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人とアートをむすぶ、学芸員という仕事。20170515

人とアートをむすぶ、学芸員という仕事。

迎えてくれたのは鯉のぼり

「私がはじめて共和町に来たのは、今から20年ほど前。季節は春。町のあちこちで、広い田畑の上を、気持ちよさそうに鯉のぼりが泳いでいた光景をよく覚えています」
そう、外の景色に目を向けて懐かしそうに話してくれたのは、共和町の西村計雄記念美術館で学芸員として働く磯崎亜矢子さん。磯崎さんは同町で美術館設立が決まった際に、学芸員として採用されて札幌から移住。以来約20年間、美術館を支える中心人物として活躍しています。

美術館通いから学芸員を志望

子どものころから絵が好きだったという磯崎さん。高校時代は美術部に在籍し、特にデザインに関心を持っていました。大学の美術科へ進学を目指していた浪人時代に、頻繁に美術館に通い、その中で学芸員という仕事に興味を持つようになりました。
「当時、全国各地の美術館に個性的な活動を行う学芸員が現れ始め、特に現代美術の分野で、それまでの美術館のイメージを打ち破るようなワークショップを次々に実施して、話題になっていたんです」
『モノの新しい見方』を提示したり、異分野のアーティストがコラボレートすることも多い現代美術。学芸員になれば色々な分野の人々と一緒に仕事ができるのではと磯崎さんは考えました。

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美術館教育って、どんなもの?

大学入学後に学芸員の資格を取得。専門は美術館教育だったそう。ん?美術館教育?あまり聞き慣れない言葉ですが...。
「1980年代の後半ごろから、美術館を一部の特別な人達のためのものではなく、もっと開かれた場にしようという動きが出てきて、その中で美術館を子どもたちの教育や生涯学習に活用していこうという機運が高まりました。美術館教育っていうのは、美術館で実施する教育普及活動のことです。欧米では、『エデュケーター(教育普及員)』という専門職もあります」

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突如舞い込んだ学芸員の仕事

大学卒業後は学芸員になることを夢見ていた磯崎さんですが、学芸員は人気職業であり、さらに職場となる美術館、博物館の数は限られているので、仕事に就くのはなかなか困難。実際、磯崎さんも希望していた札幌での就職は叶わず、大学卒業後は編集プロダクションで働いていました。
しかし、そこでの勤務が一年を過ぎるころ、磯崎さんのもとにうれしい知らせが舞い込みます。
「共和町に新しく美術館がオープンすることになり、学芸員を探しているという話をいただいんたんです」
そのころ共和町では、故郷の画家・西村計雄の美術館を設立しようと、役場内に準備室を設置。そこで働いてくれる学芸員を求める中、道内美術関係者からの紹介で磯崎さんに白羽の矢が立ったというわけです。
「学芸員になれるならぜひと、二つ返事でお引き受けしました」

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野菜はお店で買わなくていいくらいもらえます(笑)

学芸員の話をもらうまで共和町のことはほとんど知らなかったと言う磯崎さん。札幌から移り住んだ当時の印象ってどうでした?
「最初に目に飛び込んできた鯉のぼりはやっぱり印象的でしたね。実際暮らしてみた感じは、のんびりとしていてとても良い街だなと思いました。車があればそれほど不便は感じないし、ご近所の方からたくさんいただくので、野菜は買わなくていいし(笑)。山も海も近くて温泉もある。こっちに来てからは山登りが趣味になりました」

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5000点を超える遺作の寄贈にうれしい悲鳴

ところで学芸員という仕事について、みなさんはどんなイメージを持っているでしょう?その仕事は資料の収集、整理、展示。作家についての調査、研究など多岐にわたり、来館者に作品の解説を行ったり、作品を紹介する原稿執筆なども仕事に含まれます。
設立準備室の職員だった時代から数えると、ほぼ20年間(19年)、美術館の運営に携わっている磯崎さん。これまでで特に印象深い出来事はなんだったのでしょう?
「一番は遺作の受け入れですね。開館当時の作品数は100点ほどだったのですが、西村先生の死後、ご遺族から5000点を超える作品が一度に寄贈されたんです。東京のアトリエからここまで輸送するだけでも大変でしたし、作品を整理、分類するのにも相当な時間がかかりました」

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美術を通じた学びがあると伝えたい

美術館では磯崎さんを中心に、地域の人々のアートを身近に感じてもらう、トライアートという取り組みを開館当時より継続しています。油絵教室や手づくり凧揚げ、和菓子づくり体験など多彩なプログラムを用意し、絵画を鑑賞するだけでない、美術館の楽しみ方を提唱しています。
「例えば、作品をじっくり見て、何が描かれているのか語り合いながら、作品の意味をつくりあげていくプログラムがあります。その過程では、目に見えることから推理し、判断し、言語で表現し、理論的に伝えるといったさまざまな力が使われています。こうしたスキルは美術に限らず、社会生活全般で求められるもの。美術は実学ではないと考える人も多いですが、美術鑑賞を通じてこうした能力の発達に働きかけることができると知ってほしいんです。しかも、ここに来ればホンモノの作品でそうしたトレーニングが出来ます」

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美術館の思い出を記憶にとどめてほしい

トライアートなどの取り組みをきっかけに、地域の子どもたちにとって身近な存在となっている西村計雄記念美術館。
「子どものころからここで絵を見たり遊んだりする経験をたくさんして、美術館や美術作品と親しむ技術を身に付けてもらえたらうれしいですね。西村先生がパリで夢をかなえたように、子どもたちもいつかこの町を離れていってしまうかもしれません。でも、その技術は、いつでもどこでも使えて、きっと、人生の楽しみがひとつ増えます」。磯崎さんは優しい眼差しで語ってくれました。

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関連動画

西村計雄記念美術館
住所

北海道岩内郡共和町南幌似143-2

電話

0135-71-2525

URL

http://www.musee-nishimura.jp/


人とアートをむすぶ、学芸員という仕事。

この記事は2017年3月24日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。