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北海道で暮らす人・暮らし方
積丹町

海の恵で育つ積丹ならではの羊肉!幼なじみと資金0から叶える夢20221107

海の恵で育つ積丹ならではの羊肉!幼なじみと資金0から叶える夢

積丹半島のグルメといえばウニをはじめとする豊富な海の幸ですが、この数年で新たな名産品が育ちはじめています。そのひとつが、日本海の潮風を受けたミネラルたっぷりの牧草を餌に育てた「積丹しおかぜ羊」。コンブを餌にして育てた羊肉もあるといいます。

積丹町の牧場を訪れた取材班を迎えてくれたのは二人の好青年。ひょんなことから積丹で牧場用地を譲り受けることになったものの、資金はゼロ。まずは手に入れた52haの土地から牧草ロールを売ったお金を元手に、9頭の子羊を購入するところから始まりました。

siokazehituji16.jpgともに新潟県出身、幼なじみのお二人
それから2年半、羊は130頭にまで増えて、「積丹しおかぜ羊」というブランド肉として販売。試しにコンブを餌に与えたところ、くさみがなくコクのある味わいに。まだ流通量は少ないものの、こだわりの飲食店で大人気とか。この羊肉を積丹の新しい名物にして、まちにお金と雇用の循環をつくり、羊を千頭までに増やしたい。積丹しおかぜ牧場の皆川公信さんと、幼なじみでタッグを組む小柳(おやなぎ)和弘さん。お二人の興味深いエピソードが満載です!

ボランティアに来てスカウト、積丹で羊飼いの道へ

トラックに揺られて着いたのは、積丹の山々を望む絶景の放牧地。急斜面をものともせず羊たちがベェー、ベェーと鳴きながら集まってきます。
「ここは昔、町営の牧場だったんです」と話すのは、若き牧場長の皆川公信さん。放牧地までかなりのスピードで上ってきたのは「そうしないと、急斜面で車がずり落ちちゃうんですよ」という理由。羊飼いになったきっかけは、動物園の飼育員になりたくて酪農学園大学に通っていた4年生の時に、「積丹に牧場用地が余っているんだけど、羊をやらない?」と言われたことでした。

siokazehituji9.jpgこちらが積丹しおかぜ牧場 牧場長 皆川公信さん
皆川さんに声を掛けたのは、道南の七飯町大沼で馬を起点とした事業で観光牧場などを営む社長の宮本英樹さん。長く遊休地になっていた積丹の牧場用地を管理していて、近隣の町に農作業などのボランティアに来ていた皆川さんを送迎の車内でスカウト。皆川さんは放牧地の景色を気に入ったこともあり、「いいっすね〜」と答えて羊飼いの道へ。ある会社に内定も決まっていたのですが、辞退してしまいます。この大きな決断には、同郷の幼なじみである小柳和弘さんの存在もありました。

起業は「何をするか」よりも「誰とやるか」が大事

皆川さんと小柳さんは、ふるさとの新潟で小中学校と一緒に過ごした幼なじみ。いずれは二人で起業しようと話していました。皆川さんは北海道の大学へ、小柳さんは地元の新潟大学に進みましたが意志は変わらず、「まずは就職して起業資金を貯めよう」と計画していたところへ、降って湧いた牧場主の話。

その日に電話で話した時のことを、お二人が再現します。

皆川さん「牧場で一緒に起業するのはどう?」
小柳さん「うん、分かった、それじゃ内定は蹴って!」
皆川さん「いいよ、じゃあ大学やめて!」
小柳さん「分かった。じゃあ、僕は東京に行って料理の勉強してくるね!」

siokazehituji15.jpgこちらが積丹しおかぜ牧場 宿泊・物販部門長 小柳(おやなぎ)和弘さん
皆川さんは、就職するはずだった会社の内定を本当に辞退、羊牧場の経営に向けて、道内各地の牧場を回り、宮本さんの会社で馬や羊の扱い方を学びました。小柳さんは大学を中退して東京へ行き、羊料理の有名専門店で料理・接客の修業を積んだ後、積丹町に移住。現在、実務サポートと物販・接客を担当しています。
その即断ぶりに、迷いはなかったのかと尋ねたところ、「僕たちは、どんな仕事を選ぶかよりも、誰と仕事をするかが大事だと思っているんです」と、きっぱり。学生時代も、起業を目指していろいろなことに挑戦した二人。例えば、コーヒー豆を仕入れて販売するサイトを作りましたが、まったく売れなかったそう。そんなときに、突然降ってきたチャンス。「この牧場だけは、自分たちでやり切ろうと決めました」。

52haの牧草を刈って羊の購入資金に、9頭からのスタート

2019年春、皆川さんは地域おこし協力隊として積丹町に移住。クラフトジンを製造する「株式会社積丹スピリット」立ち上げのお手伝いをしながら、牧場の経営に乗り出しました。
しかし、土地はあっても、まだ羊はいない状態。当然資金もありません。そこで、まずは放牧地に生えていた牧草で牧草ロールをつくり、それを売ったお金で羊を仕入れることにしました。

siokazehituji7.jpgエサの合図で一目散!一斉に皆川さんのもとにやってきます
宮本さんから牧草づくりの経験と機材を持つ人を紹介してもらい、一緒に作業をします。「札幌ドームなら約10個分、全部で52haあるんですよ。雑草も多くて...」。苦労しながら1ヵ月かけて草を刈り、牧草ロールに仕上げました。それを、買ってくれそうなところに片っ端から電話をしたり、近隣の農家さんに直接アタックしたりして、なんとか売りさばいたそうです。
こうして得た資金を元に、繁殖用の羊3頭と、子羊6頭を仕入れます。しかし、その羊を連れてくるのも大変でした。「1月末にひとりで、寝ずに24時間かけて運んだんです」。羊の仕入れ先は、長沼町と 帯広市の2カ所。運搬用のトラックを借りるために、遠方の知人宅も往復しました。後半はへろへろになって、東京にいる小柳さんに「寝てないよ、眠いよ〜っ!」と、電話をしたといいます。 過酷な状況も、励まし合える相手がいるから頑張れる。たいへんな苦労も笑いながら話すお二人のパワー は、そこにあるのかもしれません。

睡眠も食事も削る、牧場の将来がかかった出産ラッシュ

広大な敷地の中、使われなくなった牛舎を借りて、DIYで羊用にリフォームしたという飼育舎にも案内してもらいました。
siokazehituji8.jpg広大な牧場には海からのさわやかな風が吹き渡ります
積丹しおかぜ牧場も3年目に入り、羊の頭数は130頭に増えています。
羊は、色や顔つき、大きさ、毛並みもさまざま。積丹しおかぜ牧場では、サフォーク、テクセル、チェビオット、ブラックフェ イス、ポール・ドーセット、フライスランドと、放牧している羊を含めて全部で6種とその雑種を飼っているそう。
「積丹しおかぜ羊」をブランド化して、赤身のおいしさで勝負したい皆川さんは、それぞれの特徴、長所や短所を見極め、異なる種類同士の交配も行っています。これまでの結果から、良質で肉の重量もいいサフォーク種と、オランダ原産で足腰が強く赤身肉に定評のあるテクセル種をかけ合わせた羊をメインに検討しているそうです。

さて、牧場で最も大変なことは?と聞いてみたところ、「毎年、2月から3月の出産ラッシュです」、と即答が。羊は秋に種付けを行い、約5ヵ月の妊娠期間を経て出産を迎えます。「だいたい、3時間おきに生まれるんですよ。だから24時間、夜中も定期的な見回りが欠かせません」。羊の世話をメインでするのは皆川さんですが、この時は小柳さん、そしてもう一人のスタッフで見回りのシフトを組みます。

siokazehituji19.jpgかわいい羊ですが、その命をつなぐのは大変な重労働
「出産したら母子を個別の分娩房に入れて、親は子どもをなめたり、免疫をつけるために初乳をのませる。その手助けをするんですが、ケアに結構時間がかかって、その最中にまた1匹生まれていて...というのを、永遠に繰り返していくんですよね」
難産もあれば、生まれても動かない子羊もいます。低体温で弱っていたら、温めなければなりません。胃にチューブを通してエネルギー用水を注射器で入れる、必死の作業です。1頭が死ねば、10万円が消えてしまう。出産から1時間たっても子羊が立たないときは「絶望する」といいます。それでも、また後ろで別の子どもが生まれる。
「お産の時期は、本当にしんどいです。冬なので、出産に加えて高さ3、4Mにもなる雪かきや、いつもの餌やりもあるから、睡眠どころか食事も取れなかったりします」と皆川さん。それでも、着実に羊は 増えていくし、子羊の可愛さという喜びもある。「もう、子育てと同じですね。今なら人間の子どもでも、良いパパになれるかもしれません」。

siokazehituji27.jpg皆川さんに甘える様子は、人間のこどもそのもの

嵐で浜辺に打ち上がったコンブにひらめき、羊の餌に活用

できるだけお金をかけずに、知恵と体力をフル回転させて、自分たちでやれることをやる。文献を読み込み、ほかの牧場の視察や情報交換もして、さらに工夫できることやオリジナリティを追求していく。そのなかで、偶然出会った羊の餌となる『食材』がありました。
それは、積丹の海で獲れるホソメコンブです。
積丹名物のウニは、海に生えているホソメコンブを餌に食べます。しかし、そのコンブが磯焼けによって減少したためウ二の数が減り、収穫しても実入りが悪く売り物にならないものが多くなりました。そこで積丹町は、廃棄されていたウニの殻を肥料にしてコンブの養殖試験を行ったところ、通常の3〜4倍に成長してウニの生産量も増加、実入りも良くなりました。
ある年、増えたコンブが嵐で浜辺に大量に打ち上げられていました。それを見て、皆川さんにひらめきが浮かびます。
「このコンブを、うちの羊に餌としてあげられないだろうか」
あらゆる文献や情報を調べてきた皆川さんの頭にあったのは、地元で獲れるワカメを羊の餌に与えている牧場でした。さっそく「わかめ羊」のブランドを持つ、宮城県・南三陸町の「さとうみファーム」へ 視察に向かいます。現地で詳しい話を聞いた皆川さんは「コンブでもいける」と確信を持ちました。

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積丹に戻り、無償で分けてもらったコンブを羊にあげてみました。「生でもバクバク食べるんです。これはいける!と思いましたね」。実験的に、小さく切ったコンブを混ぜた餌で3頭の羊を育てましたが、だんだんと食べなくなってしまいました。「昆布は単体だと嗜好性が悪いので飽きてくるんですよ。 きれいにコンブだけ残されちゃって、『信じられねえ〜!』という気持ちでした」。
それでも、配合する餌を調整してみたり、混ぜ方を工夫したりと試行錯誤した結果、コンブをさらに細かく切って、大好きな米ぬかにまぶすことで食べてくれるようになったとか。
コンブを食べた羊の肉も、くさみがなく味わい深いと好評に。本州から引き合いも来るようになりました。「羊は、体の大きさに比べて腸が非常に長いんです。それだけ食べたものを長い時間かけて吸収するから、エサが肉質に反映されやすいんですよ」と、皆川さんは話します。

siokazehituji25.jpg気持ち良いくらい、もぐもぐと、コンブ入りのエサを食べていました

できることは自分たちの力で、知恵と労力をフル回転

取材班も、餌やりの様子を見せてもらいました。春に収穫されたコンブは冷凍保存して、肥育期間が始まる8月半ばぐらいから、毎日使う分だけ解凍します。「コンブを冷凍するのも意味があるんです」と皆川さん。羊は生のコンブが消化出来ない可能性が高いので、養分を吸収させるためには細胞壁を壊す必要があるといいます。「その方法は、加熱するか、冷凍するかです」。
解凍したコンブは羊が食べてくれるように、ハサミで細かく切ります。

siokazehituji21.jpg笑顔だけど。。。きつーい作業!
与えるコンブの量は、当初は1頭当たり1kgくらいでしたが、今は多すぎず、少なすぎない、羊達に合う適量をあげています。その作業はというと、、バケツに入った大量のコンブを、ひたすら、切る、切る、切り続ける...。「うわあ、大変だぁ」、思わず取材班からも声が上がります。お腹を空かせた羊たちも、首を伸ばしながらしきりに鳴いて催促しています。お米と配合飼料、米ぬかに大豆かす、そして刻んだコンブ。カットする機械を買えば早く済むのでは...とも思えますが、資金は羊を増やすことを優先にしていて、できることは自分たちの力でやっているとのこと。
羊を売らずに収入を得る方法も考えました。春から秋の放牧期間に貸し出す「羊レンタル」です。前回記事でご紹介した

「岬の湯しゃこたん」

や道内のリゾート施設、幼稚園などで、牧場の羊たちが元気に過ごしています。

siokazehituji23.jpgできあがった、コンブ入り特製ごはんに群がる羊たち

直営のバーベキューコーナーをオープン、宿泊プランも計画中

積丹しおかぜ牧場では、コンブを混ぜた餌を与えて飼育舎で育てた羊と、放牧地で潮風を受けたミネラル分の多い草をたっぷりと食べさせた放牧中心の二種類の羊を生産しています。「コンブで育てた羊の肉は、特有のにおいをなるべく減らしているので、本州向けになりますね。塩をつけて食べるだけでも おいしいです。道産子は羊のにおいがのったほうが好きなので、牧草の香りがする放牧羊のほうが好まれます」。
まだ生産量が少ないため、今は道内外のジンギスカン、フレンチ、イタリアンなどの飲食店や一部の小売店で流通する程度ですが、前出の、岬の湯しゃこたんの軽食コーナーでは、こちらの羊肉を使ったソーセージが食べられ、さらに来年にできるバーベキュースペースでは、積丹しおかぜ羊の焼肉も楽しめるそうです!
siokazehituji28.jpgお土産としても人気のソーセージ。是非直接食べてみてください!


今年の夏からは、牧場でも、倉庫を利用したスペースでバーベキューのお客さんを受け入れるようになりました。東京の一流料理店で厳しい修業を積み、軽やかなトークで人を和ませる小柳さんの本領発揮です。現在、ユニークな宿泊プランの計画も進めているのだとか。
実は、取材チームも、自慢のしおかぜ羊と海外産の食べ比べを体験させてもらったのですが、海外産は、脂のコクを感じる美味しさ、しおかぜ羊は、やわらかいのに赤身肉らしい、噛むほどに旨みを感じる美味しさが印象的でした。味の好みはあれども、違いは明白です。何よりも、丹精込めた本人たちの手によるサービスで食べられるなんて、こんな贅沢なことはありません!
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羊を通じたまちづくりを視野に、千頭に増やすことを目指して

「生産量が減少しているウニだけに頼るのではなく、羊肉のブランド力を高めて、新しい特産品のひとつとして地域を活性化していきたいですね。羊を増やせば、漁師さんから購入するコンブも増える。地域の中でお金や雇用が回るようにするのは、とても大切なことだと思っています」
積丹しおかぜ牧場の十年計画では、道内各地に牧場を増やして1,000頭の羊を飼うことを目標にしています。「困っている地域に牧場をつくって、雇用を増やしていき たいですね。そうすれば、納税額も増えてまちも豊かになります」。
siokazehituji5.jpgとにかく元気な積丹しおかぜ羊。ぴょんぴょん跳ぶように走ります
「この牧場で大変なことは何回もありました。正直、やめたいと思ったこともあります」と皆川さん。それでも、彼と話し合って『この牧場だけは絶対にやろう!』と決めたことは、すごく強い誓いとなって自分に刻まれているんです」。隣にいる小柳さんもうなずきます。
日本人が食べる羊肉の割合は、肉類の1%にも足りません。宗教上の制限も無く、もっとも可食人口の多い羊は、世界にだって挑めます。だからこそ、伸びしろがある。自分たちがつくる「積丹しおかぜ羊」のブランドを広めたい。そのためには自分たちの体力と知恵をフルに使いながら、着実に、10年後の目標に向けて増やしていきたい。

羊を通して描く、大きな大きな夢に向けて、皆川さん、小柳さんの挑戦は今日も続きます。
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積丹しおかぜ牧場
積丹しおかぜ牧場
住所

北海道積丹郡積丹町婦美町29−1

URL

https://www.instagram.com/shakotan_shiokaze_sheep/


海の恵で育つ積丹ならではの羊肉!幼なじみと資金0から叶える夢

この記事は2022年8月29日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。