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室蘭市

西胆振で唯一の家紋を描く上絵師20170321

西胆振で唯一の家紋を描く上絵師

アルバイトしながら伝統を守り続ける今野孝之さん

家紋と言えば、時代劇でおなじみの「葵紋」や「桐紋」を思い浮かべる人が多いでしょうか。室蘭市で3代続く柏屋今野紋章店を営む今野孝之さんは、着物などに家紋を入れる上絵師(うわえし)。西胆振では唯一、道内でも20人いない職人です。伝統文化を重んじる地域に比べて、着物を着る機会の少ない北海道ですが、平安時代から始まった家紋の歴史や職人技をなんとか残そうと、看板を守り続けています。「いまの時代、上絵師だけでは食べていけませんから」と、北海道新聞社の受付で週2日勤務のアルバイトをしながら筆を握ります。

konnomonsyo7.jpg「桐」や「木瓜」の家紋が多い室蘭。この家紋帳があれば、ほとんどの家紋を描くことができます

家業を継ぐことに抵抗はなかった

明治初期、小樽で馬喰(ばくろう/牛馬の売買や仲介業)をしていた初代から数えると今野さんは5代目。南小樽で上絵師の修業をしていた祖父が「仕事開きをするなら、これから上がり坂の室蘭がよさそうだ」と移り住み、大町(現・中央町)に紋章店を開業したのが大正12年頃。当時の室蘭は、夕張や空知の炭鉱から石炭を運ぶ室蘭線が開通し、石炭の積み出し港として、製鉄のまちとして、飛躍的に発展を見せていた時代です。

祖父と父が上絵師として、母が刺繍師として働き、物心がつく前から家紋帳を見て育った今野さん。「子どもの頃は仕事場にあまり入れてもらえなかった。弁償できないくらい高価な反物を預かっていましたから。小学生のとき、劇場の緞帳に会社名を入れるために、色紙を切り抜く手伝いをしたくらいかな」と、幼い頃の記憶をたどります。

konnomonsyo2.jpg祖父の代から使っている上絵師の道具。「この竹製のコンパスみたいな道具に付いている筆は、摩耗に強いネズミの髭を芯にしているので、細い線が描けるんです」

「親父はこの仕事が嫌で、何度も逃げ出したらしいですけれど。私は商科大学に進学しましたが、もともとデザインに興味がありました。中学時代、通信教育でレタリングを勉強するくらい、細かい仕事に抵抗はなかった」と今野さん。家業を継ごうと東京から戻った40年前も、商売は繁盛していました。呉服を扱う丸井今井デパートや金市館があり、中央町だけでも呉服店が10軒もあったといいます。

「室蘭は沢ごとに企業城下町がある。白鳥大橋の近くには函館どつくや楢崎製作所、母恋や御前水には日本製鋼所、御崎、輪西、中島には新日鐵住金。この辺は栗林商会があり、いろいろな職人が暮らす地域でした。室蘭が「ものづくりのまち」として発展した理由は、山の急斜面が海岸に迫り、農地には不向きだった地形にあるといわれています。

konnomonsyo3.jpg「下絵を描いているときが、いちばん楽しい」という今野さん。最近は、紋を入れなおす書き換えの仕事が多いそうです

「手加減」が仕上がりを左右する

喪服や晴れの日に着る留袖、色無地などに「家紋」を入れるのが上絵師の主な仕事。背中、両袖裏、両胸に、5つ紋を入れるのが基本です。呉服店から注文が入ると、紋を入れるために白く丸く抜いた「石持(こくもち)」のある反物が届きます。家紋帳には5千種類ほどの紋を掲載していますが、一般的によく使われるのは200程度。北海道の場合、いろいろな地域から移住しているので種類も多くて大変と思いきや、意外と「家紋がわからない人」が多く、無難な「桐紋」や好みの紋を選ぶ傾向にあるそうです。

konnomonsyo4.jpg色を差すとき、薄い色から少しずつ重ねていくと奥行きが出ます

家紋を入れる作業は精巧で、まず筆やコンパスのような「ぶん回しを使って紋の下絵を描き、この下絵通りに小刀で型紙を彫ります。型紙を石持に当て、家紋の際と着物がなじむように刷毛で色を摺りこみ、最後に紋の細かい模様「蕊(しべ)」を筆で描きます。「たとえば、縮緬のように柔らかい生地の場合、同じように直線を描いても、織りの状態で同じ太さや濃さに見えないことがある。そこを手加減で調整するのが、職人技のひとつ。上絵師に流派はないけれど、やはり技術の差は出るんです。

konnomonsyo5.jpg「このウロコの横と先のアールをぴったり合わせるように、ぶん回しで描くのが難しい」その技を見せたくて、展示用に龍を描きました

職人なので「作品」は残らないけれど

下絵師の仕事は、反物が着物として完成するまでの工程のひとつ。呉服店で客が選んだ反物は、縮まぬよう湯通しされ、紋が必要な場合は上絵師を経て、仕立て職人の手に渡り、納品されます。完全な分業ですが、今野さんは上絵師として仕立ての知識も必要だと考えます。「たとえば、背中の紋は衿付けから1寸5分下に入れるのが決まり。ただ、芸者さんなどは、うなじを見せるように衣紋を抜くでしょ。この場合、紋を少し上げなければバランスが悪く見えるので、1寸~1寸2分くらいに収めます」と、袖を通す姿まで想像します。

「作家ではないので、私たちの仕事は作品として手元に残るわけではありません。着物を着る人も少なくなりました。それでも、なんとか技術を伝えたくて」と、年に1度、道の駅「みたら室蘭」で地元の職人仲間と一緒に展示会を開いています。今野さんは、仕事ではほとんど注文されない華やかで装飾的な「加賀紋」などを展示会用に描き、還暦を過ぎても道内最年少という上絵師の腕を磨いています。

柏屋今野紋章店
住所

北海道室蘭市常盤6-26

電話

0143-22-6339

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西胆振で唯一の家紋を描く上絵師

この記事は2017年1月22日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。