹介をしてくれるという嬉しい効果もあるのだとか。

更には、北海道生まれの木材製品の販路拡大を普及することを目指し、そしてブランドとしてPRするために誕生した「HOKKAIDO WOOD」に加入しないかと声を掛けられ、メンバーとして参加しています。
「これまでそのような団体に入ることなく単独でやっていたので、北海道産の木材を使う会社として紹介してもらえることがなく悔しかったんです。HOKKAIDO WOODは、北海道産木材を使うという考えはもちろん、民間の力を中心に推進するという考え方にも賛同できました。HOKKAIDO WOODのブランド力が加わればさらに私たちもパワーアップでき、道産材活用の流れがもっともっと広まっていけばいいと思っています」

建築業界だけにとどまらない

田中社長は、2016年にグループ会社として株式会社35designというデザイン会社も立ち上げました。
そして冒頭でも少し触れた「35stock」、「あめつち by 35stock」というカフェを自ら企画・設計・施工し運営しています。
このカフェは北海道産の木材で作られた建物で、北海道産の食材を使った料理を味わえる、地元を大切にする食事と空間づくりを発信しており、アンテナショップとしての役割も果たしています。
これは当初田中社長が構想していた夢の実現となりました。

sangokoumuten4.JPGカフェ35stockは、外観からも道産木材の温もりが感じられます。

「35」を一つのシンボルとしてを建築業や飲食業・デザイン業界から各業界や北海道の魅力を情報発信を行っています。
田中社長の想いや行動により実現した業界の常識の打破、そして35designの情報発信力もあり、社員の会社理解度も上がり、若い社員も増えました。

sangokoumu101 .jpg

「会社の未来や社員の事を考えてひたすらに突き進みながら、自分のやりたいことも叶えているんですよ」と笑う田中社長でしたが、会社を継ぐという決意と、全棟道産材使用へ切り替えるという社内体制の変更や会社・社員の未来を見据えた例を見ない変革は、言葉よりも想像以上に苦労があったはずです。それでも成し遂げられたのは紛れもない田中社長の根底にあるその実力と手腕です。
田中社長の、できない理由を考えるのではなく、できる方法を考え行動をしプラスに変える力が、これからの北海道林業・木材産業と建築業界の未来に必要な道標となることでしょう。

sangokoumuten11.JPG

株式会社三五工務店
住所

札幌市北区北34条西10丁目6-21


電話

011-726-3535

URL

https://www.kk35.jp

「クラウド継業プラットフォーム relay(リレイ)」にも事業継承事例として掲載中。


業界の当たり前を打破し、北海道産木材を活用。株式会社三五工務店

この記事は2020年8月26日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。