HOME>まちおこしレポート>人がつくり人がつなぐ、森の話。

まちおこしレポート
中標津町

人がつくり人がつなぐ、森の話。20161005

この記事は2016年10月5日に公開した情報です。

人がつくり人がつなぐ、森の話。

中標津格子状防風林

地上から眺めるとごく普通のカラマツ林。しかし中標津空港に降り立つ飛行機から望むと、それは広大な農地を縦横に区切る防風林であることが分かります。これが北海道遺産にもなっている根釧台地の格子状防風林。この巨大な森につづられている先人の英知と住民の思いを伺うために、中標津町を訪ねました。

一世紀に渡り住民と農地を守ってきた防風林

はるか明治時代。北海道開拓で取り入れられた『殖民地区画』の際に、農地や道路といっしょに造られた植林地帯が、格子状防風林。中標津町のほか別海町、標津町、標茶町にも植林され、その面積は15,700ヘクタールにも及びます。
「昭和の中期には、畑を狭くしているなどの理由で伐採されたこともあるようです。しかしそのせいで農業への風害やホワイトアウトなどが発生し、地域の人命や財産を守ってくれていることが再確認されたため、現在の形をとどめることができました」そう語るのは、中標津町役場林務係長の中川由樹さん。

nakashibetsu_bofurin_002.jpg

「格子状防風林は、先人たちが創り次代の人々が守り育ててきた宝物。そのかけがえのなさが認められ、格子状防風林は北海道遺産として認定されています。また中標津町でも町の総合発展計画の中で、その景観の保護や資源の具体的な活用をうたっているんです」

大量のカラマツの伐期を目前に控えて

森を守り育てると聞くと、真っ先に「植林」という発想が浮かびますが、実は十分な日光が当たるよう間伐したり、適性な樹齢を迎えた木を伐採することも、健全な森を育てる上ではとても大切。さらに伐り出した材木を販売し、その収益を森の保護管理に還元していくという経済循環の視点も欠かせません。
「格子状防風林の樹木は、そのほとんどが寒冷気候に強く生育も早いというカラマツ。根釧台地の防風林としては最適な樹種なのですが、その一方ヤニや曲がりなどクセの強い材木で用途も限られていました」

nakashibetsu_bofurin_003.jpg

そのため伐り出したカラマツ材は、紙の原料や農業資材などに使われることが多かったとか。
「これまではそういった利用で十分だったのですが、まもなく大量のカラマツが樹齢60年の伐期(伐採に最適な時期) を一斉に迎えます。これまでとは違った、積極的な利用が重要な課題となったわけです」

地域の官民が一体となって防風林を守る

カラマツの有効利用、それは役場だけでは解決できる課題ではありません。研究機関や民間企業が協力し合いながら解決策を見出すことが必要とされる中、2013年、多くの人々の参加で誕生したのが『中標津町地域材利用促進協議会』。進んで代表となったのは、中標津で造材造林業などを手がける株式会社ケイセイの岩野靖所長でした。
「防風林の管理を担っていたからというのもあるけれど、自分も社員も中標津の森の仕事で生きてきたからね。そこが朽ちたり荒れたりするのが耐えられなかったのさ」

nakashibetsu_bofurin_004.jpg

協議会には官庁や木材加工会社のほか、建築会社、森林組合なども参加。仕事の領域や利益を度外視し、故郷のためにカラマツ材の有効活用の道を模索します。
「まずは学校や斎場など、中標津の公共施設の建材としての利用をスタートさせました。さらに公園の木製遊具や家具などにも活用したり、メンバーが一致団結し様々な住宅メーカーなどに建材として売り込んだり」
その一方、平成25年からは役場が中心となり、地球温暖化防止に寄与する『J-クレジット制度*』の認証を獲得。町内外の企業へのセールスにも着手しました。
「一つひとつは地道な取り組みだけれど、それが積み重なれば収益が生まれ、カラマツ材利用のネットワークが広がっていきます。協議会のアプローチも最初は町内や近隣地域に向けてでしたが、メンバーのみなさんの努力もあり、道内へ、国内へと広がっていったんです」
*J-クレジット制度:防風林の間伐で得られた二酸化炭素吸収量を販売することで資金を得、その資金を健全な森林育成に役立てる公的な仕組み。

一本の木を愛しいと思う気持ちを糧に

カラマツ材の利用対策は5年の歳月を経た今、格子状防風林を守り育む大きな支えとなりつつあります。同時期に始まったJ-クレジット制度の収益も現在約190万円を達成。中標津のカラマツの取り組みは軌道に乗ったようにも映りますが、岩野所長は、まだまだ道半ば、と首を振ります。

nakashibetsu_bofurin_005.jpg

「先人たちが防風林を守り育てたように、今度は自分たちが次代へとつないでいく番。カラマツ材の利用も『今この瞬間のため』ではなく、未来を見据えた持続的なものであることが大切なんです。そしてしっかり収益を生み、それが植林や間伐や管理の費用となり、健全な森が育っていく...この循環を作ることが、私たちの取り組みの最初のゴールなんです」
こうした活動の一方、岩野所長や協議会メンバーは地元の子ども向けのオシゴト体験講座の運営にも参加。林業の未来を担う人材の育成にも尽力しています。カラマツ材の利用もお金も大切だけど、格子状防風林を継いでいく上で一番大切なのは『森を愛する人の気持ち』というのが岩野さんらの持論なのです。
「森の仕事をする人間たちは、どこか木を伐ることが嫌なんです。苗から大切に育ててきた、いわば子どもみたいなもんだから。だからしぶしぶ、心の中で手を合わせて伐るんです。何だかおかしいでしょ(笑)。でもこういう気持ち、一本の木を愛しいと思う気持ちが、あの大きな防風林を未来に継いでいく根っこになる。私たちはそう信じているんですよ」
この思いを一人でも多くの町民と共有したい。岩野所長や協議会メンバーの森の取り組みはまだまだ続きます。

nakashibetsu_bofurin_006.jpg

中標津町役場
住所

北海道標津郡中標津町丸山2丁目22番地

電話

0153-73-3111

URL

http://www.nakashibetsu.jp/

株式会社ケイセイ 中標津出張所

北海道標津郡中標津町緑ヶ丘7番地12

0153-72-3258

http://www.keisei.gr.jp/


人がつくり人がつなぐ、森の話。

この記事は2016年8月22日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。