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このまちのあの企業、あの製品
池田町

時代が変わっても、この窯を守っていきたい。(有)本郷林業20201005

この記事は2020年10月5日に公開した情報です。

時代が変わっても、この窯を守っていきたい。(有)本郷林業

炉端焼きや焼き鳥屋さん、またバーベキューの時にも活躍する炭。良い炭を使うと、香りや味が格段に良くなるものです。
そんな品質にこだわった炭を作っている会社が北海道池田町にあります。50年以上炭を作り続けている(有)本郷林業です。ある夏の暑い日に、ご主人の計良和政(けいらかずまさ)さんを訪ねて炭焼き窯にお邪魔し、今や北海道で数少なくなった炭作りの現場でこれまでのお話しとこれからの(有)本郷林業についてのお話しを聞いてきました。

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灼熱の中、丁寧に焼き上げられる高品質の炭

(有)本郷林業では、今は大きな窯3基を使い、天然のミズナラ、イタヤカエデを使って炭を作っています。取材班が訪れた日は灼熱の暑さの中、180センチの長さに切りそろえた木材が、どんどん窯に詰められていきます。
炭を焼く工程には20日間ほどかかります。窯にびっしり木材を詰めたら、薪をくべて窯の温度を上げ、夜通し様子を見ながら少しずつ空気穴を塞いで蒸し焼きにしていきます。ここで一気に焼けばいいのではなく、匂いで判断しながら消えないように少しずつ温度を上げていきます。どれだけ丁寧に作るかで、炭の品質は大きく変わってくるのだと計良さんは語ります。

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窯に並べる木材を180センチに切っていきます。計良さんの義理の息子よしきさんです。

空気を少しずつ入れてガスを燃やす「ねらし」という工程を経て、完全に空気穴を塞いで鎮火させたら、壁に触れると火傷するくらい熱い状態のままの窯に入り、炭を外に運び出す「炭出し」をします。
入っただけで汗が噴き出すような窯の中で、炭出しをしていたのは、小柄でキュートな女性。計良さんの次女の亜季さんです。東京で美容部員の仕事をしていましたが、やはり都会より自然が多い故郷が良いと、戻ってきて家業を手伝っています。

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つなぎを着て、炭で顔を真っ黒にしながら炭を運びながらも、ご挨拶した時の亜季さんの爪には可愛らしいネイルアートが施され、美容部員を辞めた後も美意識の高さを感じさせて素敵でした。帯広の日焼けサロンにも通い、「天サロ(天然の日光で日焼けすること)はダメ!サロンでやらないと肌にダメージが残るよ」と言われたと笑います。
炭焼きの仕事に関して聞くと、「私が生まれるずっと前から、何十年もこの窯が壊れずに、そしてここ池田町に残っているのは、何か意味があるんじゃないかと思うんです」と、お父さんの仕事を誇りに思っている様子が伝わってきました。

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全盛期は10基の窯で炭を焼いていたことも

計良さんに、炭焼きの現状についてお話を聞きました。
もともと帯広の土木建設会社に勤めており、冬は土建の仕事が暇になるので、山で木を切ったり、トラックで炭を運ぶ手伝いをしていました。30歳の時に、奥様のお義父さんから「会社を手伝ってくれ」と言われたため、土建会社を辞めて(有)本郷林業へ入社することに。
昔は大手企業や町有林から林業の仕事も請けていたので、植林や下草刈りも行っていましたが、計良さんが会社に入ったころと前後して、山の仕事は辞めて炭一本になりました。
かつては池田町には炭の生産は日本一で炭焼き職人もたくさんいましたが、計良さんが始めたころは十勝でも既に片手で数えるくらいになっていたと言います。

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一時は黒炭の窯が7基、備長炭の窯も3基使っていました。通常の黒炭は完全に密封して自然鎮火してから炭出しをしますが、備長炭は大豆の大きさくらいの穴を開けて空気を少しずつ入れ、もう一度燃焼させてねらしを15〜20時間かけてやり、中を赤くしたまま炭出しをします。熱いし、非常に手間がかかりますが、火持ちが良い高品質の炭が出来上がります。
備長炭は窯も専用のものを使っていましたが、それは和歌山の名人がこちらに直々に来て、無形文化財になっていたのと全く同じく作ってくれたものです。

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現在稼働している窯3基。今では黒炭のみを作っています。

炭焼きの文化を残すため、技術は惜しみなく伝える

全盛期よりも炭の需要が減ったため、今稼働している窯は3基。外国産の炭が流通するようになってから以前より売れにくくなったと言います。
「炭焼き屋が多い岩手でも、400件くらいあった炭屋さんが100件くらい辞めたと聞いています。担い手はだんだんいなくなっていますね。今の人は窯も作れないんですよね。厚真町で地震があった時も、窯が壊れて作れないから辞めると。自分で作れる人がだんだんいなくなっています」。

窯は一度作ったらずっと使えると言う計良さん。(有)本郷林業では火山灰とセメントで作っており、建設業の知識を活かして、さまざまな作り方を試しました。そして、そのノウハウを惜しみなく人に伝えているといいます。
「道南でやってみたいという人がいたから、教えに行きました。この方法だと修理も早くできるし、粘土窯よりいいからやってみな、もう教えたから大丈夫でしょ、と言ったら、早速他のところでも作っているみたいです。僕らは山の砂で作ってみたり、いろいろ実験をしながら20基くらい作りましたね」。
そこには、炭焼きの技術を担う人がいなくなることへの危機感が見え隠れします。

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炭の原料の木材は、以前は地域の業者から売り込みに来るほど手に入りやすいものでしたが、バイオマスエネルギーに使われる木材が高く取引されるようになると、徐々に手に入りにくくなり、今は自分たちで町有林に木を伐りに行き、町から木を購入して原料を確保しています。

安価な炭の流通、送料の問題が足かせに

炭焼きの仕事は、基本的にほぼ年中無休。
「休みはほとんどないんですよ。窯に合わせるから。年末年始も焼き続けていて、毎年大晦日でも早く終わっても夜7時。正月はみんなを休ませて、自分は1月6日から休む。在庫は持たず、ちょうど売れていくように焼いています」と柔らかい笑顔で教えてくれます。

作る人が少なくなって、重宝されているかと思いきや、「それがそうでないんですよ。飲食店をやっている人でも、外国産や石炭などが混じった安価な炭を使っているところがありますが、これでは香りがつかない、これを使ったら美味しくないからやめなよと言っています。炎の色を見たらわかりますよ」。

価格面でも変えていかないといけないと考えている計良さん。「みんな昔と同じような価格で売っていて、それでは成り立たないので、私たちは先頭を切って値段を変えています。自分で真面目に汗水流してやってきたから、安く売る必要はないと思って。品質がわかる人は、それでも買ってくれていますね」。

hongouringyo14.JPG焼き上がった炭を同じ長さに切りそろえていきます

本州の飲食店などからも問合せを受け、「ここの炭が一番いい」と褒められることも多いですが、ネックになるのは送料の問題。関東の会社で毎月コンテナで出荷しているところもありますが、ほとんどが採算が合わず諦めるといいます。
「昔は営業に行ってドッサリ注文を取ってきたりしていたけれど。今は、販売は十勝管内が中心。自分で配達できる範囲で売っています。今まで通り良いものを作っていけば、自然に広まっていくかなと思っています」。

次世代を担う頼もしい存在も

大変なことも多い炭作りを続けて来られたのは、「外で仕事をするのが好きで、自然が好きだから」と計良さんは言います。
「年中夏も冬も、景色を見ているだけで勇気をもらえるんです。あの場所が好きなんでしょうね。だからやってこれたんだと思う。夜は星を見たり、冬は月明かりですごく遠くまで見えるんですよ。それに感動して。でも、みんな夜は怖くて一人であそこにいるのが嫌だと言いますね(笑)。近くに墓地があった場所だからね」。
確かに、森に囲まれた真っ暗な窯に一人でいることを想像すると少し怖い気もしますが、そこまでの雄大な大自然に、計良さんが何十年も魅了されていることが伝わってきました。

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現在62歳の計良さんですが、これからの炭焼きを担ってくれる若い人たちもいます。
現在、活躍しているのが長女の夫のよしきさん。「勘はいいし、機械作業なども教えたら何でもできる。あんな子はなかなかいないですよ」と計良さんもベタ褒めです。
そして、先ほど窯で出会った次女の亜季さん。「根性があり、暑いのも平気で炭出しをやっています。炭出しがある時は手伝って、ない時は街でアルバイトをしています。炭は月12〜13日なので、ちょうどいいのかもしれません。休みたい時は休ませて」。

また、今は他のところで働いている甥二人もいずれここの仕事をすると言っているとか。
「何とか頑張ってこの後やっていけるように、土台をしっかりさせないといけないね。立派な倉庫を建ててやりたいなと思っています。あいつらも、『みんなで会社をやっていかないといけない、炭焼きは無くさずに守っていきたい』と話しているみたいです」。
若い後継ぎたちの話をする時に、表情がほころぶ計良さん。自分が大切に守ってきたことを、彼らもまた大切にしてくれることへの喜びが伺えます。

炭焼き窯の後ろの森には、なんとモトクロスができる本格的なコースが広がっています。これは趣味でモトクロスをやっていた計良さんが、遊びのために作ったもの。冬はスノーモービルに乗ることもできます。ガレージにはバイクも数台置かれていて、お子さんが子どものころはここで練習し、土曜日となると大会に出かけていたのだとか。
長女の夫のよしきさんも、モトクロスとスノーモービルの競技をやっていて、大会にも出場していたと教えてくれました。周りは森に囲まれた豊かな環境に、こんな絶好の遊び場があることも、この窯の大きな魅力です。

いつも笑顔で私たち取材班に窯を案内してくれて、丁寧に炭焼きのことを教えてくれた計良さん。
次世代の義理の息子や娘、甥が計良さんのプライドや炭焼きへの思いを受け継ぎたいと自然に思うようになったのも、この素敵な人柄のおかげだということがひしひしと伝わってきました。
今後もこの池田町で質の高い炭づくりを、若い世代と共に担っていくことでしょう。計良さんを魅了してやまない自然に囲まれながら。

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有限会社 本郷林業
有限会社 本郷林業
住所

北海道中川郡池田町字東2条3 (店舗)

電話

0155-72-2384

メール/info@hongoringyo.info


時代が変わっても、この窯を守っていきたい。(有)本郷林業

この記事は2020年8月6日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。