百貨店と言えば、都会にひしめくビルの合間に大手のお店が軒を連ねる...そんなイメージをお持ちではないでしょうか。そんな百貨店の中で、大都市には出店せずに地域密着でまちを支えるお店があることをご存知でしょうか。
今回取材でお伺いしたのは北海道の北部に位置する名寄市。旭川市から北に1時間半ほどの距離にあるまちです。旭川、稚内、日本海、オホーツクと様々な場所の中間地点にあり、商業や産業もさかんですが人口は約28,000人。札幌市の約195万人や旭川市の約34万人と比較して、決して大都市というわけではありません。そんな名寄市の中心地にある大きな百貨店、それが西條(さいじょう)です。他にも「ベストホーム」「Qマート」「BESTOM」などの店舗ブランドを展開しています。北は稚内から、枝幸町、東神楽町、中富良野町、下川町、猿払村、幌延町など、かなり人口が少なくなったエリアでも頑張られているのも特徴です。
競合するチェーンのスーパー・百貨店が道内には数多くある中、まちの人にひときわ愛されている西條にその秘訣を伺うべくお邪魔しました。
名寄から始まって、地域に根差す
管理本部 総務部長 阿部 修さん
西條の物語のスタートは、戦後の市場だったと言います。創業者が名寄の市場で衣類を売るお店を始め、昭和32年(1957年)に「西條呉服店」となりました。その後も成長を続けた西條はいくつものテナントやスーパーなどが複合した百貨店となり、名寄をはじめとした道北を中心にいくつもの百貨店を展開していき、現在は百貨店の他にも小型店舗、ホームセンターなど合わせて16店舗を運営しています
それでは西條とはどんな会社なのでしょうか。会社のことを良く知るベテランの社員さん、総務部長の阿部 修さん、そしてマネージャーの中木 徹さんにまずお話を伺ってみましょう。
「私たちの会社のポリシーとして、地域に根差し、まちの皆さんに良いものを届けたい、お買い物する場所を守りたい、そんな気持ちで道北方面を中心に展開してきました。誰もが憧れるデパートで、ステイタスを感じるような宣伝戦略で、煌びやかに、派手に展開していく!という感じではなく、地元のみなさんに向かい合って、地道に当たり前のことをきちんとやり続けてきた...そんな感じでしょうか」
とても物腰の柔らかい阿部部長は、西條の長い歴史の一部ではありますが、その人生を捧げ、最北の稚内をはじめ、かずかずの店舗を守る責任者として見てきたそうです。そのなかでも大切にしてきたことは、人材の採用と育成。そこについては中木さんから。
管理本部 総務部 サブマネージャー 中木 徹さん
「総務系を担当する私からすると、困ってしまうくらいコンプライアンスを守る方針がすごい会社なんです。法律が変わればすぐに対応するのはもう当たり前ですし、分からないことがあれば目の前が労働基準監督署ですから、すぐ聞きに行ったりなんかするんですよ。労働基準法などの当たり前のことを守るだけでなく、最近では本当にどこも担い手不足なこともあるので、福利厚生の充実も図って、従業員の皆さんが働きやすい環境を整えていくことで、地域を愛する良い人材に来てもらって、働き続けてもらいたいと考えています。労働環境を常に時代にフィットするのもに改善していくことで、地元の高校生が地元に残りたい!となったときに、西條で働く!という選択肢を考えてくれるかもしれないですし、地元を離れた若者が、地元に戻りたい!となったときの受け皿にもなれるんじゃないかと考えています」
ハローワークの求人票だけでは見えない、働く人に対しての想いがお話しを聞いてすぐに伝わってきます。しっかりとした、真面目な社風が見える西條ですが、お店の雰囲気はどんな感じなのかを伺うと、それは地域密着という言葉がぴったりなあたたかみを感じるものでした。
「私たちの会社では、月並みかもしれませんが、人と人との触れ合いを大切にしています。ちょっと店舗を覗くとお客さんとスタッフが仲良くなって、『あら!こんにちは〜』って声をかけあっている様子なんかも普通です。社員が配属される店舗は基本的に希望を聞いて叶えるようにしていて、決まった年数を働いたら店舗を異動する...みたいなこともほとんどありません。働いていただくと離職される方も少ないので、より地元の方々との関係も深まっていくんですよね」
地域のお客さんに愛されること、そして従業員の皆さん自身が地元と会社を愛せる環境を作ること、そのどちらもが地域密着の会社には必要なのだという想いがお話からにじみ出ているようでした。
若手も女性も大活躍!
商品部 バイヤー 白井 椋さん
人口の少ない地方で展開する企業では、人材確保の競争率も必然的に高くなってしまいます。そんな中でも西條は良い人材を見つけるためにも働き方には非常に柔軟で、転勤の有無や勤務体系に合わせて様々な社員の形態を用意しています。そんな中、大活躍中という若手の職員さんにもお話をうかがえました。
白井 椋さんは入社7年の25歳、会社でも期待の若手社員です。入社当初は配送や売り場の仕事をされていて、現在は商品部のバイヤーをされています。
白井さんは旭川の出身で、高校を卒業後「すぐに働きたい」という気持ちで進学ではなく就職を選びました。
「高校生の時、コンビニでアルバイトをしていたんです。その仕事にすごくやりがいを感じ、お客さんと接したり商品を売ったりする仕事をしたいと思っていました。それで就職活動をしたときに見つけたのが西條でした。実は親が名寄市の隣の士別市の出身で、お墓参りなんかの時に士別の西條には何度も行っていたのでよく知っているお店でした。地元からも比較的近いですし、ここで働きたいな〜と思いました」
しかし高校を卒業して就職し、知らないまちで親元を離れての初めての一人暮らしに不安はなかったのでしょうか。
「僕は入社したときの同期が名寄店では6人もいたので、仕事をする上で心細いことはなかったですね。先輩たちやパートさんたちも面倒を見てくれて(笑)、不安はありませんでした。だけどやっぱり、初めての一人暮らしはなかなか慣れませんでしたし、最初はとってもさみしかったですね。初めての現場は、配送担当で、天候などによっては決まっていた商品が届かなくて四苦八苦することもあったので、家に帰って一人きりっていうのは辛いと思ったこともあります。ですが、やっぱりこの仕事をしていて『お客さんに直接感謝を伝えてもらえる』っていうのがとっても嬉しくて、それがやりがいになりました。何度も来てくれるお客さんはやっぱり顔を覚えるようになって、挨拶してもらえたりすると嬉しいですよね」
そんな白井さんに転機が訪れました。それは、同じ名寄店で働く一人の女性です。その方と結婚し今は3歳と1歳のお子さんと4人家族で、奥さんは産休を取っていらっしゃるのだとか。奥さんもかなり期待のスタッフさんで「早く会社に戻ってきてほしい!」と社員みなさんが一同に口にするほど。産休や育休が制度上はあるだけ...ではなく、実態として活用されていることもわかりました。また、ご本人の希望にあわせて、子育て中は1度パートとして働いて、時が来たらまた正社員に...といったフレキシブルな対応もされているそうです。
西條では実際に小さなお子さんのいるお母さんも積極的に採用しています。お子さんが熱を出して急に出られなくなった時にも対応ができるように、仕事の内容や人員の配置を工夫することでお母さんにも安心して活躍してもらえる職場を目指しているのだとか。そうして西條は社員が約800人いるうち女性が600人もいるという、女性が大活躍できる会社となっています。
そんな西條で働き、家族ができた白井さんは考え方も変わってきたと言います。
「家族ができて本当に嬉しかったですね!仕事に対する考え方とかもすごく変わったと思っているので、家族に成長させてもらっていると感じています。それに、子どもができて初めて気が付いたのですが、名寄市はとっても子育てがしやすい環境だと思っています。子育てに関する制度もしっかり整っていますし、大きな病院もありますし、まちがコンパクトなのでどこに行くにも便利ですよ。休みの日に家族で出かけるのにも旭川くらいならすぐ行けちゃいます。まちの中心部に職場があるんですが、徒歩5分のところに住めているので通勤にも時間がかかりません。色々な面で良いまちだな〜と思っています。」
「開店したら閉店しない」という想い
本当に人を大切にする企業だということが伝わってくる西條ですが、その秘訣について阿部部長はこんなことをおっしゃっていました。
「西條グループの店舗は、本当に地域に密着したショッピングセンターなんですよね。会社としては札幌や旭川など、人口の多いところに利益を追って出店するという方向ももちろんあると思います。しかし『道北で地域の人たちの生活を支えたい』という創業者の強い想いがあって、西條は人口の多いまちへの進出は今のところしていません」
近年では大手のショッピングモールが地方にも多数進出し、そのことで地域の商店が無くなってしまい、さらにそのショッピングモールが採算が取れずに撤退することで地域の商業が衰退してしまうといった問題もよく聞かれます。しかし西條はその状況を生んではいけないと考えています。
「過疎化や経営者の高齢化が進み、相次ぐ地元スーパー・商店の閉店で、買い物をする場所がない、行くことができないというのは本当に問題になっています。そんな中で私たちができることは、お買い物をする場所を提供すること、地域でまちの人たち同士が顔を合わせるコミュニティの場も一緒に提供することです。そこで、人口が1,000〜5,000人といった本当に小さなまちでも展開できるように『Qマート』という小型の店舗を開発しました。物流方法やかかるコストなどの問題はやはりありますが、地域課題に寄り添っていっています。そんな状況であっても『開店したら閉店しない』を信条にしています。どんなに田舎の小さな集落でも、誰かが住んでいて、必要とされるかぎり、利益のためだけの閉店はしてはいけないと考えています。私たちの会社は道北で地域を支える会社ですから、まちを大切にすることが会社や社員を大切にすることになるんですよね」
あたたかい笑顔があふれる西條のお店の中には、こんなにも地域のことを考え、まちの人を愛する想いがたくさん詰まっているということが働く皆さんから伝わってくるようでした。
売り手と買い手。それがビジネスの基本ですが、西條の考え方はもしかしたら、利益を上げていくということがメインミッションとして最初からないのかもしれません。今や世界の巨大企業となったGoogleとどこか似た考え。世の中に必要とされることを提供していこう!必要とされればビジネスはついてくる。それがこれからの地方や過疎化が進むまちで生き残っていく考え方かもしれません。すでに地域の人々が生活していくためのインフラとして認識されている西條グループは、これからもまちの人たちの暮らしを支え、働く場となり、必要とされる企業であり続けるに違いありません。
- 株式会社 西條
- 住所
北海道名寄市西3条南6丁目25-1
- 電話
01654-2-3001
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