
鶏飼いたちの日常
農業大国北海道。広大な大地を活用し、農作物や酪農、畜産、園芸と「農業」と言っても数多くの種類があります。今回はその中でも、「鶏卵農場」を営む北海スターチック株式会社の恵庭農場にお邪魔しました。
札幌に本社を構えるこの会社は、全道各地、白老町、愛別町、釧路市、恵庭市に農場を持ち、ひよこから成鶏まで一貫管理で卵を生産しています。当時の社長浜田輝男さんが1971年に設立し、もともとはヒナを農家に販売する商売としてスタートしているため、社名にある「チック」とは、ヒナという意味。
最近ではこの雪国北海道を飛び越え、美味しい卵の生産技術を世界に発信したいと南国ハワイにも農場を構え、現地のスーパーやレストランなどで提供しているのだとか。
2018年5月には、恵庭農場に最新の設備が揃う新しい鶏舎が出来ると言い、進化の勢いを感じざるを得ません。
そんな恵庭農場には現在、ヒナの育成農場である白老町から運ばれてきた鶏が約14万羽程飼われています。今後新鶏舎が出来るとその数はなんと22万羽にまで増える予定です。
北海スターチックが出荷しているたまごは、ホクレン農業協同組合連合会からの委託を受け、「どさんこ卵ど」「樹のめぐみ」といったパック卵製品などを製造しています。
今回案内してくださったのは、本社生産部所属であり、現在恵庭農場で管理運営を担当している飯塚貢さんと、本社で総務人事を担当する柵山良太さん。
飯塚さん(右)と柵山さん(左)。とっても仲が良さそうなお二人。終始笑いが絶えません。
北海道栗山町出身の飯塚さんのご実家は鶏卵農家。その実家を継ぎ、その後2006年にこの北海スターチックの社員として恵庭農場にやって来ました。鳥飼歴31年というそんな大ベテランが話す、養鶏のやりがいとは・・・?
「鶏がちゃんと良質な卵を産んでくれること。どんなに注意して飼育していても、期待通りにいかない時もある。そんな時は寂しい気持ちにもなるし、管理が悪かったんだなと反省する」と飯塚さんは話します。
今では室温管理はもちろんのこと、餌はタイマーで、水はどれくらい飲んだのかといったことも全てデータで管理しています。繊細な鶏にとって、この管理はとても重要なこと。日々のチェックは怠りませんが、24時間四六時中鶏を見ていないといけないというわけでもありません。
社員の勤務時間は8:00〜17:00。その後毎日交代制で2時間だけ残る社員がいますが、その仕事内容は鶏の様子の見回り。18:00に鶏舎が消灯時間を迎え、その後異変は無いかを確認するという2時間。働く側にとって、体力的に厳しいということはありません。
2階建てのその新鶏舎は、エレベーターも付く予定。まだピカピカの新鶏舎。
新たに出来る鶏舎はさらにオートメーション化が進みますが、そのためどうしても機械に頼ってしまい、鶏自体を見ることが出来る人が少なくなってきてしまうのが課題になります。飯塚さんにとっての今後の課題は、『人を育てて行くこと』。
現場には、知識だけでは足りないことも多くあると言います。「鶏の顔を見て、元気ないと判断できるようになるには5年くらいはかかるな〜」と笑う飯塚さん。
取材陣も鶏舎の中にお邪魔しましたが、私たちには到底鶏の表情で状態を読み取るなんてことは不可能なことでした・・・。
これを少しずつ、少しずつ分かっていけるように指導するのもベテランの役目です。
人数がそこまで多くはないからこそ生まれる風通しの良さ
ここ恵庭農場を支えるのは社員だけではありません。
「ここで働くパートさんたちは、『いなくてはならない人たち』そんな大切な存在かな」と飯塚さんが話すその皆さんは、10年以上働く人が多く、70才近くまで働く人も何人も見てきたそう。そんな長く勤めることが出来る理由のひとつで挙げられるのは、やはり「働きやすい環境」にあるのではないでしょうか。
仲良し主婦の皆さん。エプロンの汚れについて盛り上がっています。
取材中、互いに声を掛け合いながら真剣に作業をしていた主婦パートの皆さん。集まっているところを写真に撮らせていただきましたが、それを微笑ましそうに見ている飯塚さんともずっとコミュニケーションを取っている姿が印象的でした。
「昼休憩の時とか、おしゃべりが凄くてうるさいくらい」と飯塚さんは笑いますが、仕事の時は真剣!そんなメリハリを持ち、日々恵庭農場を支えているパートさんたちです。
主婦の皆さんと話す飯塚さんの表情はとても柔らかく優しいもの。無理はさせず、出来るお仕事をお願いしているのも長く働けるポイントのひとつなのかもしれません。
隣の芝生が青く見えた過去。でも今は、リーダーになりたいと日々活躍中の若手社員
現在28才、正社員として働く若手ホープ齊藤さんにもお話をお聞きしました。
生まれも育ちも札幌の齊藤さんは、大学時代の先輩の紹介でこの会社に新卒で入社しました。
「僕は動物すら飼ったことなかったので、1番最初ここに来ての印象は『鶏がすげー見てくる』でしたね(笑)」と笑いで場を和ませます。
「正直、最初は辞めたくて辞めたくて仕方なかったんです」。大学を卒業したまだ間もない頃、周りの友人と比べると隣の芝生が青く見えてしまったそう。
「それでも、機械も取り扱うこの現場では、何か機械トラブルが起きた時などにその都度教えてもらうのですが、その度にスキルアップしていくのを感じて、それがどんどん楽しくなっていきました」と話す口ぶりは、まさに堂々たるもの。飯塚さんを始め、本社の柵山さんも頼りにしている様子。
本社の社員も、現場の社員も、こうして自然に笑い合える環境です。
農業の世界に飛び込んだ齊藤さん。今だからこそ想うことがあります。
「農業って男ばっかりな印象があると思うんですが、決してそうではないと思うんです。だからこそ、業種を聞いて『嫌だな』とかってすぐに線引きせずに挑戦してみて欲しい、そんな想いもあります」と話してくれました。
今後の目標は?と尋ねると、笑顔で宙を見上げ、悩みながらも話してくれました。
「今は本当に人に恵まれてるなーって思うんですよね。そして今後は後輩もどんどん入ってくるからこそ、自分自身がもっとリーダーとなるような人になりたいですね」。
それを聞いていた飯塚さんと本社の柵山さんから「そこは『社長になりたい』でいいだろ!」なんて野次が飛びます。
そんな和気あいあいとした北海スターチックから、皆さんの食卓に美味しい卵が届くように、今日も農場にいるスタッフたちが自分の子どものように愛情を持って鶏と関わっています。