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北海道で暮らす人・暮らし方
滝川市

洋服のつくり手が、野菜のつくり手に。20170810

洋服のつくり手が、野菜のつくり手に。

農家を継ぐために東京から帰ってきた

滝川の稲作農家に生まれ育った中野恵介さんは、札幌の服飾専門学校に進み、デザイナーを夢見て東京へと飛び出しました。まず、自分の居場所として選んだのが、2004年に廃校となった中学校校舎を再生した複合施設「世田谷ものづくり学校」。あらゆる業種のオフィスやアトリエ、ショップが集まり、ものづくり体験の場や地域のコミュニティ空間として、クリエイターや地域住民、企業、学生たちが交流する場でした。その2期目の入居者となり、オートクチュールデザイナーとしての道を歩み始めました。

nakano f004.jpg東京で手掛けていたブランド「ROCKER AND HOOKER 」を紹介するマガジン撮影

nakano f003.jpg世田谷ものづくり学校で行っていた洋服づくりのワークショップ

「自分でデザインし、縫製もして、販売する。ほんとに糸1本にこだわって洋服を作っていました」と恵介さん。その後、渋谷に進出し、寝る間も惜しんで洋服づくりに没頭していましたが、ある日、恵介さんの中に「田舎に戻りたい」という気持ちが芽生えました。理由は自分でもわかりません。ただ、「浮ついた気持ちを抱えながらミシンを踏む自分が許せなくなった。大量生産の既製服ではなく、オーダーメイドだったので、それなりの覚悟を持って続けていた。だから余計に、このままじゃお客さんに失礼だと感じた」と言います。

B.jpg一面に広がる菜の花畑

妻の恵美さんを連れてUターンしてきたのは2014年。「なかのふぁ~む」の中野義治さんといえば、滝川では知らない人はいないほど、この地に菜種栽培を復活させた先駆者です。5月下旬になると、一面に咲く菜の花畑を楽しみに全道各地から観光客が訪れ、市内全体の作付面積は日本一を誇ります。そんな父親の後を継ぐプレッシャーはなかったのでしょうか。「洋服づくりも、野菜づくりも、楽しいから始めただけ。僕は日本一をめざすつもりは、まったくない。父のこだわりは、有機農法による土づくり。見習いたいのは、どんな作業も一つ一つ丁寧で、何を栽培しても品質が高いこと。まだ3年目だから失敗ばかりだけど、すべて自分の判断で作れるようになりたい」と抱負を語ってくれました。

nakano f7.JPG「新しいことを始めるよりも、いまやっていることの精度を上げたい」と中野恵介さん

nakano f3.JPG「生活を支えているのは、やっぱりお米。ゆくゆくは父の稲作の技術を身につけたい」

滝川に来て価値観がまったく変わった

nakano f12.JPG東京の友達には「うらやましい」と言われることが多いと恵美さん

恵美さんは岡山で生まれ育ち、20歳のときに東京に出て、14年間ニットデザイナーとして働いていました。生活のリズムも環境もまったく変わることに、不安や抵抗はなかったのでしょうか。「楽しいですよ。もともとものづくりが好きなので、野菜も同じ。私にとっては洋服づくりの延長線にある感じ」と、屈託なく笑う恵美さん。最も驚いたのが、雪の存在。「半年仕事をしないという北国の農業サイクルにびっくり」と、11月中旬に冬支度を終えると、2月中旬までスキーのレンタル会社に勤めています。

滝川に来てから、恵美さんの中で大きく変わったのは価値観。「物欲がなくなりました。東京にいたときは、10万円の靴が普通で、洋服や身に着けるものにものすごくお金を使っていたけれど。いま欲しいのは、直売所のお客さんが心地よく野菜を選べるカゴかな。木製のテーブルとか、空間を演出するためのものとか。ゆとりができたら、もう少し人が気軽に集まれる、作品を展示するギャラリーのようなものをやりたいですね」

昨年から、若夫婦は野菜の並ばない直売所「うちの畑」を始めました。毎週土曜か日曜日に開き、お客さんが畑から自分で好きな野菜を収穫して購入するシステム。「パクチー、ロメインレタス、ロマネスコ、空心菜とか、この辺のスーパ―には置いてないような無農薬野菜を少量ずつ40~50種くらい。採れたてのおいしさを知ってほしいし、食べ方もWEBでこまめに発信するようにしています」。旬の野菜で「おまかせパック」を作り、東京へも発送し、その評判は口コミで広がっています。

nakano f11 insta.png直売所の概念を打ち破る、自分で野菜を収穫する「うちの畑」。

nakano f4.JPG立派に育ったロメインレタス。大量生産しないから、農薬も必要ない

nakano f002.jpg新鮮なパクチーが決め手の焼きおにぎり

親父がやめても僕らは続ける

nakano f2.JPG「表情かたいねぇ...」と、恵美さんをほぐす恵介さん

「なかのふぁ~む」が農業の魅力を伝えるためにファームステイを受け入れたのは、恵介さんが中学生だった20年ほど前から。「本当は嫌だったと思いますよ。同じ年頃の見知らぬ子どもたちが、家で寝泊まりするわけですから」と母親の美規子さん。それでも、食べるものを作るという仕事はどんなことなのか、少しでも農業のことを知ってほしくて中高生の農業体験を続けてきました。

しかし、最近は農業体験とラフティングや旭山動物園と組み合わせて、観光ツアー並みのスケジュールで希望する学校が増えてきました。美規子さんは「私たちも本来の農業の姿を伝えたいけれど、近年は真っ白なスニーカーで子どもたちが来たり、先生は体験せずホテルに宿泊したり。そろそろやめどきかなぁ...と考えていたら、息子夫婦が続けたいと言い出しました」。5月23日の取材日も、大阪の星翔高校から4人の生徒が農業体験にやって来ました。他の生徒も何班かに分かれて、市内や近郊市町村の農家で体験学習をします。

恵介さんは「お金を稼ぐためだけにやっているわけではない。手を抜かない姿勢だとか、こだわりだとか、ものづくりの基本ですよね。道楽じゃないから、農作物を商品にしなければならないけれど。一方で、生きるということに向き合うわけだから」と、しっかり親の背中を見て育ったようです。さて、大阪からの4人は、どんなことを畑の中で感じ、学び取るのでしょうか。10年後も、20年後も楽しみな「なかのふぁ~む」でした。

nakano f6.JPG「北海道は初めて?」「何か食べられないものある?」まずは生徒たちと仲良くなることから

nakano f8.JPG「今日植えるのはポップコーン用のトウモロコシ。このくらい間隔をあけて3粒ずつまくんだよ」

なかのふぁ~む
住所

北海道滝川市北滝の川754番地

電話

0125-24-5167

URL

http://keisukenakano.com/

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洋服のつくり手が、野菜のつくり手に。

この記事は2017年5月23日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。