HOME>このまちのあの企業、あの製品>北海道和牛の歴史をつくり、探究する、Breeding白老牧場

このまちのあの企業、あの製品
白老町

北海道和牛の歴史をつくり、探究する、Breeding白老牧場20221109

北海道和牛の歴史をつくり、探究する、Breeding白老牧場

太平洋に面し、森林が町の7割以上を占める白老町。国立アイヌ民族博物館「ウポポイ」や温泉でも有名な町ですが、海の幸、山の幸に恵まれた食材王国でもあります。中でも、全国的な知名度を誇るのが「白老牛」。今回は、この白老牛の生産を行っている「Breeding白老牧場」におじゃまし、ここで牛を育てている阿部秀幸さんに白老牛のこと、牧場のことなどを伺いました。

白老牛のはじまりと大きく関わりのある阿部家

高速を降り、車で15分ほど山側へ行くと「Breeding白老牧場」があります。広い敷地内に牛舎が点在。その奥には青々とした牧草地も見えます。車を降り、事務所へ向かう際、「あれ?」とあることに気付きます。牧場特有の牛のふん尿のニオイがほとんどしないのです。不思議だなと思いながら、阿部秀幸さんとご挨拶。まずは、白老牛の歴史から伺うことにしました。

siraoibokujou23.JPGこちらが阿部秀幸さん
「白老は有珠山系の火山れきなどに覆われていて、畑作には適していない土壌だったんです。そのために軍馬の育成が盛んに行われてきましたが、戦後、軍馬の需要がなくなると、町内にあった大きな牧場は、牛を飼う牧場と競走馬の育成を行う牧場に方向転換します」

阿部家は乳牛のホルスタインを飼い始めますが、気象条件の似ている島根県の山間部で和牛の生産が盛んなのを知った当時の町長が、黒毛和種の肉牛を白老で育てようと発案。昭和29年に島根県から和牛を数十頭連れてきます。

「実はこのとき島根まで行ったのが、当時組合長をやっていた私の伯父。つまり、白老牛は、伯父が連れ帰ってきた和牛から始まったというわけです。今は全道各地で和牛が育てられていますが、北海道で初めて和牛を育てはじめたのは白老なんですよ」

siraoibokujou36.JPG自然環境を活かした広大な牧場。訪れた日は紅葉が見事でした
和牛を連れてきたものの、思っていた以上に体が弱く、すぐに病気になるなど、大きく育てあげるのには相当苦労をしたそう。「Breeding白老牧場」の代表でもある秀幸さんの伯父・阿部正春さんは、交配やエサ、育て方などを試行錯誤し、改良を重ね、今の白老牛を確立していきました。正春さんは、ここで育てた肉の販売を行っている「阿部牛肉加工株式会社」の会長も務めています(ちなみに社長は秀幸さんのお兄さん)。ちなみに、秀幸さんの父親は兄弟が多く(なんと16人兄弟!)、秀幸さんの父親は末っ子。島根から和牛を連れ帰ったのは父親の3番目の兄。そして牧場の代表・正春さんは父のすぐ上、つまり15番目なのだそう。

苦労の末、ブランド和牛として認められるようになった白老牛。2008年の洞爺湖サミットの晩餐会でも採用され、各国の首相が絶賛したことで一躍有名になりました。サミットで使われたのは、ここ「Breeding白老牧場」の「あべ牛」だったそう。この「あべ牛」というのは白老牛のひとつで、Breeding白老牧場で育てられた3歳未満の雌牛。白老牛の中でも肉質の柔らかさと赤みのおいしさは群を抜いています。利益を考えれば体の大きくなる雄牛を肥育したほうが利益は出ますが、消費者の皆さんに本当においしいと思ってもらえる最高級のものを提供したいという正春さんのこだわりから、あえて雌牛のみを使用する「あべ牛」が誕生しました。「あべ牛」は、高級和牛である白老牛の中でもさらにトップクラスというわけです。

siraoibokujou7.JPG

siraoibokujou32.JPGまるまると太ったあべ牛。背中が平らな牛が良いとされるそう

食肉店での経験を生かし、生産から販売まで一貫で扱えるように

現在、Breeding白老牧場で「白老牛」「あべ牛」の育成を一手に担っているのが秀幸さんです。子どものころから手先が器用で、機械いじりが好きだったという秀幸さん。高校を卒業する際、食肉の仕事をしていた正春さんから茨城にある竹岸食肉専門学校への進学を勧められます。

「行ってみたら、意外と自分に合っているなと思ったんです。当時、かなり体格が良くて、大きな牛の肉を楽に扱えたし、器用だったから肉から骨をキレイに外していく除骨作業がすごくうまかったんです」

食肉技師の資格を取得し、専門学校を卒業後は友人の実家の食肉店に勤務。解体、除骨など、店の職人たちに付いて仕事を覚えていきます。休みの日も別のところから除骨を依頼されるほど、肉から骨を外すのがキレイで手早かったそう。

siraoibokujou26.JPG
1年半ほどして秀幸さんは白老へ戻ります。鶏肉や豚肉の解体を行い、加工販売していた伯父の正春さんは、和牛を育ててはいましたが解体は外注。秀幸さんが戻るのに合わせ、自社で和牛の解体、加工も行うことにしました。こうして、「Breeding白老牧場」で生産したものを「阿部牛肉加工株式会社」で加工し、販売まで行うことができるように。白老牛を育てている牧場の中で、生産から販売まで一貫しているのはここだけだそう。

最新のAI技術を用いたシステムも導入し、一頭一頭を大事に育てる

「阿部牛肉加工株式会社」で解体、加工をメインで行っていた秀幸さんですが、10年ほど前から「Breeding白老牧場」で牛の育成にも携わっています。繁殖をメインで行っているのは秀幸さんの奥さんで、秀幸さんは肥育を中心に全体を管理しています。「牛たちが病気にならないよう、うちは繁殖と肥育と分けて育てています」と秀幸さん。現在は380頭ほどの和牛がいるそう。全国にいるお客さまの信頼と期待を裏切らないため、日々工夫や努力を重ね、白老牛、あべ牛の品質をスタッフと一緒に守り続けています。

siraoibokujou38.JPG秀幸さんと奥さまと、従業員の皆さんで一枚!牛は未経験でも動物好きな人が集まってくるそうです
「牛って、ちゃんと見ているんですよ。この人がいい人かどうかをきちんと分かるんです。だから、愛情かけて大事に世話をしてくれる人になつくし、穏やかなんです。どうせ分からないだろうなんて、牛を足で蹴ったりするような人にはなつかない。きめ細やかによく観察して世話をしてくれる女性スタッフのほうが牛には人気があるかな(笑)」

siraoibokujou6.JPG繁殖を主に担当されている奥さま
牛舎にはカメラが設置され、24時間体制で牛を見守っているほか、牛一頭一頭にセンサーが取り付けられています。それぞれの牛の体調が分かるほか、発情しているかどうかも分かる最新のAI技術を用いたシステム。しっかり管理ができるため、スタッフの負担はかなり減っているそう。

「牧場の仕事は生き物相手だから休みが取れないと言われたこともかつてはよくありましたが、このシステムを導入したことで月6回以上の休みは取れるようになっています」

siraoibokujou13.JPG動物が好きだから、この仕事が楽しいと話してくれたスタッフさん
また、システム導入により牛の死亡率が下がっているのも大きいと秀幸さんは話します。「肥育が続いて体が大きくなると、中には起立困難になる牛も出てきてしまいます。起き上がれなくなると牛は死んでしまうのですが、その予防に役立っています。牛が1頭亡くなると、100万円以上の赤字が出てしまうこの業界。牛が亡くなるのはできるだけ避けたいところですから」と続けます。

牛の状態がおかしいとセンサーが感知し、秀幸さんのほうへ連絡がくるようになっています。夜でもすぐに様子を見に行くことができ、牛の死亡率は下がったそう。ちなみに秀幸さんは、広い敷地内にある家で暮らしています。

siraoibokujou40.JPG清潔な牛舎で、牛たちがリラックスしているのが伝わってきます。

その敷地ですが、牧場の広さは100町(ひゃくちょう)。平米に直すと約99万㎡あります。東京ドームが4万7000㎡なので、どれだけ広いかは分かりますよね。敷地内には魚が豊富な川も流れており、秀幸さんはそこで渓流釣りも楽しんでいるそう。鮭があがってくることもあるとか!

ニオイがしないのは、清潔な牛舎を保ち続けているから

せっかくなので実際に外に出て、牛舎や辺りを見学させてもらいながらここの環境について伺うことに。

「もともとこの辺りは沼地。牛舎が建っているあたりはそこの山を削って(もちろん牧場が所有する山です)、火山れきを運んで敷き詰めてあります。火山れきのおかげで牛舎内の水はけもいいんです。会長(伯父の正春さん)は元々大工だったので、自分で牛舎を造ったりもしていました」
siraoibokujou35.JPG敷地内では、近々、休憩所を兼ねた新事務所を建設予定。秀幸さん自ら基礎づくりをはじめていました
正春さんが実際に作った牛舎も見せてもらいながら、まずは子牛たちがいる牛舎へ。穏やかな表情の牛たちが、興味を持って柵のそばまでゆっくり近寄ってきます。ここでもやはり牧場特有のニオイはしません。

「とにかく牛舎内の掃除を徹底しています。牛たちの足元にはおがくずを敷き詰め、まめに取り替えています。牛たちも人間と同じで、清潔な環境にいたいんです。これは会長が長年の経験から気付いたことで、うちのこだわりでもあります」

siraoibokujou4.JPG人の口に入るものだから。という先代の教えのもと、徹底した清掃がされています
さらに、牛たちのいるスペースにかなりのゆとりがあるのもここの特徴。のびのびとストレスが少ない環境で育てることが大切だという観点から広めに場所を確保しています。飼料にもこだわりを持ち、安心安全なものだけを厳選。牧草も敷地内で育てたものを用いています。また、敷地内から温泉が湧くため、牛たちは敷地内でくみ上げたミネラルたっぷりの温泉水を飲んで育っています。

siraoibokujou28.JPG温泉水のくみ上げポンプも見せてもらいました
源泉があるという話から、「ちゃんと人間が入れる温泉の浴場もあるんですよ」と秀幸さん。牛舎から離れた木々の間に見える建物を指さします。近くまで行くと、三方が大きなガラス張りになった建物の中に岩風呂が...。かなり本格的で、脱衣場もきちんと用意されています。

siraoibokujou31.JPG手作りとは思えない、本格的な岩風呂。4〜5人くらい余裕で入れそうです
「これらは全部私の手作り。源泉かけ流しの風呂です。湯あみをしながら、日が暮れていく様子や星空を見たりできます。会長は毎日のようにここで温泉に浸かってから帰っていました。牧場見学にいらしたバイヤーの方たちにも評判で、隣の建物でバーベキューをしたあと、皆さん温泉に浸かっていくのを楽しみにされていました」

手作りということにも驚愕ですが、牛にとっても人にとっても素晴らしく、贅沢な環境であることがよく分かりました。

siraoibokujou29.JPGお風呂からの景色も最高です

恵まれた環境を生かし、白老牛の伝統を未来へ継承していきたい

「何でも自分でやらなければならない環境だったからというのもあるけれど、いろいろなものをつくりだしていくのが好きなのかも。会長もそうだけど、父親も大工だったし、阿部牛肉加工の社長をやっている兄も建築系の出身だし、家系的に自分たちで何かをつくったり、開拓したりするのが好きなのかもしれませんね」

立派な岩風呂をつくった以外にも、牧場内の整備のため、重機を乗りこなし、山を削って沼地に火山れきを敷く作業も自分でやっているそう。今も、少し小高い眺めの良い場所に新たな事務所を作るため、自身で土台をならす作業をコツコツやっているとのこと。作業の話を聞いていると、牛を飼っていることをつい忘れてしまいそうになります。

siraoibokujou3.JPG後ろに見える小高い山の上に、あべ牛を味わえるレストランやバーベキュー施設もつくってみたいね、と秀幸さん
現在57歳の秀幸さん。目下、取り組まなければならない問題が、白老牛、あべ牛を担ってくれる若手の育成です。

「伯父が長年かけて築き上げ、自分がそれを継承していますが、これから先、ブランドを一緒に守っていってくれる人を増やしていきたいと考えています。動物が好きで、自然が好きで、できたら私のようにいろいろなものを自分でつくるのが好きな人と一緒に働きたいですね。伝統の和牛を守りつつ、この場所を使って新しいことに挑戦してみたいという人も歓迎です」

siraoibokujou11.JPG
新しいシステム導入などで、働き方も変わってきている牧場の仕事。自然環境に恵まれ、温泉まで出るここは、新たなことにチャレンジしてみたいという人にとっては、めったにない場所かもしれません。

終始にこやかな表情で対応してくださった秀幸さんや奥さん、元気なスタッフの皆さん、そして愛情たっぷりで育てられた牛たちと触れ合えた良き時間でした。牧場を訪問したことで、白老牛やあべ牛のおいしさの秘密を垣間見ることができた気がします。

siraoibokujou21.JPG

Breeding白老牧場
Breeding白老牧場
住所

白老郡白老町石山323-9

電話

0144-83-2941(阿部牛肉加工)

URL

http://www.abe-beef.com/breeding/index.html


北海道和牛の歴史をつくり、探究する、Breeding白老牧場

この記事は2022年10月24日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。