道東の別海町にとても気になる会社があります。とても気持ちのいい会社なのです。その会社は渡邊清掃株式会社といいます。
清掃を事業とする会社といえば、社会の下支えをしてくれている、私たちすべてにとって大切な存在なのですが、その仕事が私たちの目に触れることは少なく、さらに日常的にはほとんど話題にすることがなく、まさに「縁の下の力持ち」です。
コロナ禍に襲われた2020年の春。「縁の下の力持ち」的存在の渡邊清掃が、注目を集めました。当時コロナ対策の品々が不足し、多くの人たちがドラッグストアに行列を作っていました。そんな時に、無償で除菌液を配布し続けていたのが渡邊清掃だったのです。会社で無償配布するのみならず、道東一帯の町役場にも提供。その活動はメディアでも取り上げられ話題となっていたのでした。
渡邊清掃については、その独特の存在感が気に掛かり、かなり前からSNSでも熱心に情報発信しておられるのをチェックしていたのです。そこには日々の業務の報告が行われているのですが、必ず『#社会へのお役立ち』というタグが付けられていて、謙虚ながら「誇り」のようなものが感じられて、とても気持ちのいいSNSなのです。
さらに、途中で気がついたのです。渡邊清掃・代表取締役の藤本達也さんに、関係会社やその商品について取材したことがあったことを。そちらも大変興味深い内容でした。その詳細はこの記事の後半でご紹介するとしましょう。
とにもかくにも、何だかとても元気で気持ちのいい渡邊清掃のことをもっと知りたくなって、別海に取材に向かったのです。
渡邊清掃の朝はとっても気持ちいい!
早朝の渡邊清掃の本社に伺いました。
社屋の横には作業車が並んでいるのですが、どれもピカピカに整備されていて、とてもかっこいい! 子供たちが大好きそうなな「はたらくくるま」がずらり。カッコイイ!
社員の皆さんが続々と出社されるので、私たち取材陣も「おはようございます!」とご挨拶。始業時間になると朝礼始まりますが、まずはまずはラジオ体操。ちょっと眠そうだった方もちらほらいらっしゃったのですが、ラジを体操でしっかり仕事モードに入っていっているようです。
まずは社長の藤本さんから業務に関する心構えについて一言。それから各業務チームの業務予定の確認など、テキパキとすすめられます。そこまで普通に見ていたのですが、ハッと気がつきました。皆さんのユニフォームもかっこいい!
朝礼が終わると全員で本社の一斉掃除。社内を皆で手分けして取りかかります。さすが清掃の会社、まずは自分たちの拠点をきれいに磨き上げてから仕事が始まるのです、ここまでが実にテキパキと行われて、それぞれの作業車に乗車してスタートしていきます。
ここまでの小一時間。実に気持ちの良いスタート風景でした。
仕事にプライドを持つためにメッセージを出す!
藤本さんにお時間をいただいて、会社についてお話を伺い始めると、藤本さんは熱い語り口で説明してくれます。
「うちの仕事がどんな仕事かというと、ゴミを収集したり汲み取りしたりする仕事なんです。でもそれは手段であって、目的ではないんですよ」と、いきなり核心を突く言葉が出てきました。では目的は?
「社会へのお役立ちなんです」
出ました! 「社会へのお役立ち」は、渡邊清掃のSNSでも盛んに登場するキーワードなのです。社内ではすっかり浸透しているこの言葉は、企業理念としている言葉でもあるのです。
代表取締役の藤本達也さんと専務取締役の藤本亮司さん
「九州の大学を出て、一年だけ別の会社で勤めました。北海道に戻る気はなかったんですよ。ただ前の社長だった父が別会社の立ち上げで忙しいということで、戻ってきたんです。でも特に最初の一年は全くやる気がなかったですね。ゴミ収集や汲み取りの仕事にプライドが持てなかったんです」
そうやって苦しみながらも、2013年、34歳の時に渡邊清掃の社長に就任。かねてより会社のミッションを定めたいと考えていて、何のためにこの仕事をしているのか、社長として社員と共有するメッセージを出そうと決心したそうです。そして全社員と個人面談して、社員の気持ちを確認するために10項目の質問を出しました。そこで大きなポイントだったのが、[どんな時にやりがいを感じますか]という質問でした。
「全員に共通した答えが『お客さんから感謝された時』だったんですよ」
自分たちの仕事が地域の人たちに感謝される仕事なんだとわかった時に、自ずと仕事の目的は見えてきたのでした。それが 「社会へのお役立ち」 だったわけです。
そしてそれは、企業理念となって共有されることになったのです。トップが一方的に押しつけたものではなく、社員全員の思いから生み出されていることが重要なのですね。
埋めたり、燃やしたりされるものの可能性を考える。
冒頭で、以前に藤本さんを取材したことがあったと書きました。それは2011年のことです。渡邊清掃のグループ会社、株式会社バイオマスソリューションズの件で、農家から絶大な支持を受けている『ミルキーパワー』という肥料を作っているという話題を、『いいね!農style』(この『くらしごと』を運営している北海道アルバイト情報社が発行したフリーペーパー)で記事にしたのです。
バイオマスソリューションズ株式会社が製造販売する『ミルキーパワー』
北海道の栗山町だけで作られている『さらさらレッド』というブランドの玉ねぎをご存知でしょうか? 「ケルセチン」という血液をサラサラにする成分が非常に多く含まれていて、大人気の健康たまねぎです。
その『さらさらレッド』をはじめとする栗山町の玉ねぎの栽培に、こちらの『ミルキーパワー』という肥料が使われています。農家からの信頼も厚く、もはや『さらさらレッド』の栽培にはなくてはならないものになっているようです。
この『ミルキーパワー』という肥料は、大手乳業メーカーの工場の製造過程から出る残渣が利用されてできています。つまり、廃棄物系バイオマス(生物に由来する資源)を利活用した肥料なのです。
この肥料ができたきっかけは、藤本さんが渡邊清掃に入社して、廃棄物を回収して処理業者に運ぶ業務を担当していた時のこと。
「廃棄物を埋めたり燃やすことに違和感を感じたんです。だからなんとかしてそれらを利活用して有用な資源に変えることができないのだろうかと思って、技術者や専門家に聞いて回ったんです。そうしたら、できるってことだったんです」
廃棄物系バイオマスの再利用は、理屈では理解できても簡単なことではありませんでした。それに設備投資も必要でした。それらすべてに真正面から取り組んで、前人未到ともいえるビジネスの立ち上げに取り組みました。2008年にバイオマスソリューションズを設立。自ら社長に就任して事業を展開し、現在に到るのです。
乳業メーカーの工場の製造過程から出る残渣を利用して製造されている
バイオマス廃棄物の利活用については、顧客だけではなく社会のニーズでもあったわけで、この頃から「社会へのお役立ち」という発想のベースが、藤本さんの根底にはあったように感じます。だから必然だったのかもしれませんね。
こういう気持ちのいい会社がある町は幸せだ。
バイオマスソリューションズを立ち上げた後に、渡邊清掃の3代目社長となった藤本さん。(バイオマスソリューションズ社長は兼任) おそらくその経験も活きたのでしょう。先に書いたように、社員とともに「社会へのお役立ち」という企業理念を作り上げました。それは再創業ともいえるような大仕事だったと思います。
今では「社会へのお役立ち」がしっかり社内に浸透している感じです。そして社内の雰囲気がとてもいいのです。その背景を藤本さんは「お客さんからの『ありがとう』を社内で共有するようにしています。僕たちの仕事ってそういうことなんだなと再確認できるんですよ」と言います。
「社会へのお役立ち」がベースにあると、渡邊清掃の未来についても見えてくる部分があるようです。
「先々ゴミ収集車の運転は、自動運転になってると思うんですよ。そうなった時に、我々の仕事はなんなのかってことを考えなきゃいけない。それは町をキレイにするということであって、そこからできることを考えていくわけです」
未来を考えると、人材の問題も大切です。人が採用できるのか、そして採用した人たちがしっかり定着してくれるのか。採用は簡単ではないそうですが、「道外出身の人が、地域の生活を支えるような仕事がしたいって、新卒で入ってきてくれたりしています」と話します。さらに「社会へのお役立ち」という目的が共有されてから離職率は下がったとのこと。
数は少なくてもいい人材が寄ってきて、目的を共有できるとさらにいいひとに育って、好循環で回っていくということなのです。だから会社全体から気持ち良さが感じられるんですね。
清掃のプロは本社内の清掃も完璧にこなす
藤本さんの次の願いは、社員の子供が渡邊清掃で働いてくれること。親が誇りを持って仕事をしている姿を見続ければ、子供は自然とその姿を追いかけたくなるものです。渡邊清掃の社員の人たちの姿を見ていると、実現する可能性が高いような気がしてきました。そして「社会へのお役立ち」はさらに進化するんでしょう。
そんな会社が日々の暮らしをしっかり支えてくれている町っていいなあと、心から思いました。コロナ禍をきっかけに、これまで見えなかった会社の存在が浮き上がってきたのです。
- 渡邊清掃株式会社
- 住所
北海道野付郡別海町別海宮舞町247番地
- 電話
0153-75-2861
- URL