
釧路市から車で約30分、タンチョウが生息・繁殖する村として有名な北海道鶴居村。実は面積の6割が森林であり、良質な木材の産出や環境保護にも取り組む林業の村でもあります。その鶴居村に魅力的な林業女子がいるという話を聞き、取材班は鶴居村へやって来ました。
重機を自由自在に操る林業女子
その人は、鶴居村森林組合の職員五十嵐ちあきさん。森林組合の建物に併設された作業場を尋ねると、大きな重機を自在に操り、器用に玉切り(切られた木を規定の長さに切断すること)していきます。重機から降りた姿は、ヒョウ柄のネックウォーマーが似合う小柄で笑顔の可愛らしい女性です。
今回お話を聞いた五十嵐ちあきさんです。
五十嵐さんは、なぜ林業女子になったのでしょうか?
「高校卒業後に、以前勤めていた釧路町の会社に入社したのが最初です。知人からの紹介で林業の仕事を知り、『面白そうだな』と思ったのがきっかけですね。実家が阿寒町の農家で、小さいころに大好きな父がトラクターに乗せてくれたのが楽しくて、ちょっと女子っぽくない方向に行ってしまったのかもしれません(笑)」と、おっとりした口調で話してくれます。
最初に勤めた会社では、最初は下草刈りやチェーンソーでの薪作りなどの外作業をしていましたが、やはり重機に乗りたいと思い、社長に「私もユンボに乗ってみたい!」と直訴し、重機に乗る仕事を教えてもらうことに。最初は大掛かりな作業は怖いと思ったこともありましたが、社長の愛のムチを受けながら挑戦し、少しずつできる作業も広がっていきました。
「静かできれいな村」鶴居村へ移住を決める
8年ほど勤めた後で、体調の問題などもあり退職。程なくして、今の職場である鶴居村森林組合から声が掛かりました。
「慣れている仕事でもあるし、森林組合は週休二日制ということで、仕事で疲れてもしっかり体を回復させられると安心し、ここで働こうと思いました」
鶴居村は阿寒町や釧路町からも近く、「ゴミひとつ落ちていないきれいな村。車の音もあまり聞こえず静かなので、実は老後はここで過ごしたいなと密かに思っていました(笑)なので、鶴居に移住することは全く抵抗がありませんでした」
鶴居村には民営の賃貸住宅はなく、家賃の安い村営住宅が単身者向けも家族向けも充実しています。住む環境としても申し分なく、鶴居での生活をスタートさせました。
実は重機の中は外より快適!
鶴居村森林組合は、2011年から直営の森林整備係を持ち、組合員の所有する森林で造林、保育、間伐を行い、村の森林再生と未来の山づくりをしています。五十嵐さんは、夏場は山で重機に乗って一日中玉切りや巻き立て(玉切りした木材を積み上げること)の作業をしたり、冬場は山を下りて作業場で薪やおが粉を生産する作業をしています。車両系建設機械運転者と大型特殊運転免許も取得し、組合にある全ての重機に乗ることができるとか。
重機の先に装着されているのは「グラップル」というアタッチメント。木を掴んで、決まった長さに玉切りすることができます。
重機での作業は、女性にはハードではないですか?
「実は、重機に乗ってしまえば中は冷暖房が効いて快適。特に大きな力も必要ないので、機械の操作にさえ慣れてしまえば、女性でも問題なく作業がこなせますよ」
五十嵐さんが着ているお洒落な作業着は、実は林業用のウェアで組合から支給されたもの。もしチェーンソーなどの刃物が当たっても、繊維が刃に絡んで体を守る機能があります。安全にも十分配慮して仕事に集中しているのです。
チェーンソーの扱いもベテランです!
五十嵐さんに、この仕事の面白さについて聞いてみました。
「現場が始まり、木を切ったり積み上げたりしてどんどん進んでいくのが目に見えるんです。終わった時は、達成感も大きいですね」
スケールの大きな作業だからこそ、やりがいも大きく実感できるようです。
「できなかったことも、日々少しずつできるようになり、自分が成長しているという手応えが感じられます。巻き立てした木材を見て、今度はこうしようと考えながら次の現場に入ります」
日々学びながら、技術を磨いています
五十嵐さんが属する森林整備係は5人。当然、他のメンバーは男性。20代から40代と、林業の世界ではかなり若い職場です。
「みんな優しくしてくれて居心地がいいですね。重機に乗れば男女の差はありませんが、作業場で木材を持ち上げる時などは、どうしても男性の力には敵いません。でもそんな時も、同じようにやりたいと思ってつい張り合ってしまいます(笑)」と、負けず嫌いな一面ものぞかせます。
まだ先輩たちより作業が遅かったり、こうしたらよかったと反省することも多々あるという五十嵐さん。他の人が作業しているところを見て、「こういうやり方もあるのか」と日々勉強していると言います。毎年催される職員旅行では、昨年五十嵐さんに幹事の順番が回り、「私たちが切った木がどのように活用されるのかを知りたい」と、津別町の木材工場の見学を企画。現地のおいしい焼肉屋さんなどもコーディネートし、同僚からは好評だったと言います。
木を切って木材を売ることも大事ですが、それ以上に大事なのは、残った木を育てて山を作っていくこと。鶴居村森林組合では、土壌を保護するため、重機が通れるのは作業道のみと決められています。上司である門間孝厳参事は、「うちの職員は、その目的を理解して工夫しながら作業をしてくれています。五十嵐さんも、現場できめ細かく考えてきれいな状態を保つよう配慮してくれて、助かっていますね」と話します。
現場に行く前に、門間さんと打ち合わせをする五十嵐さん。
挑戦する気持ちがあれば、女性も活躍できる仕事
五十嵐さんのように林業を志す女性は、北海道でも徐々に増えています。どんな人が林業に向いているのか、門間さんにさらに聞いてみました。
「危険と隣り合わせの林業の世界では、木や機械などが少しでもおかしい時に気づけることが大事ですね。それを見過ごすと、大きな事故にもつながりかねません。人の体調もそうです。朝、顔を見た時に表情が暗いとか、そのような小さな変化にも気づける人が向いていると思います」
優しい笑顔で五十嵐さんの活躍を教えてくれる門間さんでした。
五十嵐さんも、林業の魅力について「山の中は空気がきれいで気持ちがいいです。一人で作業をすることが多いので、たまに大きな声で歌を歌っていることもあります(笑)。女性でも、やる気と元気がある人なら十分活躍できる仕事ですよ!」と笑顔で語ってくれました。
女性だからといって尻込みせず、余計な先入観を持たずに挑戦していったことが、今の五十嵐さんの姿勢を作っているのでしょう。五十嵐さんの後に続き、可愛らしさとカッコ良さを併せ持つ林業女子が、今後も増えていく予感がしました。

- 鶴居村森林組合
- 住所
北海道阿寒郡鶴居村字雪裡原野北15線西9番8
- 電話
0154-64-2422
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