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このまちのあの企業、あの製品
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大ヒット商品「カズチー」の生まれる土壌。井原水産(株)20211227

大ヒット商品「カズチー」の生まれる土壌。井原水産(株)

世の中に、酒のつまみは数あれど、その好みはまさに千差万別。
特に「珍味」と呼ばれるつまみについては、その奥深さは語るまでもないものと思います。

そんな、ありとあらゆる食材がしのぎをけずるおつまみ界に颯爽と現れ、「北海道の新たな刺客」とまで言われている存在があります。
その名も「カズチー」。はい、名前のとおりカズノコとチーズをかけあわせた一品です。

この大ヒット商品を生み出したのが、留萌に本社を置き、長年塩カズノコの生産を続ける水産加工の老舗、井原水産株式会社と聞き、なるほどな~、と合点する一方で、老舗企業がなぜこうした商品を生み出したのか、どうしても気になった取材陣。機会を得て、企画部のある井原水産札幌支社を訪れました。

平月にもカズノコを食べてもらいたい!

iharasuisann14.jpgこちらが札幌支社のエントランス
ぴっかぴかのエントランスで出迎えてくれたのは、経営管理部総務課の畠山さんと、企画部企画課の高山さんのお二人。さっそくお話をうかがってみましょう。

畠山さんは、小樽の出身で約15年前に入社。前職はコンピュータ関連の仕事をしていたということで、入社時も当時の新部署で、在庫管理などのシステムを作る業務に携わっていたのだそう。

一方高山さんは、北見の出身で、入社8年。前職はワイン業界にてお勤めで、何とソムリエ資格もお持ちなのだとか!
「実は当時、会社にはワイン事業部というのがありました。自分は、ワイン単体だけじゃなくてそれにあう食品関係にも興味がありましたし、特に、カズノコなどの魚卵は好物でした。当時の社長(現会長)にもお会いする機会がありましたが、どんどん新しいことにチャレンジしていくというスタイルに魅力を感じて、転職を決めました。その後、ワイン事業部は撤退してしまうんですが、営業推進部や、商品販売を経て、現在はこの企画部に所属しています」

お二人とも、全くの異業種からの転職なのは驚きでしたが、いよいよカズチーについてお聞きしてみます。
誕生してまだ3年というのに、これだけヒットしている人気商品が生まれたきっかけや経緯は、どんなことだったのでしょう?

「特別な始まりでは全くありませんでした。会社全体として、年末を中心としたカズノコ商戦だけでは、やはりこの先の成長にも限界があります。平月にも安定して売れる日常使いの商品を開発したい、という課題が常にあったんです」と畠山さん。

iharasuisann9.jpg経営管理部総務課の畠山さん
「当初は、どちらかというと、全く新しい商品と言うよりは、珍味類(ニシンを使ったご飯のおとも系など)を色々と少量パックにすることを軸に考えていこうという構想がありました。
しかし、お客さん(百貨店さんや、催事場)から「新しい商品も見てみたいな~」という要望をもらったことがきっかけとなり、取引先でもあるメーカーの方とも話しを進め、「よし!今無いものも色々試してみようか」という話になりました」。高山さんも振り返ります。

正解の無い、手探りの挑戦

そうしてはじまった新商品作り。カズチーの成功を多分決定づけた"燻製"というアイデアは、何と最初から出ていたのだそう。(さすが、カズノコのプロたち。燻製すれば、あの食感になることはわかっていたのですね)

しかし、ここで、大きな問題が発生します!
スタート時点ではまだ、何かと掛け合わせるという発想がなく、カズノコ100%の「燻製カズノコ」を作ろうとしていました。
すると結果的に、通常のカズノコよりもコストがかさみ、到底、日常商品にはなり得ない...という問題が発生したのです。
贈答品よりも高い商品では、平月に売るのは難しいですものね。。

頭を抱える皆さんにヒントを与えたのが、以前から社内にありながらも、商品化に至らずに埋もれていた「チーズとカズノコは合うらしいよ」という噂でした。

iharasuisann8.jpg企画部企画課の高山さん
「実は、私が入社する前から、チーズと合わせるという発想はすでにあって、社内で何度か検討されたのだそうです。しかし、商品化するにあたって課題の方が多かったので、残念ながら商品化に至らず埋もれてしまっていたのです」と高山さんが言うように、通常のカズノコをチーズと合わせるのは難しい。しかし、燻製したカズノコならば!?
当時の上司の方からも、「普通の味付けカズノコだったからうまくいかなかったけど、燻製したら何か変わるかもね」と、背中も押され、少しづつ試作を繰り返すこと10回!とうとう、納得の味にたどり着いたのは、チャレンジ開始から、2年後のことでした。

言葉にすると、たった数行の出来事ですが、恐らくその開発の過程には様々な苦労があったはず。
一番、大変だったことを聞いてみました。

「やはり、当社はカズノコ製造メーカーであり、「ヤマニ(井原水産の屋号)のカズノコは品質が高い」ということで、関西圏を中心に評価をいただいているため、うちが出すからには、カズノコの食感とか魅力をきちんと引き出した状態じゃないとダメだよね、というハードルを課していました」

確かに。ヤマニ(井原水産)がつくるなら、と、期待値は高まりますよね!

「それと、他と比較することができないので、『本当にこれでいいんだろうか?』という葛藤を抱えながらの開発でした。
例えば、カズノコとチーズの配合比率とか、燻製の風味はどこまで付けたらいいのかとか、チップはどういうものを使うかとか、食べたときの数の子の食感とチーズの口溶けのバランスとか...。比較する商品がないので、何が正解か、合格点がわからない状態で進めていくのがほんとに大変でした」と高山さん。

iharasuisann4.jpg一袋に7個というのも、もう少し食べたい、、という絶妙な数
解決の助けになってくれたのは、前職でのつながりだったそう。
「前職のワインショップに協力してもらって、お客さんにサンプルを持参して、ワインと合うかどうかを含めて味・価格帯など客観的なデータをとりました。アンケートで評価を確認し、「美味しくない」という回答は一つもなかったので、これでいけるかなというところで販売に至りました」

だから、販売するときには、実は絶対の自信があったんです(笑)、と打ち明けてくれました。

ヒット商品が生まれる、社内の雰囲気とは

実は取材陣、うかがう前は白衣の開発チーム的面々を想像していたのですが、実際の現場は全く違いました。
お客様の声をきっかけに始まったこのチャレンジは、メーカーの協力もあるものの、営業などの現場メンバーがそれぞれの部署を超えてつながり、社内に蓄積された知恵を集結して、完成されたものだったのです。
そうした動きを生むのは、社内のどんな雰囲気なのでしょう?

畠山さんが言うには、現会長が、社長時代から率先して色々な事業を発案し、実行してきたことが大きいのだそう。
「例えば、お客さまから非常に支持されたものに、「コラーゲン事業部」というのがありました。天然のシャケの皮を使ったマリンコラーゲンという商品を発売して、そこから様々な可能性が生まれたんです。実は自分もその事業の関わりで入社しました。
先ほどのワイン事業部もそうなのですが、カズノコが主軸商品でありながらも、それだけではない何か別の軸を作ろうという経営方針がずっとあり続けているので、色々チャレンジしやすい風土というのは培われていると思いますね」

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なるほど、やはり挑戦無くしては成功はおろか、前進も無いのだな、ということを改めて実感させられます。

さて、そんな皆さんですから、カズチーの好調にあぐらをかかず、すでに第二第三の新商品を開発し、人気になりつつあるとの噂をうかがっていますが、、。

その場にずらりと並んだ商品を見ながらお二人が説明してくれます。
「ひとつは『エビチー』ですね。今年の5月から販売を開始しました。「シンプルにエビの美味しさを感じて貰おう」というのがコンセプトです。羽幌産の甘エビのパウダーも隠し味で入れていて、かめばかむほどエビの味がしてきて、「シンプルだけど味わい深い」が実現できました」

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聞いているだけで、エビの味がしてきそうです。
そしてもう一つ、個人的にも気になるのが『ぬるチー』なる商品ですが、これについても教えてもらいます。

「これもお客さま起点なんです。公式サイトでアンケートをとった結果、カズチーはそのまま食べて美味しいですが、アレンジするにはあの丸い形ではちょっと...という声が届きました。『カズチーのソースみたいなものがあったら嬉しい』という声も多数届いていたこともあって、じゃあやってみよう!と開発に至りました」

ちなみに、ぬるちーが完成するまで、開発期間は約10カ月だったとのこと。
スピード感もすごいのですが、そんなに素早く動けるのはなぜなのでしょう?

「当然、社内にはそれぞれの立場から色んな意見がありますから、会議やミーティングでも、すぐに満場一致、全員賛成!となるわけではありません。でも、各署の連携を積極的にとるように心がけている社員が多いこと、ここが重要なんだと思っています」と高山さん。

「みんな、自分にできることは何だろうと考えてますし、土台となっている"カズノコを多くの人に届けたい"という気持ちは、部署が違っても皆同じく持っているので、そのための色んなノウハウを持ち寄って、協力しあえるのだと思います」。畠山さんも続けます。

こうした社風にお二人がとてもやりがいを感じていることが伝わってきますし、恐らく他の社員さんも、そうなんだろうなと容易に想像することができました。
なので、心がけていることについても質問してみました。

畠山さんは、
「我々は管理部門であり、営業や企画、製造部門を陰で支える役割と思っています。ですから、その皆さんが働きやすくするためにどういうことができるか、を常に考えています。できる限り現場の声を聞くということを心がけていますね」

高山さんは
「企画部は新設された部署であり、これからさらに新たな顧客を開拓するのが重要なミッションです。今は手探りではあるんですが、一つ自分に決めていることとしては、「単なる否定はしない」ということ。それをするとアイディアの幅や可能性を絞ってしまうことになるので、、。
いかにそれぞれの個性を引き出しながら会社としてリリース(するに値する商品に)していくか、を皆で考えています。

と答えてくれました。それぞれの役割を全うしようとする皆さんですが、「それぞれの道は、結果的にお客さんが喜ぶことに繋がっていればいい」のだそうです。納得!

カズノコ製造現場も見せて頂きます!

さて、ここ札幌支社では商品開発に関わるお話をうかがってきましたが、そのもとになるのは、井原水産の誇る、伝統の塩カズノコ! これを主に製造する留萌本社でのお話もうかがうべく、取材陣は、銭函を後にし留萌へとむかいました。

iharasuisann21.jpgこちらが留萌出身の日下部さん
留萌本社で待っていてくれたのは、経営管理部総務課の日下部さんです。
地元の留萌出身で、札幌支社勤務の4年半をのぞいては、約20年、留萌本社で総務畑一筋といいます。
「高校3年生の秋に進路指導の先生が紹介してくれたのがこの会社でした。18歳当時は、水産と付くので魚を扱うんだろうなというくらいの知識しかなかったですね」と笑います。

まずは、看板商品の塩カズノコの製造現場を案内して頂けるとのことで、取材陣は長靴と白衣に着替えて工場へ。
一歩工場に入ってまず驚いたのは、その衛生管理の厳重さ、そして、魚の加工工場だというのに、一切匂いがないこと、でした。

清潔そのものの工場内では、スタッフの皆さんが作業の真っ最中。
日下部さんによると、カズノコはニシンからすでに取り出された状態で届くので、魚の匂いはしないのだそう。

iharasuisann18.jpgライン毎に、見事な手さばきで作業が進んでいきます
見るまに、色・カタチ・大きさによって選別されたカズノコは、機械によってほぼぴったり同じ容量づつ、カゴに分けられます。
その黄色く輝くカズノコを、スタッフさんたちが、まさに流れるような手作業で、一箱一箱、美しく仕上げていきます。ピンセットを持った手元は正確にカズノコを並べ、どんな小さなスジも見逃しません。

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会社の歴史はチャレンジの歴史

感心しつつ見学を終え、すっかり口の中が、カズノコパリポリのイメージになったところで、事務所に戻ってお話をうかがいます。
まずは、留萌でカズノコの会社を立ち上げたのは、やはりニシンが獲れたことが理由なのでしょうか?という会社の歴史から。すると日下部さんからは意外なお話が。
「創業者の井原長治が脱サラしてこの地で鮮魚出荷問屋を始めたのが1954年。その頃にはすでにニシンの水揚げ量は激減していたそうです。それでも試行錯誤し、原料を海外に求めた結果、バブルのタイミングも重なり、ピーク時には年間売上120億円を突破。ところが、バブル崩壊と長引く景気低迷で、売り上げは50億円を下回るまでに落ち込んだと聞きます」
意外にも、創業当初からチャレンジの連続だったのです。

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井原水産の企業理念には、「日本の食文化を守る」と言う言葉があります。
その土地の気候風土や生活の知恵から生まれた食文化を、後世に引き継ぐという大きな役割を果たそうという強い意志を感じます。

「カズノコは江戸時代から食べられていたっていう歴史があるみたいで、うちの主要取引先が関西なんですね。関西のお客さまってカズノコといったらヤマニ(井原水産)というくらい愛してくれているので、その文化を途絶えさせてはいけないなという思いです」と日下部さん。

しかし"食文化を守る"というのは、言うほど簡単なことではないと思うのですが、急激に落ち込んだ業績はどのように回復させてきたのか?。質問をぶつけてみました。
「難局打開に向けて2代目慶児社長が挑んだのが、天然鮭の皮から抽出したマリンコラーゲンを開発し販売することでした」。
ん?コラーゲン?? 札幌でも聞いたワードが!
「きっかけは、93年当時、道が大手企業などと行っていた動物性コラーゲンの研究から大手企業が離脱したために、弊社に研究参加の打診が来たことだったそうです。これを機に、弊社では鮭の皮を原料にした、海洋性コラーゲンの生産に乗り出しました。
折しも、狂牛病の発生により、コラーゲンの市場が動物性から海洋性へと急激にニーズがシフト。現在札幌支社として商品開発などの拠点となっているほしみ工場を新設するほどの事業へと成長していきました」

現在は役目を終えて、コラーゲン事業部は解散していますが、このチャレンジがきっと多くの人材や経験を生んだことは間違いなさそうです。

iharasuisann22.jpg留萌の道の駅にも隣接する本社の敷地にて

井原水産の働く環境について

さて、そんなとても興味深い歴史を教えて頂いたところで、今度は総務担当として人材採用に関わる日下部さんに、働く環境についてもお聞きしてみようと思います。

採用について、現在、何か課題があると思いますか?というストレートな質問をしてみると
「水産加工の仕事には、昔ながらのきつくて汚い仕事というイメージがまだあるのかな?と思っています。実際は、先程見て頂いたように完全分業制で、魚にふれる場面は無いし、工場内の温度も20度弱に保たれているので、快適なんです。だから、そうしたイメージを覆すのが課題かなと思っています」

なるほど、確かに。取材陣も実際に作業工程を見て、キツそうというイメージは完全に覆りました!
では、その他に、働き方に関する取り組みはあるかお聞きしてみると、できるだけシフトの希望に応えるようになったとの答えが。

「例えば、水木金の9~14時で、お子さんが保育園に行っている時間帯だけ働きたいなどの希望もOKにしています。日本人と結婚したベトナム人がいるんですが、その方は9~11時の2時間だけ働いてます。2時間でも戦力になりますので。
また、新しく入った方は、慣れるまでは午前中のみ勤務にして体を慣らす、などという働き方もOKにしています。こうした細かい希望に応えることで、働き手を確保したいですね。
ただ、来年からまた社会保険の条件が変わりますが、こうした制度に対応していかなければいけないのが少し大変ですね(笑)。でもそれが総務課の私の仕事なので、まだ1年猶予はあるととらえて、今のうちから準備を進めていますよ。この仕事を始めたときはほんとに何にもわからなかったですが、制度が変化する度に調べることで、いろいろな知識がつきましたね」。

iharasuisann25.JPG社員食堂では、何と1食200円で美味しい食事を提供。社員の多くが利用しているそうです
なるほど、事業だけでなく、働き方についてもフレキシブルな会社なのですね!

そんな日下部さんに、オフの過ごし方や趣味も聞いてみました。
「野球好きで、会社にソフトボール部があるので、そこで実際にプレイしてますよ。さらにサッカーも好きなので、4年に一度の大会の時期になると、レプリカユニフォームを着て応援していますね」

日下部さんの、スポーツ好きな一面が見られました。
ちなみに留萌には、男女ともソフトボールのチームがあるそうです。

さて今回、大ヒット商品「カズチー」を生み出した井原水産とは、どんな会社なのかとお話を聞きに来てみましたが、取材してみた感想としては、実に個性豊かな方たちが、ひとつの目標に向かって、しっかり同じ方向を見ているのだな~ということでした。

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そして、"カズノコをつくっている"と思っていた会社は、それだけではなく、カズノコを日本中に届け、日本の食文化を守り続けるために、常に新しいことに挑戦しているのでした。
一定の役割を果たして終了した事業もある一方で、これからまた立ち上がる部署があるかもしれません。
そうした、守るものは守り、新しいチャレンジも続けるという会社のあり方が、大ヒット商品の開発につながっているのだと知りました。
そして、畠山さんがコラーゲン事業部で入社し、高山さんがワイン事業部で入社したように、チャレンジを続けたからこそ、得た人材。これが何より大きな財産ではないでしょうか。

この先、どんな人材を得て、どんな商品が生みだされるのか。
お酒をたしなむ、いちおつまみ好きとして、これからも注目し楽しみにしていきたいと思います

井原水産株式会社
井原水産株式会社
住所

■本社/北海道留萌市船場町1丁目24
■札幌支社/北海道小樽市銭函3丁目263-23

電話

0134-62-7777(札幌支社)

URL

https://www.yamani-ihara.co.jp/


大ヒット商品「カズチー」の生まれる土壌。井原水産(株)

この記事は2021年10月5日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。