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北海道は空知エリアに位置する美唄市。昭和39年、このまちに知的しょうがい児入所施設「美唄学園」が開設されました。そこから社会福祉法人「北海道光生会」として事業規模を拡大し、現在では入所だけではなく通所サービスやしょうがい児向けの放課後等デイサービス、相談支援業務、一般就労のサポートなど、美唄市内に6カ所の施設事業所と39カ所のグループホームを設け、その業務は多岐にわたります。
今回は全ての始まりでもある美唄学園にお邪魔してきました。今や札幌以北ではこうした児童福祉施設はここ美唄だけとなる貴重な場所です。
下は4才、上は18才までが利用している児童福祉施設
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施設に到着すると早速、園の裏側にあるグラウンドから子どもたちの楽しそうな声が響き渡ってきました。取材陣をアテンドしてくれた園長先生の姿を見つけるやいなや飛びつく子どもたち。とてもイキイキとした表情を見せてくれます。
子どもたちがみんな慕う園長先生、林寺隆憲さんです。
美唄学園は、18才の高校3年生までが入所できる施設。年齢は様々で、グラウンドで遊んでいた子どもたちも年齢の幅がある様子。今は一番下の子で4才です。
ここにいる子どもたちは美唄市内だけではなく、北海道の全域から入所してきます。裏を返せば、それほど児童の入所施設が少なくなってきているということが挙げられるでしょう。
それにしても施設がとっても綺麗で新しい。さっきまでグラウンドで遊んでいた子どもたちも、園に戻って各々気持ちよさそうに過ごしています。
「今までは児童と成人一緒の施設だったんですが、それらを分けて運営することになりました。それで、平成26年の2月から児童施設の美唄学園を新しい建物に移したんです」と、教えてくれた園長先生。
子どもたちの前に立って指導するよりも、一緒に成長したい
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2018年4月に美唄学園に入職された保育士を務める中野利沙さん。旭川市の出身で、そのまま市内の短大に進学しそこで保育を専攻していました。
「私はもともと児童福祉に興味があって、そういう就職先を探していたところ相談に乗ってくれた先生が『中野さんにはここが合っていると思うよ』と言って真っ先に紹介してくれたのがここ、美唄学園でした」
その後実際にこの施設に来てみた時に感じた印象は「外から来てみて、安心できる空気を肌で感じられた気がしたんです」とのこと。ここがいい、そう思い中野さんは美唄学園へ就職を決めました。
「入職した当初は、園にいる子どもたちと会話をすることから始めました。そして最初は子どもたちの名前をしっかり覚えることを意識。間違えられたら悲しいと思うから」と相手の立場に立って考える中野さんは、積極的に自ら子どもたちに話しかけていったそうです。
そもそも、児童福祉に興味を持ったきっかけは何かあったのでしょうか?
「在学中、保育園や幼稚園にも実習に行きました。その時、先生としてみんなの前で立って何十人を指導するより、一緒に子どもたちとゆっくり生活し一緒に成長していく、という方が自分には合ってるんじゃないかなと思うことが実習中たくさんあったんです」
そんな経験から児童福祉の道に進むことを決めた中野さん。
「私が最初にみんなの名前を覚えようとしたのと一緒で、最近では子どもたちも『中野さん』って名前を呼んで頼ってくれるようになってきたことが嬉しいです」と最近の嬉しかったエピソードを教えてくれました。
今はまだ入職したばかりで、とにかくがむしゃらに頑張っているところ。「今後は先輩たちのきめ細やかな気配りなど、少しずつ吸収し自分のものにしていきたい」と話す中野さんでした。
すぐに結果が出るものではなく、共に感じるやりがい
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続いては、美唄学園で保育士のサブリーダーを務める千葉麻衣子さん。2012年に入職し、6年目を迎えました。千葉さんも大学で保育を学び、しょうがい児施設での就職を希望していたひとり。
千葉さんたちのお仕事は、子どもたちの生活支援がメインです。
「平日は子どもたちを学校に送り出して、通っている学校との連携や、高校生は進路も関わるのでその相談もサポート。幼稚園の子たちは生活の基盤からつくっていくところも担います」
保育士として、時には保護者として、そして一緒に歩んでいく立場の人間として、日々子どもたちと向き合っています。
この仕事を通じての想いも聞いてみました。
「最初は思春期の子どもとの接し方で難しいなと思うこともありました。でも、周りの先輩方が親身になって話を聞いてくれる環境なので、そういった壁は乗り越えてこれました」
だからこそ、6年もの間続けられたのかもしれないですね。
園長先生と楽しそうに楽しそうに話す千葉さん。園長はじめ、まわりの後輩たちからも慕われ頼られている様子が見てうかがえました。
「私が1年目の時に担当していた子が、高校を卒業し次の施設へ移らなくてはいけなくなった時に手紙を書いて最後の日に直接泣きながら読んでくれたことがありました。あの日のことはずっと心に残っていますね」
何気ない日常が、宝物になるという魅力のあるお仕事なのかもしれません。
毎日が変化の日々、毎日が新鮮
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もともと保育士や幼稚園教諭を目指していた人が、施設実習でここを訪れたことをきっかけに「子どもたちとの生活の関わりの方が合っている」と気づいて進路変更する人も多いそう。
子育ての経験をしたことがある方も分かる通り、子どもたちは昨日できなかったことが今日できるようになっている、その成長は突然やって来ます。そんな姿を近くで見ることができ、毎日が新鮮なのです。ここで仕事をしていく中でもそう、すぐに結果が出るという業務ではありません。ただ、長い目で見たときに、将来的に達成した瞬間に立ち会えるというやりがいがたくさん詰まった職場です。
「ただ、児童だけではなく、その先についても学ばないといけないのです」と同法人爽やかネットワークのマネージャーの鈴木正和さんは話します。
こちらがマネージャーの鈴木さんです。
「子どもは絶対大人になります。大人になった先、どうすれば良いかということを職員も知っておかなければサポートできないのです」
成長していくにつれ、育ちの場も取り巻く関係者も変わっていきます。その時期に、子どもたちが秘めている成長の可能性を閉ざすことなく、健やかな成長の手助けとなる支援を行わなければなりません。だからこそ、ここの法人には成人の施設もありその後どうサポートしていけば良いのかということも学ぶことが出来るということが大きいのです。
さらにマネージャーの鈴木さんは言葉を継ぎます。
「福祉といえば、『人のために』という想いを持つ人が多い。でもここは、利用者さんに色んなことを教わる場所でもあるんです。学歴や資格は関係なく、人と関わっていく中で一緒に大人になっていきたい、そういう気持ちがあれば誰もが職員になる資格があります」
自分も共に楽しみ、成長できる素敵な職場。空知管内唯一の児童しょうがい福祉施設美唄学園は、豊かな自然に囲まれ、今日もここで子どもたちと一緒に関わる大人たちも日々成長中です。