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北海道で暮らす人・暮らし方
室蘭市

子どもも大人も、観光客も。「交流できる学習塾」へようこそ!20190513

子どもも大人も、観光客も。「交流できる学習塾」へようこそ!

「共生舎・スタディラウンジむろらん」は、少し変わったシステムの学習塾です。小学生から高校生まで幅広い年代の生徒が集い、出席を取ったあとはすべてが自由。「今日何をやるか」を申告書に記入したあとは持ってきた問題集を解くもよし、学校の宿題をしてもよし。わからないことがあれば先生が適宜教えてくれ、受験生には学力テストや入試向け問題も提供されます。

勉強をするだけでなく「みんなが集まってコミュニケーションを取りながら、様々な発見をしてもらう」ことも目的にしているとか。まさに「子ども版シェアオフィス」ともいえる、なかなかレアな存在です。一体どのような背景から、この場所が誕生したのでしょうか?

人が集うことで生まれる化学反応

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北海道の北東部に位置する網走市のご出身である塾長の高橋慎吾さんは、北見市の高校を経て小樽市の大学を卒業後「生まれ育った北海道のために何かしたい」という気持ちから、一次産業に関わる水産関係の銀行に就職。札幌市、紋別市を経て、配属されたのが、鉄のマチ「室蘭市」でした。

「室蘭の1960年代〜70年代にかけて18万人を超えるほどの人口でしたが、ピーク時からすでに半減しています。ただ、歴史ある街ですし、素晴らしい文化や人の営みは未だに消えずに残っているんですね。北海道開拓に欠かせない地域のひとつだったことも考えると、人口減少の中でも何かを行うことに意義があるな、と思ったんです」

そうして高橋さんは7年ほど勤めた銀行を退職し、室蘭で地域に根ざした活動を始めようとします。さて、何をしようか? と考えたときに真っ先に思い浮かんだのが、今までに仕事を通じて出会った心温かい人たちのこと。個性豊かな彼らを見ていて「一人ひとりが持っている背景や文化は違う。それがストーリーとして、みんながきちんと表現できる場所を作れたら...」と思ったそうです。

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「子どもの頃、父が親戚や近所の皆さんを呼んで、車庫で焼肉をするのが好きだったんです。そこでは人が集まって飲み食いしながら思い思いに会話して、その過程で何かに気づいたり、新しいものが生まれたり...といった空気があったんですね。私も子どもながらに純粋に楽しかったですし、同じような場所を作れたらいいなと思っていました」

「学習塾」という形態をとったのは、学生時代に家庭教師のアルバイトを経験していてスキルがあったから。同時に、学生時代のゼミ発表で行ったプレゼンテーションが楽しかったことも思い出し「教える、というよりは、伝える、という仕事をしよう」と決心したと言います。

そこで、たまたまよく利用していた床屋さんに「学習塾を開くのに、どこかいい場所はないかな?」と相談をしたところ、すぐさま商店街振興組合に電話をしてくれたのだとか。

「それで『ここはメインストリートだからおすすめ』と紹介してくれた物件に申し込みをすると、トントン拍子に借りられることになりました。あなたもここに来るまで苦労しただろうから...と家賃も払いやすい額にしていただいて、もう大家さんには足を向けて寝られないですね」と高橋さん。こうして平成28年に、学習塾『共生舎・スタディラウンジむろらん』が誕生したのです。

子どもも大人も楽しみながら、一緒に学習

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ここではWi-Fiも自由に使えるため、持ち込んだスマートフォンやタブレットなどで調べ物をしたり、アプリを使ったりと、時代に即した勉強法を選択できるのも嬉しいところ。黒板はありますが、高橋さんが前に立って講義するという形はあまり取っていません。生徒一人ひとりが自分の判断で、今必要だと思われる勉強を行っており、高橋さんはそのサポート役といったところでしょうか。

なにより年齢の垣根を越えて生徒同士が交流したり、塾に訪れた大人と子どもたちが会話したりする中で、自然と知識や人脈が得られることも大きなメリット。室蘭という街のことをよりよく知ったり、将来やりたいことを考える時のヒントを見つけたりと、学校の成績アップに留まらない経験ができているようです。

2018年は『歴史ワークショップ』と称して、年4回、大人と子どもが交じり合いながら歴史上の人物に焦点を当て「○年○月にこういう出来事がありました。もし自分だったらどうしますか?」などと、みんなで考える時間を設けました。子どもはもちろん、大人もかつて学校で習った歴史をまた違う角度から学び直すことで「改めて勉強の楽しさを知る機会になった」と好評だったそうです。

対話しながら、きちんと自己主張できる人に

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「子どもたちは柔軟なので、学校とはまた違った人間関係を塾で新たに築いているようで、それはとても楽しそうですね。一方でタイムスケジュールをカッチリ決めていないので、例えば塾の終わり時間まで喋っていてもいいわけです。そのぶん周囲への配慮や、学習時間の調整なども全部自己責任。それはある意味、厳しい環境とも言えるかもしれません」

その中で子ども同士も深く話し合いながら「自分はこういうキャラクターだよ」ということを、ある程度強く出せるようになってきているのだそうです。元々のコミュニケーション能力に差があるのは当たり前。「家でもない、学校でもない場所でそれぞれの個性を出して話をしていけば、おのずとみんな、自分の話したいことや話すタイミングもわかるようになってくる」ことを、高橋さんは子どもたちを見ていて感じると言います。

「もちろん、私と生徒間のコミュニケーションもありますね。まだ手探りで、どうしようかな...という場面も時々ありますが、生徒のやることに口を出さずに信じて待つという姿勢は初めから変わらないです。正直、口を挟んで嫌がられたこともありました。その時は『こういう意図だったんだよ、ごめんね』と、きちんと説明するようにしています」

学習塾の一角には、かわいい雑貨店も

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ところで「共生舎・スタディラウンジむろらん」のもうひとつユニークなところは、同じスペースに雑貨店があること。c*m craft工房代表であり、この場所の共同運営者である原えりかさんは商工会議所主催の創業セミナーで高橋さんと出会って意気投合し、それぞれの仕事を同じ場所で行うことになったといいます。

「最初は、地域のイベントの一環で空き店舗を格安で貸し出してくれるチャレンジショップにて雑貨の販売を行っていたのですが、最終的に一人で店舗を持つとなるとお金も必要ですし、とても大変。縁あって仲間と一緒にお店を構えることができて、嬉しいです」

原さんは室蘭生まれの室蘭育ち。生粋の室蘭っ子です。彼女はこれまで、市や商工会議所などが主催するセミナーに積極的に参加してきました。そこで出会ったコンサルタントの方に「室蘭のお土産を作ってみたらどう?」とアドバイスされたことがきっかけで「夜景をはじめとする室蘭のいいところを多くの人に伝えていきたい」という思いが強くなり、室蘭の名所にちなんだ雑貨などの製作を始めたと言います。

室蘭民報主催のコンテストにて夜景のイラストで賞を取るなど、大きな実力の持ち主。そんな原さんが学習塾の一角にオープンさせたお店の名前は『Sloth(スロース)』です。これは、動物の「ナマケモノ」の意味。急ぎすぎると疲れてしまうので、ゆっくりとしたペースで細く長く、皆さんに愛されるアイテムをお届けしたい...という思いが込められているそうです。今は手作りのものだけでなく、彼女がセレクトした市販の雑貨も置かれています。

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「将来的には、ここを雑貨店だけでなく観光の道案内場所としても機能させられたらいいなと思っています。昼間は道の駅も開いていますが、観光客の方が『さあ夜はどうする?』となった時、道の駅が閉まっていたらここに来ていただきたい。私たちがパンフレットに載っていないような観光プランを、お客さまに合わせてご提案することもできますし、その打ち合わせに塾の子どもたちが入っても面白いですよね」と、原さんは話します。

この場所が観光のハブになれば、観光客も、地元の人も、もちろん塾生の子どもたちもお互いにいい影響を受け合うことができそうです。

ここから、室蘭を元気にしていきたい

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高橋さん曰く「最初に、この場所の目的として『自分のストーリーを紡ぐ』というようなお話をしましたが、それは自分軸がなければ難しい。自分軸の基礎となるのは、たとえば、生まれ育ったふるさとです。子どもたちには、自分の故郷である室蘭についてもよく考えてもらえたらと思います」。

高橋さんは会社員を辞めて、最初は不安なこともあったそうです。退職後はしばらく、貯金を切り崩して生活していました。「今、収入はようやく当時の半分くらいまで上がりましたが、最初は3分の1程度まで激減していましたし、奨学金の返済も事情を話して止めてもらったほどです」と話します。

相当な苦労とともに、大きな葛藤もあったそうです。もちろん、今も大変なことは山ほどあります。しかし、その大変さとは裏腹に「今は自分の人生を色濃く生きている感じがする」と話す高橋さん。彼自身も自分軸をしっかり築いてきたからこそ、言える言葉なのかもしれません。

また原さんも、家庭の事情や体調の問題などで思うように働けなかった時期があります。それでも彼女なりに「自分が夢中になれて、個性を発揮できる仕事」を渇望し、最終的にたどり着いた創業セミナー。周囲の人たちに個性を見出され、ご縁も重なって、ようやく今に至ります。明るく振る舞う彼女の笑顔の裏にも、かつては心配や不安などが大きく隠れていたに違いありません。


くらしごと編集部とは、Facebookを通じてつながったお二人。取材が終わったあと、年賀状をいただきました。お二人とも手書きで「取材が楽しかった、お話を聞いていただいて嬉しかった」と書かれていました。律儀で、人と人とのつながりを大切にする優しいお人柄。そんなお二人が支え合い、周りに感謝しながら「地域を盛り上げていくために、自分たちでできることをしよう」と頑張る姿は、子どもたちにもきっと伝わり、地域の財産にもなるはずです。さらに、一人ではできなくても、二人でならチャレンジできることもあるということを改めて教えられます。

かつて大きな街と言われた室蘭も、少子化が進み、小学校の閉校も相次いでいます。他の小規模な市町村と同じように、企業としてビジネスの面で考えると「塾」は地域からなくなっていくかもしれません。でも少なくなるとはいえ、子どもたちがいなくなるわけではありませんし、さらには「勉強を教えること」から、「地域や地域の人との関わりを通じて人間力を高める」という方向に舵を切ることで、今よりもさらに必要とされる存在になっていくのかもしれません。

室蘭の長い歴史のなかで、高橋さんと原さんの二人の活動はまだまだ始まったばかり。新しいスタイルの塾や雑貨店、そして交流拠点の在り方を追求していってもらいたいですね。

共生舎・スタディラウンジむろらん
共生舎・スタディラウンジむろらん
住所

北海道室蘭市輪西町2丁目3-1

電話

090-6878-7168

URL

http://slmuroran.xsrv.jp/

公式Facebookはこちら
https://www.facebook.com/slmuroran/

Slothのサイトはこちら
https://craft-home-goods-store.business.site/


子どもも大人も、観光客も。「交流できる学習塾」へようこそ!

この記事は2018年12月21日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。