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まちおこしレポート
留萌市

住んでいるだけで健康を維持できる街。20170306

この記事は2017年3月6日に公開した情報です。

住んでいるだけで健康を維持できる街。

留萌市のこと、みなさんはご存じですか?

黄金岬、数の子の日本最大の加工地と言えば、北海道を知る多くの方が思い浮かべるまち。「留萌市」の取り組みを紹介します。
北海道の北西部の海沿いに連なる留萌管内の最大都市、漁業・水産加工を中心に栄える人口約22,000人ほどの人々が住むまち。車では高速道路から高規格道路が連結しているためアクセスもよく、札幌市からは一度も高速道路を降りることなく車で2時間ちょっと、旭川市からは1時間ほどという場所にあります。留萌の「萌」にあやかり、「萌えキャラ」ブームに乗って、地元交通会社の沿岸バス(株)さんを中心とした企業や、地元有志の方々の多くが萌え系コンテンツを発信したことで、全国の若者にも認知されたことでも知っている方が多いかもしれません。

「萌え」側のお話も気になるところではあるのですが、今回取材させていただいたのは、留萌市が策定した総合戦略(2015 年度を初年度とする今後5年間の、まちの政策目標や施策の基本的方向、具体的な施策をまとめたもの)の一部にあたる、「医療」と「移住」、そして「地域おこし協力隊」に関わるお話。北海道である唯一の認定も受けているまちですので、医療機関に従事する方、移住を検討する方、留萌出身の方、自分がお住まいのまちの方向性を考えたい方など多くの方に知っていただきたい内容です。

コホートピア構想とは?

rumoi koho-topia 06.jpg留萌市市民健康部 コホートピア推進室 竹内 学さん

「ニシン漁や貿易、そして炭鉱で栄え、かつては人口4万人ほどいた留萌市。今はその半分近い2万人ほどの市になりました。幼い頃からこのまちに住む立場としては、寂しい気持ちはありますね...。」そんなご自身が育ったまちの過去と現在、そしてこれからについて語っていただいたのは、留萌市市民健康部 コホートピア推進室 竹内 学さん。肩書きにある「コホートピア」ここに、今回のお話の全体像が含まれていました。
「コホートピア」とは造語で、「コホート=前向きな医学研究」と「ユートピア=理想郷」の組み合わせできており、留萌市の構想を表す名称として使われているそうです。

医師不足の課題から始まった取り組み

rumoi koho-topia 004.jpg留萌市立病院

冒頭のお話にもあったとおり、人口が半減した今、市政を行っていく上では財政を昔のままで行っていくわけにはいきません。多くのまちが抱えている課題のひとつでもあります。どんなにいい行政サービスを行ったとしても、赤字財政では続きませんし、そのツケは市民みなさんにかかってしまう。市長をはじめ、市役所職員は多くの市政サービスの点検を行います。そのなかで上がってきたのが、医療の問題。これもどこの市町村にも言えることかもしれませんが、病院を市で運営していく上で課題になるのが、医師不足や看護師不足です。「そんな危機的な地域医療の現状を何とかしようと、医師を含む有志たちが立ち上がり、地域の課題を地域で研究し、その果実を地域に還元する活動である『るもいコホートピア構想』を提唱しました。研究グループには、留萌市立病院の院長や外科部長のほか、札幌医科大学、旭川医科大学、北海道大学などの著名な先生にも参加いただき、多くの議論をしていだきました。研究自体もとても意義がありますし、その活動を通じて多くの医療人や研究者が留萌に足を運んで下さることで、市民の健康づくりや地域医療の確保のほか、まちの活性化につながっています。」と竹内さん。

動き出したコホート構想

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実際の研究についても伺ってみました。「例えば、『目』についての地域一体となった研究。そもそも病院に受診に行く行為というのは、なんらかの疾患が現れてから始まるものですよね?その先は診断や治療という流れになりますが、この研究については、40歳以上の市民を対象に、健康である状態からの観察を続けるということなんです。研究参加者が目の健康を維持するための手助けと、5カ年の健診データから、緑内障などの目の病気となる因子を探すことを目的として実施しています。この研究については、1,758人もの留萌市民が参加いただいています。他には、独居高齢者栄養実態調査という研究があります。留萌市内に居住する65歳以上の一人暮らしの高齢者の方についての名簿を作成し、無料健診に参加していただくことで、高齢者の身体面や環境面での生活リスクを調査研究し、ハイリスク者のバイオマーカーを検出することを目的としました。...と文字面にしてしまうととても堅いお話に聞こえてしまうのですが、つまりは、留萌市でどう生活していくと、健康で長生きして生活していけるか...というのを考えながら提案しているんです。」

─お話の最初は「研究」とか「観察」という言葉が先行して、なんだか「研究材料にされる怖さ」みたいなものを感じてしまいましたが、実際はそうではなく、まちを上げての大がかりな健康診断というイメージが近く、また市民理解も進んでいて、健康志向が高まる日本の世の中において、さらに注目が高まっていく気配を感じます。「実はこの研究は総合戦略策定前から始めていて、2017年で5年目。一区切りとして考えていたのが5年でしたが、さらに調査研究を進めるために、期間の延長を検討もしています。」市役所側からのおしつけではなく、多くの方が継続的に参加し続けていることが、期間延長につながる礎。住民参加型の事業になってきている証拠がそこにはありました。

北海道で唯一の認証。「健康の駅」

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さらに「コホート研究」だけではこのお話は終わりません。北海道で唯一の認証を受けることになった事業があります。それが「健康の駅」の設置。全国で19カ所(2017年現在)しか認証されていないうちの1つとして運営が始まっています。
「市民の方が安心して住み続けるためにも、医療を身近に感じていてもらいたい。ただ、病院にその機能を求めるのは現状では難しい。そこで『健康の駅』を設置したわけです。看護師が常に常駐し、市民の方が気軽に寄って医療従事者と交流のできる場を設けました。血圧や体組成の分析なども行えたり、健康についての講座、介護の相談から認知症予防の取り組みの発信など、健康で居続けるための施設として運営しています。もちろん市内の病院との連携もとっています。ちなみにですが、この『健康の駅』を使った民間の観光バスツアーを受け入れたこともあります。施設の利用と共に、生活習慣の改善のきっかけに減塩の食事を提供したりする内容です。市民だけが利用できる施設にはしていませんので、交流人口を増やす観光分野のひとつにもなりえるかもしれないですね。」
竹内さんのお話をうかがっていくと、『医療』のコンテンツは多くの分野に派生していく可能性を感じずにいられませんでした。

住民の健康だけでなく、医療現場での取り組み

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ただ、お話を聞いていくと大きな疑問に立ち返ります。医師不足や看護師不足の課題や、医療分野における財政圧迫を解消するために始めたのでは?

竹内さんはこう答えます。「はい、その解決に直接つながっているようには見えずらいかもしれません。ただ、このような事業を続けていくことで、より市民が健康になることを通じて、医療機関の負担が減っていくと確信しています。医療にかからなければいけない方が減れば、当然、多くの負担が解消されます。また、研究を通じた予防医療が進めば、早期発見・早期治療によって、重大な状態にならなくてすむことになりますし、経過を追えているという研究は医師の診断に関わる負担も低減でき、その結果、医師のみなさまが、定着しやすい環境・来ていただきやすい環境をつくることができるとも思っているんです。そしてさらに、これら多くの概念や事業からなるコホートピア構想のひとつとして、この問題を直接的に解決していく事業も始めました。それが、医療クラークの育成事業です。」

優秀な医療スタッフを輩出するまちとしても成長していく

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医療クラークとは、医師事務作業補助者のこと。その名称の通り、医師の方々が行う業務をサポートする役割を行うスタッフのこと。「医師の数は増えない、今いる医師の方の負担も相当なものになっている...そこを解消する手段として、サポート体制を強化することで、診察・診断という一番大切なところに力を振っていただけるのではないかと考えたわけです。まずは現在、留萌市立病院で勤務する医療クラーク15人を対象に研修を行い、質の高い医療クラークになるべく日々頑張っています。そしてそれだけにはとどまらず、留萌市の将来を考え、地域おこし協力隊の制度と組み合わせた移住者向けの未来の医療クラークを募集することになりました。地域おこし協力隊は、最長3年を限度に、地域に入り報酬を得ながら定住の道を探す国の制度。医療クラークの勉強をしながら、地域のみなさんと直接関わる活動も行うことで地元の方々を知り、より地域密着型の医療サービスにつながると考えました。また、研修を受ける費用は一切かかりませんが、生活をしていくお金がなければ移住されてくる方にはハードルの高い話です。その課題も解決するために、非常に有効な組み合わせと考えたわけです。協力隊としての任期を終えたあとは、強制するわけにはいきませんが、留萌市の医療機関に残る、地域のみなさんと関わったなかでの将来を考える、NPO法人を立ち上げる、医療クラークなどの教育を行う担当者を目指すなど、多くの未来を想定しています。また、医療クラークとしてだけでなく、その先にある『診療情報管理士』などにステップアップできる環境づくりなども考えています。こういった事業の展開に財源を振り分けていくとが、最終的には根本的な財政課題解決、医療問題の解決に繋がっていくと考えているんです。」

ついには人材の育成にまで分野が至った「コホートピア構想」を教えてくださった竹内さん。構想の根底には、留萌市の「人に対する優しさ」が本当にある気がしました。最後に竹内さんから補足として、「健康で長生きしてくださる市民が増えるということは、地域の活力が維持されることになります。そのことが結果的に、いくつになっても健康で生きがいをもって暮らせることに結びつき、いつまでも住み続けたいまちづくりにも繋がるのではないかと考えています。」

移住を考える方、Uターンを考えるみなさんへ

最後に、医療クラークを目指したい方をはじめ、留萌市に移住を考える方にメッセージをいただきました。「私が幼少のころから比べると、確かに衰退した感じは否めません。海側から栄えだした街並みも、今はどんどん海から反対側の内陸側が栄えだしてきていて、昔からは変わりました。それでも飲食店やスーパー、服飾など大型のチェーン店の出店も続き、いわゆる普通の都市生活をしていける環境は整っています。住居に関しても市営住宅を含め多くの選択肢がありますし、高校や小中学校も整備されていて、教育の問題も、待機児童の問題もありません。働き先も数多くあります。また、治安がとてもいいのも自慢のひとつです。大都会ではありませんが、不自由のない暮らしができるまちとして知って欲しいです。そして最後に、このコホートピア構想に則った、地域ぐるみで医療と健康づくりを考えるまちとして、移住候補の地として考えていただけたらとても嬉しいですね。」そう締めくくった竹内さんの柔らかな笑顔は、留萌市だけでなく、独自で解決には至れない、医療問題を同じく抱える近隣の町村にとっても、明るい未来に繋がっている─そう感じられました。

留萌市市民健康部 コホートピア推進室
留萌市市民健康部 コホートピア推進室
住所

北海道留萌市五十嵐町1丁目1-10

電話

0164-49-6060

URL

http://www.e-rumoi.jp


住んでいるだけで健康を維持できる街。

この記事は2017年2月22日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。