
豊かな自然に囲まれて、その土地の野菜や果物が味わえる農園レストラン。その先駆けとして知られるのが長沼町にある「ファームレストラン・ハーベスト」です。運営するのは5代続くリンゴ農家の仲野農園。初代は深川で農業を営んでいましたが、時代の流れに合わせた観光型農園を目指し、3代目のころに札幌にも近い長沼町へと移住。ファームレストランを1995年にオープンし、現在は平日のランチでも行列ができるほどの人気を博しています。今回は、家族が紡ぐファームレストランの物語です。
アップルパイは家族そのもの。
レストランに併設されたスイーツショップ「ハーベストファーム」の店長を任されているのが長女の仲野春香さん。お店の人気商品でもあるアップルパイをはじめ、ケーキや焼き菓子づくりの責任者として活躍しています。
スイーツショップ店長の仲野春香さん。
春香さんがここで仕事をするようになったのは、高校卒業後に製菓の専門学校へ通い、2年ほど千歳のお菓子屋さんで販売の仕事を経験した後のこと。もともと、お菓子づくりに興味はあったものの、実家で働く気は全くなかったとか。「子どものころから両親の仕事を見ていて、大変そうだし、休みはないし、ここではやりたくないなって思っていました(笑)」
それでも自身がお菓子屋さんに勤めてから考えや気持ちが変わっていったという春香さん。「親の大変さがよく分かって、手伝ってあげたいなという気持ちになったんです。自分が学んだお菓子づくりの知識やノウハウを生かしてみたいという気持ちもありましたし」
その後、スタッフの一人として家業を手伝うようになり、お店に並ぶスイーツにも春香さんが考えたものが並ぶようになりました。「ロールケーキやプリンは私が始めたスイーツです。アップルパイは以前からありましたけど、形は少し変わりました。片手で簡単に食べられるよう、四角から三角に。見た目は小ぶりになったんですがリンゴの量はほとんど変わってないので、以前より果実感を楽しめるようになっています」
リンゴは酸味が一番大事!
人気商品は昔も今も変わらずアップルパイですが、使っているリンゴは時期によって異なり、その扱いはとても難しいのだそう。「農園では何種類ものリンゴを栽培していて、アップルパイ用にはそのうちの7種類を組み合わせてジャムをつくっています。ウチではできるだけリンゴそのものの味を生かすように余計なものはほとんど入れていません。なので、時期によって味が違うんです。お客さんにはその違いも楽しんでもらいたいですね」
実は春香さん、かつてアップルパイが苦手だったそう。「アップルパイって妙に甘すぎたり、シナモンが多すぎたりしますよね。だから、あまり好きではなかったんです。でも、ウチのアップルパイは大好き。甘みはあるけどしつこくなくて、生地もバターをたっぷり使ったぜいたくな味わい。スタッフみんなウチのパイが好きで、ホントに毎日食べてます(笑)」
もっとたくさんの人に食べてもらいたい。
今は家業を手伝うようになり、とても楽しいと感じているそう。農園で採れたリンゴや果物がスイーツとなり、それをお客さんが喜んでくれる姿にやりがいも感じていると言います。「ただ、ひとつ難点は職場でも家でも合わせる顔が同じなので、会話が変わらないってコトでしょうか(笑)」。家の中での話題も農園かレストランの事ばかりだと教えてくれました。
アップルパイをもっとたくさんの人に食べてもらうことがこれからの目標だと春香さん。最近は北海道物産展などにも出店、道外の人に食べてもらう機会も増えてきました。今後はさらに海外の人にも食べてもらえるような機会をつくっていきたいと考えているそうです。「アップルパイは私たち家族の象徴。このお菓子がたくさんの人に愛されるようになればと思っています」
企業と社員が一緒に成長する事を大切に。
5代続く仲野農園は初代が京都から北海道へ入植、現在農場がある長沼に移住したのは3代目の時代のことです。そして1995年にオープンさせたファームレストランは、農園レストランの先駆けとしても道民に知られています。「当時はただ、ログハウスをつくりたくて建てただけ。レストランで稼ごうなんて思っていなかった(笑)」と話すのは、代表取締役の仲野満さん。とはいえ店はすっかり有名となり、地元で採れた新鮮な野菜やリンゴを使ったスイーツ、窓からの雄大な景色を求め、道外からも観光客が訪れる人気店となっています。
代表取締役の仲野満さん。
「農家っていうのは昔からいろんな事を自分たちでやるんです。ウチも基本は農家だから、自分たちでつくった野菜や果物を自分たちで加工したり調理したりする。専門家に教えてもらう事はあるけど、自給自足が基本です」と仲野さん。現在は家族と約10人の従業員という少人数で農園とレストランを経営していますが、会社も人も一緒に成長する『共育』をモットーにしていると仲野さんは言います。「一人ひとりが知識や経験の幅を広げる事で、組織としてできる事が増えていけばいいと考えています。そのうえで、これからは食事をするだけにとどまらない『ファームレストランからファームリゾートへ』。農村をまるごと体感できる空間の提供を目指したいと思っています」
- 有限会社仲野農園
- 住所
北海道夕張郡長沼町東6線北14
- 電話
0123-89-2465
- URL