
顔をすっぽり覆う防虫メッシュパーカーは『悪い虫からお守りします』、ニオイを分解消臭する靴下は『クンクン、大丈夫だね』、動きやすい半袖タイプのツナギ服は『農作業をカッコよく』。これらは、仕事用品店「プロノ」の商品コピーです。店名どおりプロ用の衣類や用品、道具が揃ういわゆるワークショップですが、2004年からは一般のお客さんも対象とする業態へと転換しています。それを機に商品コピーも、ユニークなものやキャッチーな言葉へと転換。業界に新風を吹き込んできました。
プロの職人さんや農家の方々だけでなく、誰でも気軽に来られるワークショップ。店員さんも明るく、きさくな感じ。そして個性的です。さらに最近は、外国人スタッフも仲間入りしました。
ワークショップに外国人? そうなんです。プロノを運営するハミューレでは最近、2名の外国人を初めて採用しています。さっそく、札幌新道沿いにある本社へお伺いし、その理由などについて、お話を聞きました。
ハミューレの本社、そしてそのすぐ横に並ぶ札幌本店が取材の舞台
店舗展開を見据え、外国人を初めて採用
お会いしたのは、同社が採用した外国人のひとり、ゴライェブ・マキシムさん(以下、「マキシムさん」)。ハミューレの本社と同じ敷地内にある「プロノ札幌本店」でアルバイトとして働いています。26歳。フランス出身です。
「日本には、ワーキングホリデーで来ました。日本語学校に通いながら、ここで週3日、アルバイトをしています」とマキシムさん。
そんなマキシムさんを訪ねたのは、彼が来日して8カ月目、「プロノ」に入社して1カ月が経った頃です。日本語の受け答えもしっかりしていて、会話のなかで浮かぶ笑顔が、とてもチャーミングな好青年です。
こちらがマキシムさん
とはいえ、同社ではなぜ、外国の若者をアルバイト社員として迎え入れたのでしょうか。多くの業界で問題になっていた、人手不足が原因なのでは......。
「おかげさまで当社では、新卒採用も順調ですし、店舗によってバラツキはありますが、パート・アルバイト社員もある程度、充足できています」
そう話してくれたのは、総務部人事課の齊藤浩二課長。マキシムさんを採用したのには、もっと前向きな、別の理由がありました。
「今後、さらにリアル店舗を展開していくというのが、当社の戦略です。一方で、少子高齢化のなか、労働人口が減っていくことはあきらか。そこで、これまでになかった、新たな人材の確保が必要になると考えています」
同社が採用経験のなかった外国人に目を向けたのには、そんな背景があったそうです。マキシムさんとの出会いは、外国人の就労についてジョブキタ紹介(※)が行ったヒアリングに答えたことがきっかけ。かねてより外国人の雇用に興味を抱いていたなか、絶妙のタイミングでした。ジョブキタ紹介が外国人採用のマッチング・フォローを行っていたことから話が進み、今回の縁が生まれたのだそうです。
※ジョブキタ紹介とは、弊社株式会社北海道アルバイト情報社が持つ人材サービスのひとつです。
総務部人事課の齊藤浩二課長です
小さい頃から抱いていた、日本への興味
「齊藤課長のいつもの冗談が、また始まったと思いました。『マキシムという子がいるんだけど、採用する?』って電話で聞いてきたんです。何の前振りもなかったので本気にせず、『あだ名ですか?』と返したほどです」
以前、齊藤課長と長く同じ現場で働いていて、ちょっとひょうきんな(?)その性格を知るプロノ札幌本店の富樫史乃店長は、そう言って思い出し笑い。だから、最初は、信用していなかったと話します。
「絶対、嘘だろうなって(笑)。でも、本当だとわかり、マキシムさんの経歴を聞かせてもらうと、今度は、ウチで良いのかな、来てくれるのかなと不安になりました」
プロノ札幌本店の富樫史乃店長です
フランスの大学を卒業した後、カナダに留学していたというマキシムさん。専攻は宇宙工学などの先端技術。フライトシミュレーターの開発にも携わっていたそうです。それなのに、どうして日本へ? という問いかけに、マキシムさんは、こう答えてくれました。
「音楽好きの父が、日本の音響機器の素晴らしさをよく話していました。私は小さい頃からそのような話を聞き、ずっと日本に興味を持っていたんです」
小さな国なのに、世界でもトップクラスのテクノロジーを持ったメーカーがたくさんあることに憧れを抱くとともに、日本人の彼女の影響も大きかったと打ち明けるマキシムさん。
「彼女は、ワーキングホリデーでカナダに来て英語を学び、アルバイトをしていました。そこで出会ったことも、日本に行ってみようと思ったことがきっかけになりました」と、これは少し恥ずかしそう。
ところが、2020年1月の来日直後に新型コロナウイルスの感染拡大が起こります。当初、アルバイト先として希望していたIT関連の業界は軒並みテレワークとなり、採用そのものがストップ。おまけに、フランスにも帰れなくなりました。
「とても不安な時期が続きました......」
そう振り返るマキシムさんですが、結果としてそれが今、当初は思いもしなかったここ、「プロノ」につながる縁となりました。
ジョブキタ紹介のキャリアアドバイザーと二人三脚で仕事を探していたマキシムさん
「かっこいいフランス人!」で盛り上がる
とはいえ、初めてとなる外国人採用に、不安の声などはなかったのでしょうか。齊藤課長に聞いてみました。
「会社としては、特に心配することはありませんでした。ただ、一緒に働くことになる店舗のスタッフには『言葉が通じなかったらどうしよう......』といった不安もあったはずです」
そうしたなか、富樫店長はマキシムさんの語学力などを予め把握したうえで、店舗スタッフと何度も、何度も話をし、説明することで一つひとつ、不安を解消していったのだとか。
商品のことも先輩が丁寧に教えてくれます
「当社では以前から、障がいのある方の採用も行っており、働く側の立場で考え、必要な改善を行ってきた経験があります。そうしたマインドも生きたのだと感じていますし、どのスタッフも、積極的にコミュニケーションを図り、そのなかでマキシムさんも、すでに重要な戦力となっているんです。ちなみに『若くてカッコいいフランス人の男性がやってくるよ!』とスタッフに言いふらしたところ、店のなかが、ざわつきました(笑)」
またもや、思い出し笑いの富樫店長に、齊藤課長は、こんな話も聞かせてくれました。
「マキシムさんが面接に来てくれた日、本店の見学に連れて行ったんです。そうしたら、スタッフはその姿を見て、『ほら! マキシムさんが来た、来た』と大盛り上がり。富樫店長のお陰だと、感謝しました」
面接日なので、まだ採否は出ません。それなのに、もう働くことが決まったように、みんなに挨拶して回ったマキシムさんのようすも、店舗の雰囲気を盛り上げたのだとか。
「みなさん、最初からとてもやさしくしてくれました。だから、店に出て働くことが、すごく楽しいですね。みんな笑顔だし、私も笑顔になれます。そういう気持ちで働けるのが、すごくいいと思います」
そう話すのはマキシムさん。防寒着など冬物がたくさん売れ始める秋に比べると閑散期といえる夏に働き始めましたが、『もっと忙しい方がいい! テキパキ働くのが好き』と、それはもう前向きです。
チームワークの向上に大きな成果
会話だけでなく、ショートメールでやりとりする日本語も、マキシムさんは最初からまったく問題がなかったと、齊藤課長は話します。採用が決まった時「日本が好きで来てくれているのだから、フランスに帰る時にはもっと日本を好きになってもらえるよう、店としても頑張るので、よろしくね」と、そんなメールを送ったそうです。
「マキシムさんからは、『わかりましたー!』と、すっかり理解してくれたようすの、元気な返信。とても親近感が湧いたというか、温かな気持ちになったことを覚えています」
働く場所、そこにいるスタッフが、外国人にとっては日本の印象になる。そうした思いが強まった瞬間でもあったと、齊藤課長は振り返ります。
マキシムさんの現在の業務は商品展示を始めとする店内の整理・整頓などが中心。商品知識も身につけているところだそうです。
「フランスにも似たような店はありますが、主にDIY向け。仕事のプロが使う道具については、あまり知りませんでした。いろいろなものがありますね」とマキシムさんは感心しきり。
それだけに、興味津々のマキシムさん。彼が店にいる時間帯は、スタッフはみんな、笑顔が絶えないという明るいキャラクターの持ち主であり、かつ勉強熱心。その姿は店舗運営にも良い影響を与えているのだとか。
「マキシムくんは、日本語のコミュニケーションは問題ありませんが、働き方など日本の慣習については、教える必要がありました。店長、副店長が中心となり、文化の違いがあることを理解したうえで、どうすればみんなが働きやすい店舗にできるか。自然とそう考えるなか、以前にも増してチームワークが向上したと強く感じられるんですね」と齊藤課長。マキシムさんだからこそ、という部分はあるにせよ、それが初めての外国人採用で得られた大きな成果だと話しています。
打ち合わせなども基本は日本語のみで行っています
「少々、お待ちください」をマスター
整理・整頓がメインの仕事ですが、店舗に出ていれば商品のことなどについて、お客さんに尋ねられることもあるというマキシムさん。困ることはないのでしょうか?
「教育担当をしていただいている社員の方が、私が質問されていると、すぐ駆けつけてサポートしてくださるので、不安を感じることはありません」
マキシムさんはそう話します。ただ、常に見ていられるわけではないはず。すぐに『助け』に来てもらえない時はどうするのでしょう。
「聞かれてもわからない時は、『少々、お待ちください。他のスタッフを呼んできます』とお伝えしています」
それを聞いていた富樫店長、目がきらりと輝きました。大きく頷いて、こう話します。
「日本人でも、慣れないと難しい対応です。それができることが、マキシムさんの素晴らしいところ! 最初に教えた時からすんなりと理解し、マスターしてくれたんですよ」と、自分のことのようにうれしそうです。
「在庫を聞かれた時に答えられるように、管理システムについて覚えてもらうことを目標にしていましたが、もう、ほぼできかけているそうですね」と富樫店長に聞くのは齊藤課長。
それに答えて富樫店長。「とにかく、一言えば十答えてくれる感じで、パソコンの知識も問題なし。今は、在庫管理のほかレジの練習も始めています」
これにはマキシムさん、ちょっと慌てたようすで、「どちらも、まだ覚えたとは言えません。もっと練習が必要です。それに、レジに立って対応することを想像するだけで、とっても緊張します......」
職場、仕事には慣れたけれど、教育担当のスタッフから指示を受けなければ、どう動いていいかわからない。そう話すマキシムさんに対して富樫店長が応えます。
「働き始めてまだ1カ月(取材時)。できないのは、当たり前のこと。でも、それがわかっているからマキシムさんは『何か手伝うことはありませんか、私ができることはないですか』と、すごく聞いてくれるし、前向きで素直。それが、みんなのモチベーションを高めてくれています」
店舗ではとにかく、みんなの『教えてあげよう!』という意識がすごいのだそうです。
日本と海外との「架け橋」になりたい!
「私は忙しいのが好きと言いましたが、日本は何ごとも、とても急いでいる感じがしますし、もう少しゆっくりでもいいのでは? と思うこともあります」
そう話すマキシムさん。急いでいる、というのは、『慌てて対応しているように見える』といった意味合いのようです。
「お店が混み合い、スタッフがバタバタしているような時は決まって、マキシムさんが『リラックス、リラックス』って。そう言ってもらえることで、自分たちの動きにハッと気づきますし、とても救われているんです」とは富樫店長。マキシムさん(外国人)とともに働かなければわかり得ない感覚だったのだとか。
「そういう感覚、視点の違いは、とても刺激になっていますし、学ぶところも多いと感じています。別の店舗にはインドネシア人のスタッフもいて、また捉え方が異なります。少し大げさかもしれませんが、そうした多様性を理解することが、これからの会社のあり方を考える上で非常に重要だと思うんですね」と齊藤課長もうなずきます。
取材中の撮影にも笑顔で応えてくれるマキシムさん
会社に、いわば新風を吹き込んでくれたマキシムさんに、今の目標を聞いてみました。
「カナダでシステム開発のアルバイトをしていた時、日本の案件を担当し、お客さんにも会いました。でも、コミュニケーションが難しかった......。その経験から、仕事場のボスに『私は日本に行って日本語を学んできます』と告げて出てきました。だから、まずはカナダに戻って活躍することが目標です」
言葉だけでなく、日本のカルチャーを理解し、日本と世界との「架け橋」になりたいと話すマキシムさん。すっかり、お店のムードメーカーです。
- ハミューレ株式会社
- 住所
北海道札幌市東区北34条東14丁目1-23
- 電話
011-712-8300
- URL
作業服・作業用品専門店のチェーン展開、インターネット販売、卸売、商品の企画開発。
プロノ45店舗(直営40店舗、FC5店舗)